異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
165 / 362

百六十五話

しおりを挟む
 悪態をついたのも一時いっとき、突然、バミューダの顔面が蒼白くなった。
 この世の絶望でも眺めているかのような視線の先を、バージェニルが追う。
 物陰から伸びた人影が揺らめいていた。
 カツカツと、床に響く足音が次第に明瞭となってくる。

 殺気混じりの威圧感と、覇者のような風格を漂わせ彼は戻ってきた。
 予期せぬ不幸にバミューダは勿論のこと、その場に居合わせたバージェニルですら、その姿を見た瞬間、息が詰まり窒息しそうになった。

 ファルゴ・エンブリオンの復活、破壊と暴力の権化が涼しい顔をしながら現れた。
 完全に不意をつかれた生徒会長は、立つこともままならず、ゲストを前にして四つん這いになっていた。

「よう、バミューダ。俺抜きで、ずいぶんと賑やかじゃねぇか?」

「り、リーダー……いえ、ファルゴ様~! ご無事で何よりです」

「はっ! その口は、調子の良いことばかりほざきやがるな。テメェ―、俺に黙って何を企んでやがった!?」

「ハヒヒヒィィイ!! 企むなんてそんな……私はただ生徒会のことを考えて動いただけなのですぅぅぅ」

「辞世の句はそれで良いのか? 理由なんざ、聞いてねぇ。俺が知りたいのは目的だ。それすら答えないつもりならテメェ―はもう用済みだ!」

 ファルゴの詰問にバミューダはたじろぐばかりで答えようとはしない。
 上級者、下級生といった間柄は、以前からこの二人には存在しない。
 バミューダは生徒会長でありながらも、ファルゴの実力を恐れていた。
 出会って、三秒でシバかれた時から、この男は他者とは別格の存在であるという認識を持って接していた。

 そんな彼が頑なに説明を拒むのには、それなりの理由がある。
 バミューダが生徒会役員を引き連れて、犯罪に手を染めたのは、あまりにもどうしようもないことが原因だ。
 それこそ迂闊に口を滑らせれば、ファルゴに八つ裂きにされる程度には酷い内容だ。

「お、お答できません……ですが、ファルゴ様を裏切るつもりは」

 胸倉をつかまれたまま、ファルゴは懸命に訴えた。
 だが、相手が相手だ。それで通じ合えるのなら、生徒会長も苦労はしないだろう。
「なら、死ね」という一喝とともに、強烈な一撃が頬にめり込んでくる。
 意識が途切れそうになる最中、バミューダは語ることのできない過去を思い返していた。

 *

 ――――よくある金銭面でのトラブル。

 本年度の生徒会予算が決定したその日、バミューダたちの運命は一変した。
 生徒会予算を含む、金銭の管理は、これまで会計であるフローレンスに一任されてきた。
 彼女が、卒なくやり繰りしてくれるおかげで、予算オーバーしたことは今までにない。
 何の苦労することもなく、生徒会役員の仕事に従事するだけだった。

「予算の管理など容易だ」
 家柄も良く、恵まれた環境で育った生徒会の役員三人は、予算管理など仕事の片手間にできることだと思い上がっていた。
 その思い込みで彼らは会計であるフローレンスを通さずに、予算を勝手に見積ってしまった。
 結果は最悪どころか、生徒会の崩壊すら薄っすら見えてくるほど無謀なプランが出来上がった。
 三人がしてきたことは、経費が必要とされるものに適当な金額を割り振るだけの作業である。
 さらに、わざと予算が余るように仕向け、残った金銭は中抜き、自分の懐にしまい着服してしまった。

 あまつさえ、ずさんな管理の上に、無駄な出費のせいで当然、資金が枯渇する。
 経理のフローレンスが彼らの失態をホローしようと奮闘したが、大きく差異が生じた中で事態を正常化させるには、不足分の資金を調達する必要があった。

「端的に申しますと、自分は予算に手をつけるべきではなかったと思います。教員や一般生徒たちにバレたら。即刻アウトです」

「はぁ? 何をいまさら、真面目ぶってんのかなぁ~。危ない橋だってのは、プロタリコルきゅんも最初からわかっていたよねぇー」

「ちょいと、君たち。喧嘩などしている暇などありませんよ。資金が足りないのなら、稼ぐまでですよ~。丁度、私のコネで良い仕事が見つかりました!」

 メンバーを宥めながら、制服のポケットから紙切れを取り出して見せる。
 そこに記載されていたのは、依頼内容と法外な報酬額だった。
 バミューダが取ってきた仕事は、裏稼業と呼ばれる非合法なものだった。
 その中で学校と関連が高そうなもの選んだ。

 最初は、些細なものだった……学校に届けられた棺桶を受け取り偽物と入れ替えるだけの簡単な仕事だった。
 まさか、それがキンバリーの遺体を奪取することになろうとは、バミューダたちも思ってもみなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...