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百五十二話
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「そうですか……分かりました」
迎賓館が襲撃された。
その事実がギデオンの耳に届いたのは、ゴーダと通信を取った最中だった。
平静を取り繕ってはいるも、唐突なイレギュラーに、さすがのギデオンも唇を震わせていた。
通信を終えるのと同時にブロサッムとフローレンスを伴い、迎賓館へと急行する。
正午から数時間経過し、ようやく歓楽街に辿りついた。
「厄介だな……」
正面ゲートに集まった警吏たちを見て、ギデオンたちは即座に物陰に隠れた。
この場所で、事件が発生したことを明らかに示唆していること。
未だ、ブロサッムへの疑惑が晴れていない実情も相まって、一同は踏み留まったまま先に進むことができなかった。
侵入経路を確保するべく、周囲の様子を探っていると館の方から人影が迫ってきた。
「学長の仰ったとおり、ここに来たのか。警吏には、君たちを通すように話をつけてあるから、気にせず入って来なさい」
見覚えのある黒一色で統一されたコーディネートと緩急のない、独特の喋り方。
ルヴィウス勇士学校の学年主任、ミチルシィ・エンピが彼らを出迎えにきた。
学校側が大丈夫だと、言っている以上は少なくとも、ここでブロサッムが捕まることない。
確証を得た生徒たちは、真っ先に正面ゲートをくぐった。
警吏たちが集まっていたのは、別館ではなく奥にある本館の方だった。
入口となる扉の前は、まるで塗料でも撒き散らしたかのように、鮮血で真っ赤に染まっていた。
凄惨な現場に同伴したブロサッムたちは目をふせた。
その中で、ギデオンだけはミチルシィを追いかけ問い詰めていた。
「ランドルフは? 聖王国護衛長がいたはずだ! 彼は、無事なんですか!?」
「落着きたまえ、ギデ君。君の知人については、彼女から話を聞いたほうが良いだろう」
教諭とともに館内に入る。
本来ならば、宰相一行が宿泊する場。関係者以外、立ち入ることは許されない。
セキュリティーの観点からすれば問題にはなるかもしれないが、学長たちの許可が下りるだけで、許容されてしまっている。
それが意味するところは、宰相直轄の外遊スタッフが一人として残っていない。
正体不明の人物に襲われた、挙句、一人として救われなかったという話になる。
そのことは、荒らされた中の様子を目にするだけで感じ取ることができる。
館内は外以上に、吐き気を催す光景が広がっていた。
「うっ……」たち込める血の臭いにギデオンは口元を服の袖で隠した。
すでに、犠牲者の遺体は搬送されたそうだ。
現場には事件の爪痕しか残されていない。
ミチルシィいわく、どの遺体も、一太刀で斬り捨てられたような傷がついていたらしい。
相手の急所を的確に斬るのは、かなりの手練れでなければ無理である。
コンコン! とある部屋の前で止まるとミチルシィはドアをノックした。
それと同時に中の返事も待たずにドアを開く。
そこには、傷つきベッドに横たわる青年の姿があった。
「ランドルフ……お前がここまで追い込まれるとは、一体どこのどいつの仕業なんだ!?」
「多分、生きようする気持ちが人一倍強いんだと思う。ここまで、深手を負いながらも一命は取り留めているよ」
すぐ隣で、シルクエッタがランドルフを治癒していた。
護衛長が受けた刀傷は酷く、彼女は孤軍奮闘しながら、何とか彼を死の淵から救い出そうとしていた。
聖法すら扱えないギデオンには、見守ることぐらいしかできない。
「シルクエッタ、これはどういう事なんだ?」
「ゴメン、ボクにも分からない。外出している隙に事が起こったから……」
「他の皆は? 無事なのか?」
その問いに対しシルクエッタが静かに首を横に振っていた。
「カナッペさんが、連れ去られた……」
衝撃の発言とともに、さらなる疑問が押し寄せてくる。
「どうして、彼女が……?」
事態が飲み込めず歯痒さばかりが募る一方で、彼のもとにやってきたのはガルベナールに扮していたシゼルだった。
「アンタは無事だったのか?」
「まぁね。シゼルたちは別館の方に待機していたから犯人とは出くわさなかったわけ。それよりも、ギデオン・グラッセ、君に話さないといけないことがあるの。ちょうど、ジェイクのオジサンも戻ってきたから今後のことも兼ねて話し合おうよ~!」
「分かった。僕の他にも何人か、声をかけて良いか? ここまで、見られているんだ。何も説明しないわけにはいかないだろう」
