異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百五十話

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 空に浮かぶ雲の流れが加速してゆく。
 どこからともなく吹きつける湿っぽい風が身に絡みついてくる。
 意地の悪い突風が整えていた髪を乱しボサボサにしてきた。
 お気に入りの服など、砂ぼこりに塗れて台無しだ。

 普段から、クォリスは身だしなみに気を使うよう心掛けている。
 今日のように荒野風が強い時は屋内に必ず避難する。
 現状、それが叶わないせいで、みすぼらしい姿をさらすことになった。
 仕方ない事とはいえ、彼女にとっては不快でしかない。
 卒倒してしまうほどのザラつく肌の感触に、目元がピクピクと痙攣けいれんをおこす。
 対峙する悪魔の邪悪な波動も相まって、ますます気分を害すばかりだ。

「君は、トップクラスの生徒さんだよね?」
 シルクエッタが声をかけると彼女はコクリと頷いた。

「どうして此処に? それにその力は……」

「問答無用です……私は、悪しき者を退治にきただけです」

 虫のいどころが悪い陰陽師に、今までのような戸惑いや自信のなさは取り払われていた。
 シルクエッタに対して、あまり良い印象を抱いていないことも起因している。
 クォリスは、シルクエッタとギデオンがどのような関係にあるのか理解していなかった。
 何もしらないまま、彼に色目を使う女だと勝手に誤解し、対抗意識を燃やしていた。

 そのことをシルクエッタ当人は露知らず、窮地を救ってくれた生徒に感謝していた。

「人の目が多いので……結界、張ります。氷葬結界、フラストゥ・アイソレイト」

 陰陽師の武舞。その軽やかで雅やかな舞いに合わせ、辺りが急激に冷やされてゆく。
 気温が低下すると、粉雪がシンシンと舞い始めた。

「ハハァ~ン! 結界とは、また大それた物を……悲しいねぇ~、そんなんで僕を押し込めても意味なんかないのにぃぃ」

「押し込めたわけじゃない……オマエが一般人を盾にして逃亡するのを防ぐだけ」

「言ってくれるねぇ~!」

 肉眼では捉え辛い白の結界が張られた。
 時に激しく、時に繊細。
 思わず、魅入ってしまう武舞であったからこそ、結界の効果範囲は絶大なモノとなった。
 クォリス自身を中心に、氷と雪の世界が形成された。

 吐く息、白くなる氷点下の中で、高い笛の音色が澄み渡ってくる。
 表情豊かな音を放つフルートで楽曲を奏でる。
 本当に、悪魔が演奏していることなど忘れてしまいそうになるほど素晴らしい。
 洗練されすぎて、逆に恐ろしくなってくる……。

 演奏によって増幅された魔力が楽師の身を包んだ。
 黒光りする皮膚に発達した筋肉、兜下から突き出た角と口元からは鋭い牙。
 力を取り込んだ楽師は本来の姿、アークデーモニアに変異した。

「こうなった以上は、手加減はできないぞ。下等な種族よ、己が非力を呪うがよい」

 一歩、足を踏み込んだ瞬間、地面に積もり出していた氷雪が宙を舞った。
 爆発的な加速度で迫りくる脅威に対し、陰陽師は結界効果により生み出した氷柱の連撃で応戦してゆく。

「フェフェ、この程度の柱など造作もない」

「そう? ならこれならどう?」

 氷柱がツツラとなり四方八方から、悪鬼を挟み込む。
 身を貫かれ、動きを封じこめられている。
 そう見えた刹那、氷塊はすべて粉砕され氷塵をまき散らす。

 圧倒的な力を見せびらかし、独りご満悦な悪魔。
 魔物の様子を冷淡にうかがいつつも、今度はクォリスの方から走り出す。

「援護します! 我らを守護する女神よ。その全知全能の一端を標とし、その子らに祝福と力の糧を与え給え。ゴッドブレス」

 聖法による支援バフでクォリスの身体能力が飛躍的に上昇した。
 シルクエッタの顔を一瞥いちべつすると、凍てついたシュプールヘウレーカの刃を悪魔に向けて撃ちこんだ。
 拳の動きと連動して、拳を繰り出すとともに刃が切り離され飛び出してゆく。
 腕力ではなく、魔力により運動エネルギーを作り出し攻撃に転用する。

「ぐぉおおおおおお―――――」
 六本のつるぎを直にくらわされ、アークデーモニアはジリジリと後方に押し流されてゆく。

 近接武器を媒体とし、魔力を用いて中近、遠距離武器に変容させる。
 これこそが、陰陽師であるクォリスが編み出したエンチャントウエポンの進化系。
 属性付与から属性顕現に至る、新たなるスキル、その名をと呼ぶ。

 アークデーモニアにとって、メディウムウエポンの存在は予想すらできなかったことだ。
 当然ながら対策などない。
 自身の魔力で強化された肉体が、光属性を帯びる氷刃によって相剋そうこくされている。
 魔力と魔力がぶつかり合い互いを打ち消した。
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