異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百六十四話

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「行くぞ、スコル! 反撃だ」

 ギデオンは相棒の背に飛び乗る。
 上空から地に向かって這う大蛇が、ゆったりとした垂れ幕のように見える。
 風に吹かれるかのごとく、軽やかに蛇行してみせるも、獲物に飛びつく鋭い瞬発力は蛇そのものである。
 主を乗せたスコルに大蛇は鎌首をもたげ、怒涛の攻撃を仕掛けくる。
 鋭い牙をむき出しにし彼らを喰い殺そうする。

 狼犬――ウルフドッグに酷似した魔獣ガルム。
 外見だけではなく、内面的な部分も丸写ししたようにソックリだ。
 物事に対する注意深さと身内に対する忠誠心と深い愛情。
 それらは、ギデオンのと連携を取る際、大きな武器となる。

 地を飛び跳ねながらも、颯爽との攻撃から逃れてゆく。
 背中を軽く叩いて送られてくる主の合図を、スコルは完全に汲み取り、自分がどのように動けばいいのか理解していた。
 そこから、予測のつかないトリッキーな動きでダイダラボッチを翻弄ほんろうする。
 蛇の腕を蹴り飛ばし、勢いが落ちたところで蛇の胴体を踏みつけた。
 悲鳴こそないが、踏み台にされるのが嫌らしくバタバタと腕をくねらせ、必死で抵抗している。
 くちなわの胴体をカーペット代わりにし、頭上で停滞している上半身だけの精霊の元へと一気に詰め寄ってゆく。

 大気を斬り裂き急上昇した終点に、討つべき本体がある。
 スコルが再度、銃形態に変化すると、銃身をつかみ取りダイダラボッチの表皮に押し当てる。
 その場から漆黒の炎が燃え上り始めた。
 地獄の業火が、精霊の上半身を焼き尽くしている。
 その、炎が消えるのは、ダイダラボッチの本体が跡形もなく消滅した時だけだ。

 ギデオンは引き金を引いたまま、大火の飲まれ散りゆく精霊を凝視していた。
 これで万事解決に向かうとは、到底思えなかったからだ――――


 *

 彼の直感がどれほど正確なのか? 事細かく示すのは難しい。
 数値化しようにも、どこからどこまで感知しているのか? が特定できないからだ。
 そもそも、何でもかんでもカタチでハッキリさせること自体が、自然の摂理に相反する行いなのかもしれない。

 ギデオンの、それは直感という域を飛び越えているフシがあった。
 知ろうとすることは、生命の持続に必要不可欠であるが、厳選しなければならないものもある。
 それは人の価値観を崩すモノであり、人類が、これまで積み上げてきたモノを根底からくつがえしてしまう不旋律だ。
 臭いモノには栓をする。証明は不要。
 これで、世界の調和は保たれる。
 手元に残るのは、直感の成否だけだ。
 偶然だろうが、必然だろうが変わりない。
 彼は察知していた、ただそれだけの話だ……。

 そのことを裏づけるかのように、バージェニルは最悪の状態に陥っていた。
 バミューダを追うべく電力炉に入った彼女は、そこでバミューダ本人を発見した。
 彼は、電力炉内の一画にある部屋の中から柩を持ち出そうとしていた。

「そこで、何をしているの? バミューダ生徒会長」

 バージェニルの問いかけに、柩を代車に移し替えようとする手の動きが止まった。
 全身、汗だくとなったまま、彼女の方へ、ゆっくりと面を上げる生徒会長の瞳は真っ赤に充血していた。

「イケませんねぇー、婦女子が夜遅くにこのような場所にやって来るなんて、不用心ではないですかね? どうやって、ここを嗅ぎつけたのかは知りませんが、場合によっては悪漢に襲われる危険性もあるのにぃー」

「答えになっていないわ。それ、キンバリー先生が入っている本物の柩よね?」

「いやいあいあ~。まさか! 告別式はちゃんと終えたではないですか!? どうして、これが本物の柩だと言い切れるのですかー?」

 この期に及んで、白を切ろうとする生徒会長をバージェニルはキッと睨みつけた。
 学校側は、キンバリーの遺体が盗まれたことを世間に公表していない。
 だからこそ、バミューダは一般の生徒である彼女が事実を知っているなどとは露ほどにも思っていなかった。
 適当に茶を濁しておけばいい、いい加減な態度で人に接するのは、長らく会長を務めてきた彼のもっとも得意とするところだ。

「では、その棺桶は何ですか? 蓋を外してもらっても良いかしら? そうすれば、すべて明らかになるわ」

「はっ? どうしても私の言うことを信用してくれないのですかね。さては、貴女……生徒会長たる、私をさしおいて自身がお母さんの代弁者になろうと画策しているいうのですか!?」

「お母さん……? 良く知らないけど、マザコンなの貴方?」

「ガ――――ン。なななあんたることだぁ――――!! 崇高なる我らが意思を汚物あつかいする気ですか! このアバズレ女は!!」

 声を裏返しながら、バミューダは激昂していた。
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