異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百六十六話

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 虎の尾を踏むとは、まさにこのことだった。
 答える、答えないに関わらず、ファルゴの怒りがおさまる気配はない。

 一つは手下に嘘をつかれたこと。
 もう一つは、バミューダたちの取り引き相手がの息がかかった者であること。
 これらが、ファルゴにとっては不愉快でしかたなかった。

 暗殺機関ワイズメルシオンの創設者である父……とはいってもファルゴの実父などではない。
 父とは、通り名やコードネームのようなものであり、誰一人としてその本名を知るはいない。
 彼の素性を知っている者は、暗殺機関の施設によく足を運んでいた、二人の男たちだけになる。

 うち、一人が祖父のガルベナールである。
 ガルベナールは、宰相となる以前から悪の種デビルシードの研究に巨額を投じていた。
 何が、祖父を狂わせてしまったのか? ファルゴは知らない。
 頻繁ひんぱんに呟いていた、神に討ち勝つための力。
 それだけを求めて、当時、外交官だった彼は、他国とのコネクションを秘密裏に築きあげてきた。

 その集大成がファルゴを含む十人のネームド。
 シオン賢者と呼ばれる殺人集団であった。

 彼らの舞台は、様々である……個体により得意とする分野が違うからだ。

 情報収集をする者。
 罠を使用する者。
 暗殺者として活躍する者。
 戦術を駆使する者。

 といくつか、分かれている。
 ファルゴに用意された舞台は戦地、紛争地帯のど真ん中だった。
 ウィナーズカースは、強襲特化タイプの能力であり、実戦を踏まえて段階的に性能テストを行う……はずだった。
 最初から適性の高いファルゴは、創造主の予想を遥かに上回る、結果を残した。

 半日も経たないうちに、戦場にいた軍隊をすべて壊滅させてしまった。
 敵軍だけ討ち取る予定が、味方までも始末してしまう有り様だった。

 悪の種がもたらす壮絶なる力に魅入られた大人たちは、ファルゴを殺戮の天才ともてはやした。
 周囲が盛り上がる中で、当の本人はうんざりしていた。
 ファルゴが求めていたのは、純粋に力と力の対立。
 いくら弱者相手だとはいえ、無益な戦闘は、過度のストレスとして支障をきたしてきた。

 祖父の手前、我慢はしても、不満は増すばかりだった。
 特に父との関係は最悪そのものだ。
 ファルゴが父の指示に従ったことは一度たりともない。
 自身の手は一切汚さず、他者を顎でこき使うことしか、考えていないゲス野郎。
 その鼻持ちならない態度に、ファルゴは業を煮やしていた。
 今でも顔を思い出す度に、どす黒い感情が芽生えてくる。
 過去に一度、ワイズメルシオンが解体された時に、完全に関係を絶ったと思っていた裏切り者が、未だに何食わぬ様でチョッカイをかけてくる。
 憎悪しか湧かない相手との因縁が、ファルゴの感情を大きく揺さぶっていた。

「お止めなさい、それ以上は死んでしまうわ」

 怒り狂った自身とは対照的に冷静沈着なバージェニルが待ったをかけた。
 我に返ると顔をボコボコに腫らしたバミューダをつかみ上げていた。

「ちっ、外野のせいでシラケちまった。 女、何者だ? テメェ」

「一年、トップクラスのバージェニル・ミリムスよ」

「ああ、思い出した。没落貴族の娘か! そんで、お嬢様が何故こんな所にいるんだ?」

 バミューダを投げ捨てて、ガッシリとした体躯を近づけてくるファルゴは明らかに愉しんでいた。
 家柄を侮辱されたバージェニルが、唇を噛みしめながら睨んでくる。
 怒りと恥ずかしさを併せ持った表情が、サディストの心をたまらなくそそる。

「……目的は貴方と変わらないと思うケド、生徒会からキンバリー先生を取り戻しにきたの」

「その情報を知っているということは、やはりテメエもあの小僧の仲間か?」

「小僧? ひょっとして、ギデのことかしら。確かに、犯人を突き止めたのは彼だけど……それが、どうかしたの?」

「クククッ、そうか。お嬢様は、俺たちのことについてはノータッチというわけか」

 意味深な発言をしながら、ファルゴが肩で笑う。
 自分だけ蚊帳の外に置かれている。そのことがバージェニルの胸を絞めつけている。

 別に、全部を知りたいわけではなかった。
 人それぞれ事情があることはバージェニルも理解はしている。
 それでも尚、胸のつっかえが取れないのは、ファルゴの突き刺すように鋭い眼光のせいだ。
 その眼は、自分に向けられたものではなく、背後にあるギデという存在を注視していた。
 他者からオマケのような扱いを受け、快く感じる者などそうはいない。

「消えろ……俺の考えが変わらないうちに、ここを去るのなら見逃してやる」

「ずいぶんと身勝手な言いぐさね……出ていくのは貴方の方よ! じきに、彼もここに来るわ」

「そうだな、でなければ困るぞ。時間稼ぎのペットに苦戦しているようでは話にもならんからな」
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