150 / 362
百五十話
しおりを挟む
空に浮かぶ雲の流れが加速してゆく。
どこからともなく吹きつける湿っぽい風が身に絡みついてくる。
意地の悪い突風が整えていた髪を乱しボサボサにしてきた。
お気に入りの服など、砂ぼこりに塗れて台無しだ。
普段から、クォリスは身だしなみに気を使うよう心掛けている。
今日のように荒野風が強い時は屋内に必ず避難する。
現状、それが叶わないせいで、みすぼらしい姿をさらすことになった。
仕方ない事とはいえ、彼女にとっては不快でしかない。
卒倒してしまうほどのザラつく肌の感触に、目元がピクピクと痙攣をおこす。
対峙する悪魔の邪悪な波動も相まって、ますます気分を害すばかりだ。
「君は、トップクラスの生徒さんだよね?」
シルクエッタが声をかけると彼女はコクリと頷いた。
「どうして此処に? それにその力は……」
「問答無用です……私は、悪しき者を退治にきただけです」
虫のいどころが悪い陰陽師に、今までのような戸惑いや自信のなさは取り払われていた。
シルクエッタに対して、あまり良い印象を抱いていないことも起因している。
クォリスは、シルクエッタとギデオンがどのような関係にあるのか理解していなかった。
何もしらないまま、彼に色目を使う女だと勝手に誤解し、対抗意識を燃やしていた。
そのことをシルクエッタ当人は露知らず、窮地を救ってくれた生徒に感謝していた。
「人の目が多いので……結界、張ります。氷葬結界、フラストゥ・アイソレイト」
陰陽師の武舞。その軽やかで雅やかな舞いに合わせ、辺りが急激に冷やされてゆく。
気温が低下すると、粉雪がシンシンと舞い始めた。
「ハハァ~ン! 結界とは、また大それた物を……悲しいねぇ~、そんなんで僕を押し込めても意味なんかないのにぃぃ」
「押し込めたわけじゃない……オマエが一般人を盾にして逃亡するのを防ぐだけ」
「言ってくれるねぇ~!」
肉眼では捉え辛い白の結界が張られた。
時に激しく、時に繊細。
思わず、魅入ってしまう武舞であったからこそ、結界の効果範囲は絶大なモノとなった。
クォリス自身を中心に、氷と雪の世界が形成された。
吐く息、白くなる氷点下の中で、高い笛の音色が澄み渡ってくる。
表情豊かな音を放つフルートで楽曲を奏でる。
本当に、悪魔が演奏していることなど忘れてしまいそうになるほど素晴らしい。
洗練されすぎて、逆に恐ろしくなってくる……。
演奏によって増幅された魔力が楽師の身を包んだ。
黒光りする皮膚に発達した筋肉、兜下から突き出た角と口元からは鋭い牙。
力を取り込んだ楽師は本来の姿、アークデーモニアに変異した。
「こうなった以上は、手加減はできないぞ。下等な種族よ、己が非力を呪うがよい」
一歩、足を踏み込んだ瞬間、地面に積もり出していた氷雪が宙を舞った。
爆発的な加速度で迫りくる脅威に対し、陰陽師は結界効果により生み出した氷柱の連撃で応戦してゆく。
「フェフェ、この程度の柱など造作もない」
「そう? ならこれならどう?」
氷柱がツツラとなり四方八方から、悪鬼を挟み込む。
身を貫かれ、動きを封じこめられている。
そう見えた刹那、氷塊はすべて粉砕され氷塵をまき散らす。
圧倒的な力を見せびらかし、独りご満悦な悪魔。
魔物の様子を冷淡にうかがいつつも、今度はクォリスの方から走り出す。
「援護します! 我らを守護する女神よ。その全知全能の一端を標とし、その子らに祝福と力の糧を与え給え。ゴッドブレス」
聖法による支援バフでクォリスの身体能力が飛躍的に上昇した。
シルクエッタの顔を一瞥すると、凍てついたシュプールヘウレーカの刃を悪魔に向けて撃ちこんだ。
拳の動きと連動して、拳を繰り出すとともに刃が切り離され飛び出してゆく。
腕力ではなく、魔力により運動エネルギーを作り出し攻撃に転用する。
「ぐぉおおおおおお―――――」
六本の剣を直にくらわされ、アークデーモニアはジリジリと後方に押し流されてゆく。
近接武器を媒体とし、魔力を用いて中近、遠距離武器に変容させる。
これこそが、陰陽師であるクォリスが編み出したエンチャントウエポンの進化系。
