異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百五十三話

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 会議室にて一堂に会する。
 主催者は、元シオン賢者のジェイクとシゼル。
 集まったメンバーは、ギデオンが声をかけたブロサッム、バージェニル、オッド。
 そして、彼らよりも先に会議室にいたクォリスだった。

 正直なところ、同級生たちへ話を持ち掛けること自体、ギデオンは直前まで躊躇ためらっていた。
 これ以上、巻き込んでしまうのは、心苦しくもある。
 しかしながら、学友たちはそれを良しとはしない。
 少なからずとも、ガルベナールの件が関わっている以上、何も説明しないのは不誠実である。
 そう考慮し、決断に至った。

「まず、シゼルから話すね……ここを襲撃してきた奴は、公国の間者とみて間違いないよ。あの独特な服装に刻まれた国章はには覚えがあるよ」

「ちょっと待って! ドルゲニアとの国境線沿いにある南陽門なんようもんは現在、封鎖されているはず、どうやって公国の人間が共和国に侵入してきたというの?」

「悪くはない質問だよ、ミリムスちゃん。昔、シゼルが一座にいた頃、ドルゲニア公国出身の演者から聞いた話なんだけど、ドルゲニアでは遠方に移動する際、飛竜を使って飛んでゆくらしいのよ」

「飛竜? そんなモノが空を飛んでいたら却って目立つわよ! 共和国軍に撃ち落とされるのが関の山でしょっ」

「ノンノン! 飛竜を甘く見ちゃいけないなぁ~。見た目より素早く、賢い生き物なんだから!」

 シゼルとバージェニルの会話から、度々でてくるドルゲニア公国という名称。
 公国のウワサ自体はギデオンも耳にしたことはある。
 共和国と帝国に挟まれるカタチで位置する小国で、武装国家というイメージが定着している。
 聖王国ゼレスティアと対立こそはしていないが、周辺諸国とのイザコザが絶えず悪評高い。
 不穏な気配を漂わせながら、ここ二十年以上は鎖国を強いている。
 近年、共和国との対立が激化し、今では両国民の間でいがみ合っているほどだ。

 公国の人間が、敵国であるサーマリア共和国に赴くのは無論、交友関係を築くためではない。
 諜報活動や要人の暗殺などが主だった目的だろう。
 その点を絡めると今回の事件は、しっくりこない。
 ガルベナールを狙う理由が分からないのだ。

「シゼル、襲撃者はガルベナールを探していなかったか?」

「そんな、素振りはなかったかな? むしろ、騒ぎを聞きつけ止めに入った魔術師ちゃんを見るなり、急に大人しくなったことが驚きだったよぉ~」

「カナッペに従ったということか? オッド、クォリス、彼女から公国に関する話を聞いたことはあるか!?」

 ギデオンの質問に、オッドは腕組みしながらうなっていた。
 可能な限り思い返そうとしているが、当てにはできない。
 一番、親しかったクォリスなら、何か知っていそうだが……。

「無いよ。カ、カナッペは、自分のことはあまり……語らないよ」

「だな。アイツに出身を聞いても地元としか答えなかったし、地理に疎いから変だとは思ったぜ」

 オッドの言葉には核心に至るトゲがあった。
 情報を踏まえると公国の間者は確実にカナッペを探し求めてきた。
 それが意味するところは、彼女が公国側の人間であるという事だ。

 雑念を振り払うようにギデオンが、頭を振る。
 カナッペが公国のスパイであるようには到底、思えない。
 彼女は常に普通の女学生として学校生活を送っているようだった。
 そもそも、どこの出身であろうとも聖王国の人間であるギデオンが気に病むところではない。
 むしろ、共和国育ちのオッドからすれば、何とも煮え切らないモノがあるだろう。
 だとしても、大事なことは共にどう過ごしてきたかだ。

 身分や、生い立ちなどで人のすべては決まるわけではない。
 その事はオッドだってよく、分かっているはずだ。

「オッド……カナッペのことキライになった?」

「んな、わけあるかよ。ただよ、俺たちに隠し事していたのは気に入らないな。アイツ、パーティーは意思疎通が肝心だって言っていただろ? 事情があるのだろうけど、もう少し俺たちを頼って欲しかったぜ」

「そうだね……それがカナッペの悪いところであり良いところなんだよ。私たちに何も打ち明けてくれなかったのもそう。本当は、頼りたいけど……仲間を巻き込みたくないとか、迷惑をかけたくないとか考えて、一人でずっと悩みみを抱えていたんだと思う」

「なら……余計に助けてやらないとな。俺たちが、頼れる仲間だと証明する為にもな」

 オッドとクォリスは互いに明るく微笑んだ。
 事態がさらに困窮する中でも、仲間を思いやる心を忘れない二人を見て、それもまた強さの証なのだとギデオンは感じた。
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