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百五十九話
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冷えた空気と湿った土の臭いが辺りを包む。
術士であるプロタリコルは立ち膝ついたまま気絶している。
その顔は、何かを嘆いているように口を開き、白目をむいて涙している。
この骸は彼が召喚したようで、実際は違う。
禁術を使用する際に結ばれる契約によって、魔物が解き放たれ、異空間から術者の元へとやってくる。
そして、支払うべき代価を徴収しにくるのだ。
プロタリコルが何をどこまで、代価として設定したのかは本人にしか知りえない。
ただ、ギリムがおぞましい存在であるというのは、見た目で容易に察することができる。
「やはり、またしても……」
ブロッサムの拳を避けることもなく、ギリムは真向からぶつかっていた。
避ける必要がない、そう言わんばかりに瞬時に破損個所が修復されてゆく。
ギリムを殴ったブロッサムの右拳から血が吹き上げていた。
あの骨の鎧に直で触れるのは、反対に手傷を負うことになる。
できることなら、魔法で距離を離しながら戦いたい。
だが、ブロサッムにはそれができない。
彼は、生まれ持って魔法が使えない。
体内の魔力量こそ、豊富に溜め込まれているも、それを術式に変換することができない。
これは、ほぼ体質の問題だった。
単純に魔法さえ使いこなせていれば、実力からみて、ミドルクラスにおさまることはなかった。
できることは、近距離格闘。
魔物に触れないように攻撃できたとして、次の問題である物理ダメージが通らない件が待っている。
あまりにも敵を倒す手立てがなさすぎる。
ブロサッムは、好転しない実情に大いに悩んでいた。
ガチャガチャ、ガチャガチャと音を立てて、ギリムが前方に手をかざす。
答えが見つからないままのブロサッムに、弾丸がわりの骨を魔力操作で撃ち込んでくる。
次から次へと押し寄せてくる脊椎のラッシュに、たちまち逃げ場を失う。
降り注ぐ無数の骨の大群が、ブロサッムを一気に飲み込もうとする。
「ぐぬう――、やむを得えん、掌破!」
ブロサッムは、咄嗟に柏手を打った。
もちろん、参拝するときのような普通のものではない。
空気を破裂されるかのごとく、凄まじい衝突エネルギーが彼の手の内から生まれる。
掌から押し出された、それは爆風となり拡散してゆく。
質実剛健な力により、脅威を封殺する。
そう言えば、無難に聞こえてくるから不思議だ。
ブロッサムの力は、それとは程遠く、人が持ちうる限界を遥かに超えていた。
柏手の風圧だけで、骨の弾丸をすべて吹き飛ばしてしまった。
魔力があるのに魔法が使えない。
そのことが、彼にとってのコンプレックスだった。
人より劣ったところがある、そればかりを意識しすぎて自身の能力を過少評価していた。
模擬戦で初めてギデオンを見かけた時、彼は真に心を打たれた。
魔獣を引き連れているだけの少年が、魔法に頼らず徒手空拳のみで戦っている。
その上、彼は迷うことなく、皆を引き連れ先陣を切っていた。
自分に、あの少年と同じことができるだろうか? 何が彼をあそこまで突き動かすのだろうか?
そう思うと、身体が自然と後を追いかけていた。
何かしらの魂胆があったわけでもなく、シンプルにギデという人物について知りたい。
そうすれば、今まで乗り越えることができなかった自身の壁を撃ち崩すことができるような気がした。
ブロッサムがギデから学び取ったこと。
それは、常識に囚われず自身が持つ能力を最大限に駆使する、様々な戦い方。
いかなる状況下においても、落ち着いて冷静に対処する判断力。
この二つが、ギデに勝機をもたらしているとブロサッムは確信していた。
「ギデ殿……我もギデ殿のように、可能性の一歩先へ進みますぞ!!」
間合いを離すのではなく、反対にギリムに詰め寄る。
後先を考える以上に、このタイミングが重要だった。
ブロッサムの掌破により、押し返された骨たちがギリムに当たり動きを鈍らせていた。
そのわずかな隙を狙い、ギリムの懐に飛び込む。
ブロサッムの接近に気づいたギリムが骨の剣を取り出した。
骨の突起した部分が、ノコギリの刃と化している。
見た目以上に、鋭いことをアピールするために近くの骸骨で試し斬りしてみせてきた。
「ガッ……分カ……ラセテヤル。人ノ脆弱サヲ」
「人は決して弱くはないぞ。我は、友からそれを学んだのだ! 鬼灯飛ばし!!」
進路を妨害する骸骨のアバラ骨をつかみ、ブロサッムは軽々と振り回す。
対して脊柱の剣を振りかざすギリム。
振り降ろされた剣の一撃に合わせ、骸骨ハンマーが炸裂する。
ミイラであるがゆえ、圧倒的な力の差に耐えられずギリムの方が半歩後退することとなった。
「舐メルナ! コノ、ギリムニ……何人モ触レラレナイ」
刃がブロサッムの肩を突き刺した。
その場でガクッと膝を曲げ沈み込む、相手の姿にギリムは待っていたとばかりに腹部にある大口を開いた。
そこだけ骨の鎧が外されていた。無防備となった、怪物の大きな口に骸骨が押し込められた。
「ァッガアアアア!? ンガバッババガアアア――――」
「油断したな……いくら、モノノケでも隙をみせるのは感心せんぞ。掌破千獄連鎖」
突っ張りの連打が、骸骨ごと腹部を打ち抜いてくる。
掌破による衝撃も合わさりギリムの全身に亀裂が走り、やがて粉々に砕け散った。
