異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百六十三話

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 頭部を破壊した直後、ダイダラボッチの攻撃が止んだ。
 人と同じく、この巨大な精霊に急所というモノが存在したとしたら、どこを狙うのが正解なのだろうか?
 ギデオンたちが頭部を攻撃したのは、あくまで人間としての感覚。
 人体の構造上、どの部位を破壊すれば一番確実に仕留められるのか、そう考え、思考の中枢である頭脳を撃つことが正解だと判断に至った。

 相手は精霊、狙った箇所が正解である確率は極めて低い。
 そのことは、ギデオンとクォリスも覚悟していた。

 だからといって、運任せで動くような、リスクを背負うつもりもない。
 迷い中で、ギデオンが気づきを得たのは、スコルの魔力に反応したダイダラボッチの体内爆発だ。
 精霊が魔力によって爆発するなどという話は前代未聞だ。
 ダイダラボッチの吸収したダークエネルギーが、外からやってきた同種のエネルギーに引き寄せられ、衝突したのが原因とみられる。
 
 ならば、それを利用するべきだ。
 ファルゴの悪意を討ち滅ぼす好機は今しかない。
 スコルの魔力を満遍なく行き届かせられれば、あの巨体も地に伏せるだろう。

 そう思い立った結果、攻撃によって精霊の体内にスコルの魔力が流れこんだ。
 あとはこちらの魔力が持つかどうかだ。
 何発も撃ち込んで、少しづつ力を削り活動停止に追い込まないといけない。

「ったく、キツイ冗談だ……」
 魔力が混じり、膨張しかけたダイダラボッチの肉片が球体となって体外に排出された。
 じきに爆発し破裂するであろう、一部がギデオンの方へと接近している。
 地上に向かって落下している最中だろうが、回避するには方向転換するしかない。
 ギデオンは、バハムートによる砲撃の反動を利用し即座に宙を移動した。

 球体はそのまま、閃光を発して真紅の爆炎を巻きあげた。

「くぅっ、物凄い火力だ!」
 強烈な熱波がギデオンを吹き飛ばす。
 着ていた法衣が一瞬、炎をはいた。
 すぐさま、クォリスの式陣護符がギデオンの元に舞ってきた。
 凍てつく風を解き放ち、灼熱を打ち消す。
 身を冷却させながらも、ギデオンは氷のスロープを伝い地上へと下りたった。

 ダイダラボッチの方を目視すると、本体がさらに変容し出していた。
 精霊は、粘土でできているのかのごとく、自由自在に姿カタチを変えられるらしい。
 依然、空間の切れ目に挟まって身動きが取れない本体をカバーするように、精霊の両腕が長く伸び大蛇へと変貌してゆく。
 頭部もなく、すでに人型ではない異質な魔物の一部が大口を開けつつ、二人を標的にし襲い掛かって来る。

「ギデ君! ここは私に……」
 クォリスが地表に魔力を込めると、地中から連なる氷柱が突き出し大蛇の動きを牽制けんせいした。
 若干、彼女の顔色が悪い……ここまで、大量の魔力を消耗してきたのだ。
 そろそろ、限界は近い。

「あとは、僕が片づける。クォリスは下がってくれ」
 二匹の大蛇を、相手に銃撃だけで応戦するギデオン。
 スコルの魔力も初撃のブラックホールでだいぶ、消費してしまっていた。
 頼みのワイルドカートリッジは、条件を満たさなければ発動できない。
 攻撃の手立てが少ない現状では、長期戦になれば分が悪くなる。
 そうなる前に、早急に解決策を導き出せれば良いのだが……彼はそれ自体を必要としない。
 
 そう、彼はギデオンだ。
 かつて特務組織、聖歌隊の一員として暗躍した少年。
 卓越した剣技で、史上最年少のパラディンになるとまで噂された神童だ。
 小細工など無用だった。
 的確なタイミングで、正確に魔力弾を撃ち込んでゆく。

 しなやかな動きで獲物を翻弄ほんろうするはずの大蛇が、一切の動きを封じられていた。
 弾丸に耐えて、強引に近づこうとすれば、たちまち風穴だらけになる。
 ギデオンは魔力弾に回転を加えていた。
 これにより、細長くなった弾が杭のように飛ぶ。
 貫通力を持った、それは無慈悲なまでに殺傷性が高い。
 直に攻撃するのは危険だと判断した蛇たちは、後退してゆく。
 そこから、口を開けて凝縮したダークエネルギーを吐き出した。

 二重のエネルギー波がギデオンに迫り来る。
 回避はできない、受け止めなければ辺り一面は灰と化す。
 程度を知らない、その破壊の象徴を前にしても彼は怯むどころか、突き進んでゆく。

「待っていたぞ、その攻撃を! スコル!!」

 ギデオンがその名を呼ぶと、バハムートから魔獣スコルの姿に変化した。
 スコルが息を吸い込むと、空気とともにダークエネルギーも吸収されてゆく。
 暴風のような、凄まじい吸引力で、膨大な量のエネルギーを瞬く間に飲み干してしまった。
 ペロリと、満足そうに舌なめずりするスコル。
 不足していた魔力も、かなり取り戻せたようだ。
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