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百五十八話
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先行するブロッサム。
勇士学校よりも、遥かに広大な敷地を持つプロミネンス・ワンを無言で走る。
多くの建屋がそこらかしこに建ち並ぶ様は、まさに鋼鉄のジャングルを想起させる。
初見の彼には、難しすぎるほど入り組んだ人工的な迷宮。
どこをどう進めばいいのか? 眩暈を覚えるほど考えても、バミューダたちがどこにいるのかも絞り込めない。
ジェイクのケサランパサランに頼りたくとも、あの綿毛は人間に寄生しなければ活動できない。
よって自分たち以外は誰もいない、この施設で生徒会メンバーを探し出すのは、ほぼ不可能に近い。
それこそ奇跡的な確率で偶然、遭遇しなければ相手をみすみす逃すことになる。
「あっ……しまった。どーも」
「うおおおっ! 見つけたましたぞぉ―――」
建屋の陰から、走り抜けてきたプロタリコルを発見するなり、ブロサッムは全力疾走した。
元から走るのは得意ではないが、相手が完全に気を緩めていたおかげで、取り押さえられる距離まで近づいた。
「さぁ、このベルの音を聞きなさない。そうすることで、貴方の気分が良くなるはずです。恐がることは、ありませんよ。目覚め――「鉄砲打ち!」
スパァ――ン! と心地よい音を立ててブロッサムの掌底が、プロタリコルの顎に入った。
ストンと両膝を折り、リズム良く倒れ込んだ直後、鹿威しがごとく額を地面に打ちつけることで、彼は意識を保った。
「クソっ、僕の方が気持ち良く落とされるなんて、危うく、大恥をかくところだった」
「生徒会長はどこにいるのだ!? 素直に話せば、痛い思いをしなくても済むぞ」
プロタリコルは認識操作系の催眠術を得意とする。
制限時間こそあるが、一度かかれば、容易に覚めない強力なものだ。
ただ、欠点として相手を催眠状態にするまで、無茶苦茶時間を要する儀式を執り行われなければならない。
むろん、そんな事情を聞けば催眠術を使わせないようにと、敵はこぞって襲いかかってくる。
今のように、先に攻撃を仕掛けられたらほぼ、成す術はない。
サンドバッグがごとく無抵抗に殴られ続けるしかなかった。
だからこそ、プロタリコルは自身の弱点を補うべく禁術に手を染めた。
奇術の系統の中でも特に、稀有な呪術。
魔法である呪法とは、似て非なるもの……それを使用する者は必ず、代価を支払う必要がある。
ただし、その効力は折り紙つきだ。厄介なモノばかり揃っている。
プロタリコルが習得した呪いは催眠術をかけそびれた時の保険、二段構えで発動するモノだった。
まだ、一発しか受けていなくともブロッサムの腕力は、術を発動させる条件を充分、満たしていた。
「僭越ながら闇より出でよ。カタコンベのギリム!」
その言葉に合わせ、プロタリコル自身の影が急速に伸びてゆく。
主から切り離されるように地中を泳ぐ、その影が人型に戻り地面から起き上がってくる。
影を破って出てきた異形のビジュアルにブロサッムもギョッとした顔つきになった。
カタコンベのギリムとは、人骨の鎧をまとった骸、ミイラだった。
どんな、いわれがあるのか? 知る由もない。
……が本体が放つ禍々しいオーラは、見せかけなどではない。
本物のヤバさを醸し出している。
「むむっ……こやつを相手にしている暇などないのに。これは、かなり骨が折れそうですぞ」
「骨ダケニテカ?」
「いやはや、我は……そんな、つもりで言ったわけ………………なんと! 骨が喋っておるではないか!!」
「アア、ソウサ。俺タチハ……ギリム。昔、食ワレタ。ギリムノ一部。お前モ、ギリムニナル運命」
「すまぬが、そのような誘いは一切、受けつけておらんぞ! 爛然三叉」
呼び出されし魑魅魍魎の類にブロサッムの体術が炸裂する。
上、中、下の三段蹴りが高速で放たれる、それは、まさしく三叉の槍であった。
強烈な蹴りが骨の鎧を軽々と粉砕してゆく。
見た目以上の脆さで、すべてを破壊するのは簡単だと思ったそばから別の骨が補充されてゆく。
「なんだと言うのだ? この不浄な波動は……こやつ、物理攻撃では破壊できぬかもしれん」
ブロサッムの首筋にプツリと何かが刺さった。
痛みはないが、妙な感触に戸惑っていると、そこから一気に血液が噴き出した。
「うがあっ、何と! これはヤバイ」
患部を手で探り、刺さっていたものを引き抜く。
すぐに首筋を手で押えながら、刺さっていたモノを確かめる。
ちいさな管状の骨だ。
ストローのように中が空洞になっていて、刺さると血を抜き取るようになっている。
ギリムは、ブロサッムの死角をついて、この骨を刺した。
一本だけで、かなりの出血をともなう。
もし、何本も同時に刺されたら、それこそ失血死してしまう。
