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百六十二話
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魔力弾と氷の刃がダイダラボッチの体内に潜り込む。
そこから連鎖的な爆発が生じ、しばらく辺りは昼間のような明るさに包まれていた。
ここまで派手にやらかすと、英誕祭を愉しむ者たちも空の異変に気づく。
ただ、そこが戦場であることを彼らは知らない。
華やかに光輝く火花は、星に負けじと天を美しく着飾っていた。
ナズィール地区にいた民衆や観光客は、この空の現象を英誕際のイベント、サプライズ的なものだと受け取っていた。
花火というモノを知らない彼らにとって、あの天の輝きはあまりにも綺麗で儚い。
それでいて、その情景は一度目にしたら目蓋の裏に焼きついて離れないほど鮮烈なものだった。
人々はスケールの大きさに度肝を抜かれ、芸術的な光のパフォーマンス、その虜となっていた。
現場となるプロミネンス・ワンに見物客が押し寄せて来るのも時間の問題だった。
そうなると、真っ先に困るのはゲート前で接戦を繰り広げている二人だ。
「セクティーボイス! その背中にいる赤ん坊を取り外しなさいな」
セクティーは、かつてないほど追い込まれていた。
セクティーの声は、相手の表層意識を無視して潜在意識へと直接働きかける精神魔法だった。
オッド相手なら造作もなく操れるが、ウネにはマインドコントロールが通じない。
ハルバードで自傷を命じても、呼吸しないで活動しろと言っても、この場から立ち去るように頼んでも駄目だった。
オッドの全身に、髪を絡ませ彼の動きを制御していた。
「ギャハハ! アアギャ、ハアアア。くすぐってぇー、やめれ」
何かしらある度に、彼の脇腹をくすぐり注意力を散漫にしてしまう。
そのせいで、一度も操作できず、セクティーの苛立ちは増すばかりだった。
「ああっ、もう~! セクティーフラッシュ」
「うきゅ、うきゅううききゅ―――!」
ウネの口からポンポンと植物の種が吐き出された。
地面に着地すると、瞬時に成長し強大な豆の木になった。
振動破により、相手の身体を麻痺させるセクティーフラッシュも緑の壁に妨害され意味を成さなくなっている。
「ん? 先客か?」「何してんだろ? あの二人」「あれもイベントの一環じゃないの?」「ママ~あのお人形さん、わたしもほしい」「けっ、公然でみせつけやがって……」
「なぁ~」周囲の変化にオッドが気不味そうに指をさした。
それを見てセクティーの顔色も変わる。
プロミネンス・ワンの敷地内から眩い光がほとばしっていた。
直後、大気が震えるほどの爆発が連続して起こる。
その騒ぎに乗じて、多くの人々がゲート前に集まり始めた。
「人、多すぎだろ――! どうすんだ? 生徒会。俺達、このまま戦ってていいのかよ!?」
「くっ、君のいうとおり、これは不味いかもです。このヤジウマ、いつ敷地内に入ってもおかしくないでしょ!」
「どうにか、足止めしねぇと。さっきから爆音が止まねえ……ギデたちが戦っているんだ。ヘタしたらコイツら全員、巻き込まれちまう」
その予想は当たっていた……この時、ギデオンたちはプロミネンス・ワンからダイダラボッチを引き離していた。
ここからでは内部の様子をうかがい知ることができない。
それが逆に民衆の興味を強固たるものにしてしまっていた。
オッドは考えあぐねていた。
まさか、この中に入るのに決死の覚悟が必要だと誰が言えようか?
説明したところで、今度は真意を確かめるべく行動に移す輩もでてくるであろう。
結局、警鐘をならしてもイタチごっこにしかならない。
解決法が見つからず、気ばかり焦り出す。
そんな彼の素振りに、やれやれと言わんばかりにセクティーが肩の力を抜いてみせた。
「仕方ないですね……これ以上、騒がれても騒がしぃし、一時休戦といたしましょう。君にも手伝ってもらいます」
戦闘を中断し、セクティーがマイク片手にゲート正面まえに立ち塞がった。
「皆さーん! 英誕際楽しんでいますかぁ~? じつはこのお祭り、サーマリア共和国に英雄が誕生した日を祝うお祭りだったんですよ~。その英雄こそ我らが母校の名でもある、英雄ルヴィウス様なんですねぇ。今日は、勇士学校を代表し我ら生徒会が、ここプロミネンス・ワンをお借りして光と音のイルミネーションマジックのショーを開催させてもらっていまぁ~す!」
人々が見守る中、彼女は機転を利かせ得意のマイクパフォーマンスを披露した。
咄嗟とはいえ、一応は事情説明として成り立つ。
かの勇士学校の生徒会が主だっているという点も、好感を持てる。
セクティーは早々にして民衆から信頼と支持を獲得することに成功した。
「やるじゃん、生徒会も」これにはオッドも素直に感心していた。
自分の出番など、もうないだろうと信じきっていた。
「―――もちろん、このショーは単なるイルミネーション観賞にとどまりません。二部では、魔導スクリーンを活用した劇を上映する予定となっております。この施設に巣くう魔獣、それを討伐できるのは、新たなる英雄である奴だけだ! 上映に伴い施設では、様々な仕掛けが施されております。危険ですので、皆様、くれぐれも敷地内に入らないようお願い申し上げます」
抜け目のないセクティーは、MCをつとめながらも、ちゃっかりと能力で民衆を操作していた。
彼女が示唆する新たな英雄とは一体、誰のことか?
