異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百六十一話

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 黒き閃光の正体、それはダークエネルギー。
 魔獣ガルムが持つ、このエネルギーは超重力を秘めたモノである。

 本来ならば、敵を粉みじんにする破壊力する能力しかないモノだが、魔銃進化の影響で変異し、極小のブラックホールを生成するようになった。
 コイン程度の大きさからなる、それはシンギュラリティを発生させ事象の地平線に、飲み込んだ物をすべて閉じこめる。
 球状のそこからジェットと呼ばれる光の極軸を放射する。
 魔装砲バハムートが生み出すマイクロブラックホールは、限りなく本物を再現していた。

 それは一瞬の出来事だった。
 ダイダラボッチのそばでマイクロブラックホールが発生すると、その巨体が刹那の内に飲まれ消え去ってしまった。
 呆気ない最期……そう思われたのも束の間。
 次の瞬間には、新たな局面が展開されていた。
 一度、蒸発し消えたシンギュラリティを打ち破ろうする力が働いていた。
 なんと、超重力の中に引き込まれバラバラになったと考えられていた精霊は、破壊されることなく活動を続けていた。
 さらに、厄介なことにブラックホールを侵食しようとしていた。
 その先にあるのは、ダイダラボッチという天体であり、一つ世界だった。

 人の想像を遥かに凌駕する現象であるが、古来、神々は巨人の肉体を糧とし、世界を創造したとされる。
 そのような神話を彷彿ほうふつさせるように、己が一部としてブラックホールを取り込もうとした。
 が……結果的に失敗となり終わってしまった。
 ダイダラボッチは上半身だけをシンギュラリティから突出させた異形の精霊となっていた。
 相互干渉した挙句、互いの能力を打ち消し合うのは中途半端な出来損ないとしか言いようがない。

 ギデオンたちにとって、これは思いがけない好機に繋がっていた。
 なんせ単体では、手に負えなかった強大な力が、他と雑ざり制限を設けたのだ。
 今なら、ダイダラボッチを撃破できるかもしれない。
 期待こそ、心の中を過るが現実は無情だった。

 ダークエネルギーの一部を吸収した巨人の拳が鉄鎚のごとく降ってくる。
 次々と、施設が破壊されてゆく。
 発電炉の方にはバージェニルがいる。
 それを危惧し二人は、プロミネンス・ワンから遠ざかるように移動を開始した。
 その間もダイダラボッチの拳が二人を襲う。
 シュプールヘウレーカにより氷の障壁を生成しつつ、敵の行動を阻害してゆく。

「リコシェットセフィーロ!」

 その隙にバハムートから複数の魔力弾を速射する。
 ダイダラボッチによって破壊された金属の残骸が空間を飛び散る中、弾丸が反射しながら縦横無尽に飛び交う。
 その軌跡は、まさに大樹から分散する枝そのもの。
 魔力弾の一つ、一つが躍動する生命がごとく上空を飛び、暴走する精霊を撃ち抜いてゆく。

 巨体が微かに揺れ動いた。
 同時に精霊の内部で爆発が発生し、取り込んだはずのダークエネルギーが体外へと流出してゆく。
 ダークエネルギー自体は、もともとスコルの魔力が生み出したエネルギーだ。
 内部で押し込められた力が、同質な力と接触すると活性化し今のような爆発をもたらす。
 神威での攻撃が、ダイダラボッチ攻略の鍵となる。

「開けた場所に出たぞ。ここで、コイツを仕留める」

「私に任せて……フリージングタワー」

 足下から大きな氷柱が浮上してくる。
 クォリスの魔法でできた、それを足場とし二人は天へと昇る。
 近づいてくる者たちを捉えた精霊が、暗黒の炎と雷を解き放つ。
 そして、本体の一部を溶けた飴細工のように変化させ刀剣や槍、鎌など様々な武器を作りだしてゆく。
 それらは全て、宿敵であるギデオンを仕留めるために用意されたモノだ。

「ファルゴォオオオオ―――――!!」

 バハムートの砲身が発光した。
 無数の弾丸と、氷刃が容赦なく撃ち込まれる。
 落下してきた炎と雷により、それらは相殺そうさいされてゆく。
 波状攻撃の武器たちが滝のごとく降り注いできた。
 氷塊の壁が凶悪な攻撃を遮断する。
 それでも、なお壁を通過するダイダラボッチの肉片をギデオンの砲撃が消滅させていく。
 一進一退の攻防戦が継続される。
 この勝負を制すのは、先に相手の喉元へと歯牙をかけた方だ。

「式陣、血吹雪」

 霊符を取り出し、クォリスが刃の吹雪を放った。
 火力同士のぶつけ合いにて心もとない術式ではあるが、使い方次第では勝敗を左右するキッカケとなる。
 一瞬、ダイダラボッチは二人を見失った。
 吹雪きにより視界が塞がられたからだ。
 見えなくなった相手を更なる火力を投じて殲滅せんめつしようとする。
 けれど、それは大きな誤りだった。
 視界の両端に人影が浮かんだ。
 無防備なその場所に、ギデオンとクォリスが飛翔してきた。

「くらぇえええ―――!!」

「はあぁああ――――」

 閃光と氷刃が交差し、顔のない精霊の頭部を破壊した。
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