異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
167 / 362

百六十七話

しおりを挟む
 ファルゴの瞳孔が、爬虫類のごとく細身を帯びたように見えた。
 狩猟者の眼が主張するのは、獲物をどう狩ろうかと吟味している様子。
 ブラフなどではない。彼の言葉は絶対であり、思考を現実化する悪魔の言語だ。
 そんなシオンの悪魔が、バージェニルに予告する。

「アイツは俺の手で仕留めてやる!」

 あまりにも直球な宣言に、バージェニルは言葉を詰まらせていた。
 悪意や私怨よりも、ファルゴには純真すぎるほどの闘争本能が感じられた。
 暴力で物事を解決しようとする性質を理解できないバージェニルだが……何かを成し遂げようとする揺るがない意思には、共感できなくもない。

「ふぁ、ふぁるご様ぁぁあ――――!」
 おびただしい鼻血を垂れ流しながら、バミューダが身体を起こした。
 その顔には、今までのような甘さ、緩さは消え、代わりに起死回生の求める気迫で満ちている。

「あん。まだ、何かあんのか? ドラム缶野郎」

「ドラム缶などではありません! 生徒会長のバミューダです。 私は貴方のしもべなどではなぁーい! 私が崇拝するのは……成熟のオカン、ただ一人のみ。それだけで、心は満たされるのでぇーす」

「気持ちワリィこと言ってんじゃねぇ―――!!」

 問答無用の足蹴りがバミューダの額に直撃した。

「ああ……あっ……ふぅん」
 苦痛なのか、興奮なのか? 分からない悲鳴をあげて悶絶している。
 およそ、自身の美学とは、かけはなれた生徒会長の言動には、バージェニルも軽蔑の眼差しを向けるしかなかった。

「まただ……またその眼だ。思えば、キンダーガトゥーンの頃から同年代の奴らは私に好奇な眼を向けてきた。この性癖のどこがおかしいのだ!? 母を求めて三千里も歩いた少年だっていたというではないか? 私の崇高な思いが伝わらぬ愚者どもよ。親愛の力を思い知るがいい!」

「まったく……何を葛藤しているのか? ちっとも、見えてこないわ」

「ふはっ、劣等感の塊という奴だ。ミリムス、巻き添えを喰らいたくなければ安全な場所にでも隠れていろよ」

「お言葉ですけど、こう見えても体術にはそれなりの覚えがありますわ!」

 わざと淑女のように上品ぶるバージェニル。
 隣に並ぶ、ファルゴが横目を向けて微笑したかと思うと、その腕で彼女を突き飛ばした。
 刹那、岩の塊のようなものが、視界に飛び込んでくる。
 自然に発生したものではない……それはバミューダの魔法によって生成された物質だ。
 そのままファルゴに覆い被さるように抱きつくと、建屋の壁を勢いよく打ち抜いた。

 パラパラと塵が舞う。壁には大穴が空いて外の様子が丸わかりだ。

「まさか! 庇ったというの、この私を……」
 一人、取り残されたバージェニルは少しの間、呆けていた。
 しかし、すぐに雑念を捨て彼らの後を追う。

 駆けだした先に、ファルゴの姿があった。
 彼だけではない……向かい合うように等身大のゴーレムが立っている。
 ぎこちなく手足を動かす、その正体は石ころで全身を着飾ったバミューダ自身だ。

 額に刻まれたmの紋様以外には特段、目立ったところはない。
 むしろ、顔部分はさらしたまま、まんまバミューダである。
 インパクトの凄惨さに、他のところにまで気が回らない。

「どうです? 美しいでしょう、これぞゴーレムと渾然一体となった生徒会長。マザーゴーレム、バミューダの爆誕です!」

 何を思い違いをしたのか? バミューダが得意気になって色々なポーズを取っていた。
 間違った意味で視線を釘付けにしてくるから目のやり場に困る。
 自信の雄姿を見せつけているつもりだが、逆に鬱陶うっとうしいこと、このうえない。
 バージェニルは、軽くため息をつくと、詠唱を開始した。

「その剣は、混沌も斬り裂く虚無の虜。次元を隔て存在するは、真実と虚飾で刀身を染めた悪夢の象徴。然りと言わば否と語り、織りなすは狂狼きょうろうの宴。解き放て! 月牙の大輪、ヒュプノクライシス!!」

「はっ? おははっはあはん。何ですか? この三日月の群れは……」

 マザーゴーレムの本体に、魔法から作りだされた無数の曲刀が突き刺さってゆく。
 バミューダに抵抗する間も与えず、弓なりのそれらは、次々に飛び交いゴーレムを斬り裂き続ける。
 身を屈めて防戦一方となる生徒会長。
 ヒュプノクライシスの攻撃を凌いだところで、更なる追い打ちがやってきた。

「バミューダ、テメェはこの舞台には相応しくねぇ! さっさと退場しろや、アーカイバァ・ブラキオ!」

 電光石火、同時に練り上げた練功と魔力が、ファルゴの脚部から一気に解放される。
 もはや、それは爆破に近い威力だった。
 眼で捉えるのも困難な速度で飛ぶ回し蹴りが、頑強なゴーレムの頭部を容易く破壊した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...