謎ではあるも、一度振られたサイコロは戻らない。
彼らは、イベントを成功させなけばならないという、本来の目的から脱した使命を負うことになった。
そこから連鎖的な爆発が生じ、しばらく辺りは昼間のような明るさに包まれていた。
ここまで派手にやらかすと、英誕祭を愉しむ者たちも空の異変に気づく。
ただ、そこが戦場であることを彼らは知らない。
華やかに光輝く火花は、星に負けじと天を美しく着飾っていた。
ナズィール地区にいた民衆や観光客は、この空の現象を英誕際のイベント、サプライズ的なものだと受け取っていた。
花火というモノを知らない彼らにとって、あの天の輝きはあまりにも綺麗で儚い。
それでいて、その情景は一度目にしたら目蓋の裏に焼きついて離れないほど鮮烈なものだった。
人々はスケールの大きさに度肝を抜かれ、芸術的な光のパフォーマンス、その虜となっていた。
現場となるプロミネンス・ワンに見物客が押し寄せて来るのも時間の問題だった。
そうなると、真っ先に困るのはゲート前で接戦を繰り広げている二人だ。
「セクティーボイス! その背中にいる赤ん坊を取り外しなさいな」
セクティーは、かつてないほど追い込まれていた。
セクティーの声は、相手の表層意識を無視して潜在意識へと直接働きかける精神魔法だった。
オッド相手なら造作もなく操れるが、ウネにはマインドコントロールが通じない。
ハルバードで自傷を命じても、呼吸しないで活動しろと言っても、この場から立ち去るように頼んでも駄目だった。
オッドの全身に、髪を絡ませ彼の動きを制御していた。
「ギャハハ! アアギャ、ハアアア。くすぐってぇー、やめれ」
何かしらある度に、彼の脇腹をくすぐり注意力を散漫にしてしまう。
そのせいで、一度も操作できず、セクティーの苛立ちは増すばかりだった。
「ああっ、もう~! セクティーフラッシュ」
「うきゅ、うきゅううききゅ―――!」
ウネの口からポンポンと植物の種が吐き出された。
地面に着地すると、瞬時に成長し強大な豆の木になった。
振動破により、相手の身体を麻痺させるセクティーフラッシュも緑の壁に妨害され意味を成さなくなっている。
「ん? 先客か?」「何してんだろ? あの二人」「あれもイベントの一環じゃないの?」「ママ~あのお人形さん、わたしもほしい」「けっ、公然でみせつけやがって……」
「なぁ~」周囲の変化にオッドが気不味そうに指をさした。
それを見てセクティーの顔色も変わる。
プロミネンス・ワンの敷地内から眩い光がほとばしっていた。
直後、大気が震えるほどの爆発が連続して起こる。
その騒ぎに乗じて、多くの人々がゲート前に集まり始めた。
「人、多すぎだろ――! どうすんだ? 生徒会。俺達、このまま戦ってていいのかよ!?」
「くっ、君のいうとおり、これは不味いかもです。このヤジウマ、いつ敷地内に入ってもおかしくないでしょ!」
「どうにか、足止めしねぇと。さっきから爆音が止まねえ……ギデたちが戦っているんだ。ヘタしたらコイツら全員、巻き込まれちまう」
その予想は当たっていた……この時、ギデオンたちはプロミネンス・ワンからダイダラボッチを引き離していた。
ここからでは内部の様子をうかがい知ることができない。
それが逆に民衆の興味を強固たるものにしてしまっていた。
オッドは考えあぐねていた。
まさか、この中に入るのに決死の覚悟が必要だと誰が言えようか?
説明したところで、今度は真意を確かめるべく行動に移す輩もでてくるであろう。
結局、警鐘をならしてもイタチごっこにしかならない。
解決法が見つからず、気ばかり焦り出す。
そんな彼の素振りに、やれやれと言わんばかりにセクティーが肩の力を抜いてみせた。
「仕方ないですね……これ以上、騒がれても騒がしぃし、一時休戦といたしましょう。君にも手伝ってもらいます」
戦闘を中断し、セクティーがマイク片手にゲート正面まえに立ち塞がった。
「皆さーん! 英誕際楽しんでいますかぁ~? じつはこのお祭り、サーマリア共和国に英雄が誕生した日を祝うお祭りだったんですよ~。その英雄こそ我らが母校の名でもある、英雄ルヴィウス様なんですねぇ。今日は、勇士学校を代表し我ら生徒会が、ここプロミネンス・ワンをお借りして光と音のイルミネーションマジックのショーを開催させてもらっていまぁ~す!」
人々が見守る中、彼女は機転を利かせ得意のマイクパフォーマンスを披露した。
咄嗟とはいえ、一応は事情説明として成り立つ。
かの勇士学校の生徒会が主だっているという点も、好感を持てる。
セクティーは早々にして民衆から信頼と支持を獲得することに成功した。
「やるじゃん、生徒会も」これにはオッドも素直に感心していた。
自分の出番など、もうないだろうと信じきっていた。
「―――もちろん、このショーは単なるイルミネーション観賞にとどまりません。二部では、魔導スクリーンを活用した劇を上映する予定となっております。この施設に巣くう魔獣、それを討伐できるのは、新たなる英雄である奴だけだ! 上映に伴い施設では、様々な仕掛けが施されております。危険ですので、皆様、くれぐれも敷地内に入らないようお願い申し上げます」
抜け目のないセクティーは、MCをつとめながらも、ちゃっかりと能力で民衆を操作していた。
彼女が示唆する新たな英雄とは一体、誰のことか?
謎ではあるも、一度振られたサイコロは戻らない。
彼らは、イベントを成功させなけばならないという、本来の目的から脱した使命を負うことになった。
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