「いいんじゃないかな。オジサンはともかく、シゼルは皆に話すつもりだったしぃ。それじゃ、別館の会議室に集合ってことで」
迎賓館が襲撃された。
その事実がギデオンの耳に届いたのは、ゴーダと通信を取った最中だった。
平静を取り繕ってはいるも、唐突なイレギュラーに、さすがのギデオンも唇を震わせていた。
通信を終えるのと同時にブロサッムとフローレンスを伴い、迎賓館へと急行する。
正午から数時間経過し、ようやく歓楽街に辿りついた。
「厄介だな……」
正面ゲートに集まった警吏たちを見て、ギデオンたちは即座に物陰に隠れた。
この場所で、事件が発生したことを明らかに示唆していること。
未だ、ブロサッムへの疑惑が晴れていない実情も相まって、一同は踏み留まったまま先に進むことができなかった。
侵入経路を確保するべく、周囲の様子を探っていると館の方から人影が迫ってきた。
「学長の仰ったとおり、ここに来たのか。警吏には、君たちを通すように話をつけてあるから、気にせず入って来なさい」
見覚えのある黒一色で統一されたコーディネートと緩急のない、独特の喋り方。
ルヴィウス勇士学校の学年主任、ミチルシィ・エンピが彼らを出迎えにきた。
学校側が大丈夫だと、言っている以上は少なくとも、ここでブロサッムが捕まることない。
確証を得た生徒たちは、真っ先に正面ゲートをくぐった。
警吏たちが集まっていたのは、別館ではなく奥にある本館の方だった。
入口となる扉の前は、まるで塗料でも撒き散らしたかのように、鮮血で真っ赤に染まっていた。
凄惨な現場に同伴したブロサッムたちは目をふせた。
その中で、ギデオンだけはミチルシィを追いかけ問い詰めていた。
「ランドルフは? 聖王国護衛長がいたはずだ! 彼は、無事なんですか!?」
「落着きたまえ、ギデ君。君の知人については、彼女から話を聞いたほうが良いだろう」
教諭とともに館内に入る。
本来ならば、宰相一行が宿泊する場。関係者以外、立ち入ることは許されない。
セキュリティーの観点からすれば問題にはなるかもしれないが、学長たちの許可が下りるだけで、許容されてしまっている。
それが意味するところは、宰相直轄の外遊スタッフが一人として残っていない。
正体不明の人物に襲われた、挙句、一人として救われなかったという話になる。
そのことは、荒らされた中の様子を目にするだけで感じ取ることができる。
館内は外以上に、吐き気を催す光景が広がっていた。
「うっ……」たち込める血の臭いにギデオンは口元を服の袖で隠した。
すでに、犠牲者の遺体は搬送されたそうだ。
現場には事件の爪痕しか残されていない。
ミチルシィいわく、どの遺体も、一太刀で斬り捨てられたような傷がついていたらしい。
相手の急所を的確に斬るのは、かなりの手練れでなければ無理である。
コンコン! とある部屋の前で止まるとミチルシィはドアをノックした。
それと同時に中の返事も待たずにドアを開く。
そこには、傷つきベッドに横たわる青年の姿があった。
「ランドルフ……お前がここまで追い込まれるとは、一体どこのどいつの仕業なんだ!?」
「多分、生きようする気持ちが人一倍強いんだと思う。ここまで、深手を負いながらも一命は取り留めているよ」
すぐ隣で、シルクエッタがランドルフを治癒していた。
護衛長が受けた刀傷は酷く、彼女は孤軍奮闘しながら、何とか彼を死の淵から救い出そうとしていた。
聖法すら扱えないギデオンには、見守ることぐらいしかできない。
「シルクエッタ、これはどういう事なんだ?」
「ゴメン、ボクにも分からない。外出している隙に事が起こったから……」
「他の皆は? 無事なのか?」
その問いに対しシルクエッタが静かに首を横に振っていた。
「カナッペさんが、連れ去られた……」
衝撃の発言とともに、さらなる疑問が押し寄せてくる。
「どうして、彼女が……?」
事態が飲み込めず歯痒さばかりが募る一方で、彼のもとにやってきたのはガルベナールに扮していたシゼルだった。
「アンタは無事だったのか?」
「まぁね。シゼルたちは別館の方に待機していたから犯人とは出くわさなかったわけ。それよりも、ギデオン・グラッセ、君に話さないといけないことがあるの。ちょうど、ジェイクのオジサンも戻ってきたから今後のことも兼ねて話し合おうよ~!」
「分かった。僕の他にも何人か、声をかけて良いか? ここまで、見られているんだ。何も説明しないわけにはいかないだろう」
「いいんじゃないかな。オジサンはともかく、シゼルは皆に話すつもりだったしぃ。それじゃ、別館の会議室に集合ってことで」
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