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百六十五話

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 悪態をついたのも一時いっとき、突然、バミューダの顔面が蒼白くなった。
 この世の絶望でも眺めているかのような視線の先を、バージェニルが追う。
 物陰から伸びた人影が揺らめいていた。
 カツカツと、床に響く足音が次第に明瞭となってくる。

 殺気混じりの威圧感と、覇者のような風格を漂わせ彼は戻ってきた。
 予期せぬ不幸にバミューダは勿論のこと、その場に居合わせたバージェニルですら、その姿を見た瞬間、息が詰まり窒息しそうになった。

 ファルゴ・エンブリオンの復活、破壊と暴力の権化が涼しい顔をしながら現れた。
 完全に不意をつかれた生徒会長は、立つこともままならず、ゲストを前にして四つん這いになっていた。

「よう、バミューダ。俺抜きで、ずいぶんと賑やかじゃねぇか?」

「り、リーダー……いえ、ファルゴ様~! ご無事で何よりです」

「はっ! その口は、調子の良いことばかりほざきやがるな。テメェ―、俺に黙って何を企んでやがった!?」

「ハヒヒヒィィイ!! 企むなんてそんな……私はただ生徒会のことを考えて動いただけなのですぅぅぅ」

「辞世の句はそれで良いのか? 理由なんざ、聞いてねぇ。俺が知りたいのは目的だ。それすら答えないつもりならテメェ―はもう用済みだ!」

 ファルゴの詰問にバミューダはたじろぐばかりで答えようとはしない。
 上級者、下級生といった間柄は、以前からこの二人には存在しない。
 バミューダは生徒会長でありながらも、ファルゴの実力を恐れていた。
 出会って、三秒でシバかれた時から、この男は他者とは別格の存在であるという認識を持って接していた。

 そんな彼が頑なに説明を拒むのには、それなりの理由がある。
 バミューダが生徒会役員を引き連れて、犯罪に手を染めたのは、あまりにもどうしようもないことが原因だ。
 それこそ迂闊に口を滑らせれば、ファルゴに八つ裂きにされる程度には酷い内容だ。

「お、お答できません……ですが、ファルゴ様を裏切るつもりは」

 胸倉をつかまれたまま、ファルゴは懸命に訴えた。
 だが、相手が相手だ。それで通じ合えるのなら、生徒会長も苦労はしないだろう。
「なら、死ね」という一喝とともに、強烈な一撃が頬にめり込んでくる。
 意識が途切れそうになる最中、バミューダは語ることのできない過去を思い返していた。

 *

 ――――よくある金銭面でのトラブル。

 本年度の生徒会予算が決定したその日、バミューダたちの運命は一変した。
 生徒会予算を含む、金銭の管理は、これまで会計であるフローレンスに一任されてきた。
 彼女が、卒なくやり繰りしてくれるおかげで、予算オーバーしたことは今までにない。
 何の苦労することもなく、生徒会役員の仕事に従事するだけだった。

「予算の管理など容易だ」
 家柄も良く、恵まれた環境で育った生徒会の役員三人は、予算管理など仕事の片手間にできることだと思い上がっていた。
 その思い込みで彼らは会計であるフローレンスを通さずに、予算を勝手に見積ってしまった。
 結果は最悪どころか、生徒会の崩壊すら薄っすら見えてくるほど無謀なプランが出来上がった。
 三人がしてきたことは、経費が必要とされるものに適当な金額を割り振るだけの作業である。
 さらに、わざと予算が余るように仕向け、残った金銭は中抜き、自分の懐にしまい着服してしまった。

 あまつさえ、ずさんな管理の上に、無駄な出費のせいで当然、資金が枯渇する。
 経理のフローレンスが彼らの失態をホローしようと奮闘したが、大きく差異が生じた中で事態を正常化させるには、不足分の資金を調達する必要があった。

「端的に申しますと、自分は予算に手をつけるべきではなかったと思います。教員や一般生徒たちにバレたら。即刻アウトです」

「はぁ? 何をいまさら、真面目ぶってんのかなぁ~。危ない橋だってのは、プロタリコルきゅんも最初からわかっていたよねぇー」

「ちょいと、君たち。喧嘩などしている暇などありませんよ。資金が足りないのなら、稼ぐまでですよ~。丁度、私のコネで良い仕事が見つかりました!」

 メンバーを宥めながら、制服のポケットから紙切れを取り出して見せる。
 そこに記載されていたのは、依頼内容と法外な報酬額だった。
 バミューダが取ってきた仕事は、裏稼業と呼ばれる非合法なものだった。
 その中で学校と関連が高そうなもの選んだ。

 最初は、些細なものだった……学校に届けられた棺桶を受け取り偽物と入れ替えるだけの簡単な仕事だった。
 まさか、それがキンバリーの遺体を奪取することになろうとは、バミューダたちも思ってもみなかった。
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