自分とは相性の悪い強敵の出現に、ブロサッムは少しずつ追い詰められていた。
勇士学校よりも、遥かに広大な敷地を持つプロミネンス・ワンを無言で走る。
多くの建屋がそこらかしこに建ち並ぶ様は、まさに鋼鉄のジャングルを想起させる。
初見の彼には、難しすぎるほど入り組んだ人工的な迷宮。
どこをどう進めばいいのか? 眩暈を覚えるほど考えても、バミューダたちがどこにいるのかも絞り込めない。
ジェイクのケサランパサランに頼りたくとも、あの綿毛は人間に寄生しなければ活動できない。
よって自分たち以外は誰もいない、この施設で生徒会メンバーを探し出すのは、ほぼ不可能に近い。
それこそ奇跡的な確率で偶然、遭遇しなければ相手をみすみす逃すことになる。
「あっ……しまった。どーも」
「うおおおっ! 見つけたましたぞぉ―――」
建屋の陰から、走り抜けてきたプロタリコルを発見するなり、ブロサッムは全力疾走した。
元から走るのは得意ではないが、相手が完全に気を緩めていたおかげで、取り押さえられる距離まで近づいた。
「さぁ、このベルの音を聞きなさない。そうすることで、貴方の気分が良くなるはずです。恐がることは、ありませんよ。目覚め――「鉄砲打ち!」
スパァ――ン! と心地よい音を立ててブロッサムの掌底が、プロタリコルの顎に入った。
ストンと両膝を折り、リズム良く倒れ込んだ直後、鹿威しがごとく額を地面に打ちつけることで、彼は意識を保った。
「クソっ、僕の方が気持ち良く落とされるなんて、危うく、大恥をかくところだった」
「生徒会長はどこにいるのだ!? 素直に話せば、痛い思いをしなくても済むぞ」
プロタリコルは認識操作系の催眠術を得意とする。
制限時間こそあるが、一度かかれば、容易に覚めない強力なものだ。
ただ、欠点として相手を催眠状態にするまで、無茶苦茶時間を要する儀式を執り行われなければならない。
むろん、そんな事情を聞けば催眠術を使わせないようにと、敵はこぞって襲いかかってくる。
今のように、先に攻撃を仕掛けられたらほぼ、成す術はない。
サンドバッグがごとく無抵抗に殴られ続けるしかなかった。
だからこそ、プロタリコルは自身の弱点を補うべく禁術に手を染めた。
奇術の系統の中でも特に、稀有な呪術。
魔法である呪法とは、似て非なるもの……それを使用する者は必ず、代価を支払う必要がある。
ただし、その効力は折り紙つきだ。厄介なモノばかり揃っている。
プロタリコルが習得した呪いは催眠術をかけそびれた時の保険、二段構えで発動するモノだった。
まだ、一発しか受けていなくともブロッサムの腕力は、術を発動させる条件を充分、満たしていた。
「僭越ながら闇より出でよ。カタコンベのギリム!」
その言葉に合わせ、プロタリコル自身の影が急速に伸びてゆく。
主から切り離されるように地中を泳ぐ、その影が人型に戻り地面から起き上がってくる。
影を破って出てきた異形のビジュアルにブロサッムもギョッとした顔つきになった。
カタコンベのギリムとは、人骨の鎧をまとった骸、ミイラだった。
どんな、いわれがあるのか? 知る由もない。
……が本体が放つ禍々しいオーラは、見せかけなどではない。
本物のヤバさを醸し出している。
「むむっ……こやつを相手にしている暇などないのに。これは、かなり骨が折れそうですぞ」
「骨ダケニテカ?」
「いやはや、我は……そんな、つもりで言ったわけ………………なんと! 骨が喋っておるではないか!!」
「アア、ソウサ。俺タチハ……ギリム。昔、食ワレタ。ギリムノ一部。お前モ、ギリムニナル運命」
「すまぬが、そのような誘いは一切、受けつけておらんぞ! 爛然三叉」
呼び出されし魑魅魍魎の類にブロサッムの体術が炸裂する。
上、中、下の三段蹴りが高速で放たれる、それは、まさしく三叉の槍であった。
強烈な蹴りが骨の鎧を軽々と粉砕してゆく。
見た目以上の脆さで、すべてを破壊するのは簡単だと思ったそばから別の骨が補充されてゆく。
「なんだと言うのだ? この不浄な波動は……こやつ、物理攻撃では破壊できぬかもしれん」
ブロサッムの首筋にプツリと何かが刺さった。
痛みはないが、妙な感触に戸惑っていると、そこから一気に血液が噴き出した。
「うがあっ、何と! これはヤバイ」
患部を手で探り、刺さっていたものを引き抜く。
すぐに首筋を手で押えながら、刺さっていたモノを確かめる。
ちいさな管状の骨だ。
ストローのように中が空洞になっていて、刺さると血を抜き取るようになっている。
ギリムは、ブロサッムの死角をついて、この骨を刺した。
一本だけで、かなりの出血をともなう。
もし、何本も同時に刺されたら、それこそ失血死してしまう。
自分とは相性の悪い強敵の出現に、ブロサッムは少しずつ追い詰められていた。
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