邪悪なる骸は再び、カタコンベに還ることとなった。
術士であるプロタリコルは立ち膝ついたまま気絶している。
その顔は、何かを嘆いているように口を開き、白目をむいて涙している。
この骸は彼が召喚したようで、実際は違う。
禁術を使用する際に結ばれる契約によって、魔物が解き放たれ、異空間から術者の元へとやってくる。
そして、支払うべき代価を徴収しにくるのだ。
プロタリコルが何をどこまで、代価として設定したのかは本人にしか知りえない。
ただ、ギリムがおぞましい存在であるというのは、見た目で容易に察することができる。
「やはり、またしても……」
ブロッサムの拳を避けることもなく、ギリムは真向からぶつかっていた。
避ける必要がない、そう言わんばかりに瞬時に破損個所が修復されてゆく。
ギリムを殴ったブロッサムの右拳から血が吹き上げていた。
あの骨の鎧に直で触れるのは、反対に手傷を負うことになる。
できることなら、魔法で距離を離しながら戦いたい。
だが、ブロサッムにはそれができない。
彼は、生まれ持って魔法が使えない。
体内の魔力量こそ、豊富に溜め込まれているも、それを術式に変換することができない。
これは、ほぼ体質の問題だった。
単純に魔法さえ使いこなせていれば、実力からみて、ミドルクラスにおさまることはなかった。
できることは、近距離格闘。
魔物に触れないように攻撃できたとして、次の問題である物理ダメージが通らない件が待っている。
あまりにも敵を倒す手立てがなさすぎる。
ブロサッムは、好転しない実情に大いに悩んでいた。
ガチャガチャ、ガチャガチャと音を立てて、ギリムが前方に手をかざす。
答えが見つからないままのブロサッムに、弾丸がわりの骨を魔力操作で撃ち込んでくる。
次から次へと押し寄せてくる脊椎のラッシュに、たちまち逃げ場を失う。
降り注ぐ無数の骨の大群が、ブロサッムを一気に飲み込もうとする。
「ぐぬう――、やむを得えん、掌破!」
ブロサッムは、咄嗟に柏手を打った。
もちろん、参拝するときのような普通のものではない。
空気を破裂されるかのごとく、凄まじい衝突エネルギーが彼の手の内から生まれる。
掌から押し出された、それは爆風となり拡散してゆく。
質実剛健な力により、脅威を封殺する。
そう言えば、無難に聞こえてくるから不思議だ。
ブロッサムの力は、それとは程遠く、人が持ちうる限界を遥かに超えていた。
柏手の風圧だけで、骨の弾丸をすべて吹き飛ばしてしまった。
魔力があるのに魔法が使えない。
そのことが、彼にとってのコンプレックスだった。
人より劣ったところがある、そればかりを意識しすぎて自身の能力を過少評価していた。
模擬戦で初めてギデオンを見かけた時、彼は真に心を打たれた。
魔獣を引き連れているだけの少年が、魔法に頼らず徒手空拳のみで戦っている。
その上、彼は迷うことなく、皆を引き連れ先陣を切っていた。
自分に、あの少年と同じことができるだろうか? 何が彼をあそこまで突き動かすのだろうか?
そう思うと、身体が自然と後を追いかけていた。
何かしらの魂胆があったわけでもなく、シンプルにギデという人物について知りたい。
そうすれば、今まで乗り越えることができなかった自身の壁を撃ち崩すことができるような気がした。
ブロッサムがギデから学び取ったこと。
それは、常識に囚われず自身が持つ能力を最大限に駆使する、様々な戦い方。
いかなる状況下においても、落ち着いて冷静に対処する判断力。
この二つが、ギデに勝機をもたらしているとブロサッムは確信していた。
「ギデ殿……我もギデ殿のように、可能性の一歩先へ進みますぞ!!」
間合いを離すのではなく、反対にギリムに詰め寄る。
後先を考える以上に、このタイミングが重要だった。
ブロッサムの掌破により、押し返された骨たちがギリムに当たり動きを鈍らせていた。
そのわずかな隙を狙い、ギリムの懐に飛び込む。
ブロサッムの接近に気づいたギリムが骨の剣を取り出した。
骨の突起した部分が、ノコギリの刃と化している。
見た目以上に、鋭いことをアピールするために近くの骸骨で試し斬りしてみせてきた。
「ガッ……分カ……ラセテヤル。人ノ脆弱サヲ」
「人は決して弱くはないぞ。我は、友からそれを学んだのだ! 鬼灯飛ばし!!」
進路を妨害する骸骨のアバラ骨をつかみ、ブロサッムは軽々と振り回す。
対して脊柱の剣を振りかざすギリム。
振り降ろされた剣の一撃に合わせ、骸骨ハンマーが炸裂する。
ミイラであるがゆえ、圧倒的な力の差に耐えられずギリムの方が半歩後退することとなった。
「舐メルナ! コノ、ギリムニ……何人モ触レラレナイ」
刃がブロサッムの肩を突き刺した。
その場でガクッと膝を曲げ沈み込む、相手の姿にギリムは待っていたとばかりに腹部にある大口を開いた。
そこだけ骨の鎧が外されていた。無防備となった、怪物の大きな口に骸骨が押し込められた。
「ァッガアアアア!? ンガバッババガアアア――――」
「油断したな……いくら、モノノケでも隙をみせるのは感心せんぞ。掌破千獄連鎖」
突っ張りの連打が、骸骨ごと腹部を打ち抜いてくる。
掌破による衝撃も合わさりギリムの全身に亀裂が走り、やがて粉々に砕け散った。
邪悪なる骸は再び、カタコンベに還ることとなった。
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