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百六十話

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 ブロッサムたちが激闘を繰り広げている、その頃。
 ギデオンたちもまた、バミューダのもとへ急行していた。

「本当に、こっちであっているのかしら?」

「問題ない。このルートで正解だ」

 懐疑的な視線を向ける、バージェニルをそっちのけでギデオンは先に進んでゆく。
 彼の嗅覚は的確に生徒会長のコロンの香りを覚えていた。
 鼻につく微かな刺激臭、その終着点にあるのは巨大な発電炉プロミネンス・ワンの本体だった。

「ギデ君……足元!」

「トラップか、バージェニル頼む」

「私より、先に気づくなんてやりますわね……クォリスさん。二人ともついて来なさい」

 バージェニルのBAベースアビリティが発動する。
 中級盗賊職、ナイトレイドである彼女の瞳には不可視なものを可視化する能力がある。
 魔力の流れは当然のこと、温度を色彩で感知、ガスのような気体や電磁波の形状までも、視覚情報として捉えることができる。

 バミューダが仕掛けた罠はマジックボムと呼ばれる、よく狩りに使用される簡易トラップだった。
 これはマジックスクロールと同じ要領で、専用の筒にあらかじめ攻撃魔法を仕込んでおくものだ。
 それを地中に埋め、その上から重量を加えると筒が破裂する仕様となっている。

 数多く仕掛けられたトラップを、バージェニルの先導により難なく回避する。
 ここまでやるバミューダの周到性も凄まじいが、相手が悪かった。
 トラップゾーンを脱した三人は、目的地である発電炉の前まで迫ってきた。

「クォリス、止まれ!!」

 不意に悪寒が全身を駆け巡た。
 ギデオンが叫んだ直後、クォリスの目の前に巨大な壁が落下してきた。
 無慈悲な破壊の衝撃が波となり、身近なものを手あたり次第、木っ端みじんに瓦解させてゆく。
 二人より先を進んでいたバージェニルは、腕時計に仕込んであったワイヤーロープを咄嗟に放ち上空へ逃げた。
 問題なのは、ギデオンたちの方だった。
 あの近距離で壁が発した衝撃波を避けるのは、至難の業である。
 それが可能なのは波よりも素早く動ける者と、衝撃を防ぐ手立てを持った者だった。

『ギデ君、悪い知らせがある……』

 粉塵、立ち込める淀んだ空気の中で金色の光が舞う。
 どうやら、ジェイクのゴールデンパラシュートも、この事態を察知したようだ。

「手短に頼む。こっちも手が空かないようだからな」

『ファルゴが、無限ダンジョンから脱出した。真っ先に君を探し出すだろう』

「ああ。それなら、既に来ている」

 クォリスを腕に抱きかかえ、ギデオンを天を仰いだ。
 日没寸前の空が、深い紺と淡いオレンジのグラデーションを作っていた。
 その中心に空をおおい隠さんとす巨大な人型が空を浮遊している。

 それが何なのか? ギデオンには皆目見当がつかなかった。
 見たこともない怪物、なのによく知った威圧感を放っている。

「この怪物はファ、ファルゴ……なのか?」
 桁違いにサイズ感に、ギデオンは目を丸くするしかなかった。
 この世界に、これほど巨大な生物がいたというのか?
 実に不可思議で、世界の広さをハッキリと痛感させられる。
 巨人の表皮は仄かに発光し、背後が見えるほど肉体が透けてみえる。

「ダイダラボッチ、巨人の精霊だよ」

 胸元でクォリスが呟いた。
 聞き慣れない名前にだが、その正体は精霊でありファルゴのであることは判明した。
 彼女を地に下ろしながらギデオンは話す。

「クォリス、すまないな。せっかくのダンスパーティーが武舞ぶぶになりそうだ。それでも、一緒に相手してくれるかい? コイツは僕一人では、手に余りそうだ」

「ええっ、喜んで」

 クォリスは膝を曲げ、淑女の挨拶であるカーテシーをした。
 ギデオンが右手を差し出すと、その手を取りダイダラボッチのもとへと進んでゆく。
 相手の力は未知数だが、ファルゴが生み出した怪物が脆弱なわけがない。
 苦戦は必至、二人とも自身が持つ、最大限の力を発揮しなければ勝算はないに等しい。

 神威、シュプールヘウレーカ。
 蓮の花をかたどる白銀の籠手から氷刃が伸びてゆく。
 その只ならぬ気配に、気づかないギデオンではないが、強敵を前に問答している余裕はない。

「この力を使えるのは、ギデ君だけじゃないよ」
 先に答えたのは彼女の方だった。

「そうか。なら、隠すこともないな。神威、魔銃ガルム! 魔銃進化、魔装砲バハムート」

 弓なりの形状を取る銃火器を構えギデオンは、砲身をダイダラボッチへ向けた。
 黒色に輝く魔力が魔装砲に蓄積されてゆく。
 砲身が吼え、一閃が天を駆ける。
 まるで夜の帳をおとす合図のように。
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