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百五十四話
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「盛り上がっているところ済まないが、公国の間者から同級生を救い出す算段はついているのか?」
その場の流れを断ち切る、オトナの意見に若者たちは表情を固めた。
あまりにも酷であり真に迫る、現実という証明。
相手は、たった一人で大勢の宰相護衛を斬り捨てた。
そのような怪物に、真向から挑んでも犬死することは、ここにいる全員が分かりきっていることだ。
「んだと! オッサン。そもそも、アンタ何者なんだよ!?」真っ先に噛みついたのはオッドだった。
痛い箇所を突かれて、苛立ちをあらわにする姿は正直、褒められたものではない。
ただ、彼なりに現状をどうにか良くしようと必死だった。
そのことは、同じ立場にある学友たちも理解していた。
むろん、対面の立場にるジェイクには通じない。
彼にとって、学生たちの言葉は夢物語を聞かされている気分になる。
根拠もない、スケジュールもない。相手のデータも、勝算も、策も、ないないづくしで聞いて驚く。
あるのは、若さと気概だけという実に心もとないモノばかりだ。
「見ての通り、スパイの真似事が得意な中年さ。私のゴールデンパラシュートは、すでに間者の位置を特定している。だが、今の段階で少女を奪還するのは得策ではない」
「どうしてだよ? 早くしないと飛竜とやらで公国に逃げられちまうぞ!」
「少年、今日が何の日なのか、忘れたのか?」
ジェイクの言葉に考えが及ばずオッドは難しい顔で、棒立ちしていた。
見かねた、ブロサッムが急いで助け船を出す。
「英誕祭ですな……ここに来る前にも歓楽街で多くの人々を見かけましたぞ」
「そうだ。この祭りを見に国内外問わず、大勢の観光客が訪れている。もし、人混みの中で奴と事構えることがあれば、死屍累々、屍の山を築くことになるぞ」
過激な発言に、言い返せるモノなど誰もいなかった。
間者の強さを直に見たわけではないが、危険な人物であるというのは判明している。
大人しく拳を握りしめることしかできない……。
誰もそう悔しがる中で、彼だけは他のことを考えていた。
「ジェイク、僕たちは先に生徒会をどうにかしないといけない。奴らは死体強奪事件に深く関わっている、何としてでも取り返さないと、追々、不味いことになるぞ」
「キンバリー・カイネンか。そういえば、ラボで新たなメモリージェムを発見したぞ。これは以前、私があの女に送り付けたモノの信憑性を裏付けるモノとなるだろう。せっかくだ、生徒さんにも見て貰おうか?」
「おい、オマエの悪趣味に付き合う義理はない。僕が必要としているのはガルベナールの情報だけだ」
ギデオンの目の色が変わった。
とても少年のモノとは思えない強烈な眼力に当てられ、ジェイクも委縮するばかりだ。
特にスパイは相手の殺意には敏感だ。生存率を上げるためにそう訓練されている。
「すまない。君たちと私では目的が異なったな。分かった、聖王国宰相ガルベナールの映像だけ見てみよう」
魔道具に魔力を込めると保存されていた撮影映像が映し出される。
それは例の宰相が一人、ソファに腰を落ち着かせながら、誰かに向けてメッセージを送っているモノだった。
「――ええ、すべて滞りなく進んでおります。悪魔の種も、多くの人間に植え込みました。あとは、共和国と公国を対立させ、内戦がおこりやすい環境を整えるだけです。なぁーに、我々の手元には龍番の笛があるのですから。国民全員を兵士として仕立てあげることなど造作もありません」
あの傲慢不遜なガルベナールが頭を下げている。
それだけでも驚きを隠せないわけだが、共和国内の戦争自体、彼によってもたらされた。
嘘のような事実に、耳を疑いたくもなる。
ガルベナールは交渉術に長けていた。
宰相という地位を大いに活用し、戦争を食い物にしている。
悪魔の種やシオン賢者は、その願望を満たすための前段階であった。
人類を兵器として生まれ変わらせようなど、悪魔の発想でしかなかった。
ここまで醜悪で、完全にイカレ狂った人間をギデオンは知らない。
自分以外の人間を物としか見ていない。
でなければ、ここまでの所業を行えるわけがない。
一歩、取り扱いを間違えれば聖王国と共和国の二国間で、戦争が勃発してもおかしくはない。
最悪な状況を生み出しても、なお映像のガルベナールは卑しく笑っている。
もっとも、現在の共和国は防衛一方で反撃に転じる力は残されていない。
それも、また計画のうちなのだろう……。
周辺諸国を弱体化させることで、聖王国から人材を派遣する。
それにより利益を得て、恩を売り、依存させる。
どこまでも腐りきったビジネスモデルが、すでに完成されていた。
その場の流れを断ち切る、オトナの意見に若者たちは表情を固めた。
あまりにも酷であり真に迫る、現実という証明。
相手は、たった一人で大勢の宰相護衛を斬り捨てた。
そのような怪物に、真向から挑んでも犬死することは、ここにいる全員が分かりきっていることだ。
「んだと! オッサン。そもそも、アンタ何者なんだよ!?」真っ先に噛みついたのはオッドだった。
痛い箇所を突かれて、苛立ちをあらわにする姿は正直、褒められたものではない。
ただ、彼なりに現状をどうにか良くしようと必死だった。
そのことは、同じ立場にある学友たちも理解していた。
むろん、対面の立場にるジェイクには通じない。
彼にとって、学生たちの言葉は夢物語を聞かされている気分になる。
根拠もない、スケジュールもない。相手のデータも、勝算も、策も、ないないづくしで聞いて驚く。
あるのは、若さと気概だけという実に心もとないモノばかりだ。
「見ての通り、スパイの真似事が得意な中年さ。私のゴールデンパラシュートは、すでに間者の位置を特定している。だが、今の段階で少女を奪還するのは得策ではない」
「どうしてだよ? 早くしないと飛竜とやらで公国に逃げられちまうぞ!」
「少年、今日が何の日なのか、忘れたのか?」
ジェイクの言葉に考えが及ばずオッドは難しい顔で、棒立ちしていた。
見かねた、ブロサッムが急いで助け船を出す。
「英誕祭ですな……ここに来る前にも歓楽街で多くの人々を見かけましたぞ」
「そうだ。この祭りを見に国内外問わず、大勢の観光客が訪れている。もし、人混みの中で奴と事構えることがあれば、死屍累々、屍の山を築くことになるぞ」
過激な発言に、言い返せるモノなど誰もいなかった。
間者の強さを直に見たわけではないが、危険な人物であるというのは判明している。
大人しく拳を握りしめることしかできない……。
誰もそう悔しがる中で、彼だけは他のことを考えていた。
「ジェイク、僕たちは先に生徒会をどうにかしないといけない。奴らは死体強奪事件に深く関わっている、何としてでも取り返さないと、追々、不味いことになるぞ」
「キンバリー・カイネンか。そういえば、ラボで新たなメモリージェムを発見したぞ。これは以前、私があの女に送り付けたモノの信憑性を裏付けるモノとなるだろう。せっかくだ、生徒さんにも見て貰おうか?」
「おい、オマエの悪趣味に付き合う義理はない。僕が必要としているのはガルベナールの情報だけだ」
ギデオンの目の色が変わった。
とても少年のモノとは思えない強烈な眼力に当てられ、ジェイクも委縮するばかりだ。
特にスパイは相手の殺意には敏感だ。生存率を上げるためにそう訓練されている。
「すまない。君たちと私では目的が異なったな。分かった、聖王国宰相ガルベナールの映像だけ見てみよう」
魔道具に魔力を込めると保存されていた撮影映像が映し出される。
それは例の宰相が一人、ソファに腰を落ち着かせながら、誰かに向けてメッセージを送っているモノだった。
「――ええ、すべて滞りなく進んでおります。悪魔の種も、多くの人間に植え込みました。あとは、共和国と公国を対立させ、内戦がおこりやすい環境を整えるだけです。なぁーに、我々の手元には龍番の笛があるのですから。国民全員を兵士として仕立てあげることなど造作もありません」
あの傲慢不遜なガルベナールが頭を下げている。
それだけでも驚きを隠せないわけだが、共和国内の戦争自体、彼によってもたらされた。
嘘のような事実に、耳を疑いたくもなる。
ガルベナールは交渉術に長けていた。
宰相という地位を大いに活用し、戦争を食い物にしている。
悪魔の種やシオン賢者は、その願望を満たすための前段階であった。
人類を兵器として生まれ変わらせようなど、悪魔の発想でしかなかった。
ここまで醜悪で、完全にイカレ狂った人間をギデオンは知らない。
自分以外の人間を物としか見ていない。
でなければ、ここまでの所業を行えるわけがない。
一歩、取り扱いを間違えれば聖王国と共和国の二国間で、戦争が勃発してもおかしくはない。
最悪な状況を生み出しても、なお映像のガルベナールは卑しく笑っている。
もっとも、現在の共和国は防衛一方で反撃に転じる力は残されていない。
それも、また計画のうちなのだろう……。
周辺諸国を弱体化させることで、聖王国から人材を派遣する。
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