属性付与から属性顕現に至る、新たなるスキル、その名をメディウムと呼ぶ。
アークデーモニアにとって、メディウムウエポンの存在は予想すらできなかったことだ。
当然ながら対策などない。
自身の魔力で強化された肉体が、光属性を帯びる氷刃によって相剋されている。
魔力と魔力がぶつかり合い互いを打ち消した。
どこからともなく吹きつける湿っぽい風が身に絡みついてくる。
意地の悪い突風が整えていた髪を乱しボサボサにしてきた。
お気に入りの服など、砂ぼこりに塗れて台無しだ。
普段から、クォリスは身だしなみに気を使うよう心掛けている。
今日のように荒野風が強い時は屋内に必ず避難する。
現状、それが叶わないせいで、みすぼらしい姿をさらすことになった。
仕方ない事とはいえ、彼女にとっては不快でしかない。
卒倒してしまうほどのザラつく肌の感触に、目元がピクピクと痙攣をおこす。
対峙する悪魔の邪悪な波動も相まって、ますます気分を害すばかりだ。
「君は、トップクラスの生徒さんだよね?」
シルクエッタが声をかけると彼女はコクリと頷いた。
「どうして此処に? それにその力は……」
「問答無用です……私は、悪しき者を退治にきただけです」
虫のいどころが悪い陰陽師に、今までのような戸惑いや自信のなさは取り払われていた。
シルクエッタに対して、あまり良い印象を抱いていないことも起因している。
クォリスは、シルクエッタとギデオンがどのような関係にあるのか理解していなかった。
何もしらないまま、彼に色目を使う女だと勝手に誤解し、対抗意識を燃やしていた。
そのことをシルクエッタ当人は露知らず、窮地を救ってくれた生徒に感謝していた。
「人の目が多いので……結界、張ります。氷葬結界、フラストゥ・アイソレイト」
陰陽師の武舞。その軽やかで雅やかな舞いに合わせ、辺りが急激に冷やされてゆく。
気温が低下すると、粉雪がシンシンと舞い始めた。
「ハハァ~ン! 結界とは、また大それた物を……悲しいねぇ~、そんなんで僕を押し込めても意味なんかないのにぃぃ」
「押し込めたわけじゃない……オマエが一般人を盾にして逃亡するのを防ぐだけ」
「言ってくれるねぇ~!」
肉眼では捉え辛い白の結界が張られた。
時に激しく、時に繊細。
思わず、魅入ってしまう武舞であったからこそ、結界の効果範囲は絶大なモノとなった。
クォリス自身を中心に、氷と雪の世界が形成された。
吐く息、白くなる氷点下の中で、高い笛の音色が澄み渡ってくる。
表情豊かな音を放つフルートで楽曲を奏でる。
本当に、悪魔が演奏していることなど忘れてしまいそうになるほど素晴らしい。
洗練されすぎて、逆に恐ろしくなってくる……。
演奏によって増幅された魔力が楽師の身を包んだ。
黒光りする皮膚に発達した筋肉、兜下から突き出た角と口元からは鋭い牙。
力を取り込んだ楽師は本来の姿、アークデーモニアに変異した。
「こうなった以上は、手加減はできないぞ。下等な種族よ、己が非力を呪うがよい」
一歩、足を踏み込んだ瞬間、地面に積もり出していた氷雪が宙を舞った。
爆発的な加速度で迫りくる脅威に対し、陰陽師は結界効果により生み出した氷柱の連撃で応戦してゆく。
「フェフェ、この程度の柱など造作もない」
「そう? ならこれならどう?」
氷柱がツツラとなり四方八方から、悪鬼を挟み込む。
身を貫かれ、動きを封じこめられている。
そう見えた刹那、氷塊はすべて粉砕され氷塵をまき散らす。
圧倒的な力を見せびらかし、独りご満悦な悪魔。
魔物の様子を冷淡にうかがいつつも、今度はクォリスの方から走り出す。
「援護します! 我らを守護する女神よ。その全知全能の一端を標とし、その子らに祝福と力の糧を与え給え。ゴッドブレス」
聖法による支援バフでクォリスの身体能力が飛躍的に上昇した。
シルクエッタの顔を一瞥すると、凍てついたシュプールヘウレーカの刃を悪魔に向けて撃ちこんだ。
拳の動きと連動して、拳を繰り出すとともに刃が切り離され飛び出してゆく。
腕力ではなく、魔力により運動エネルギーを作り出し攻撃に転用する。
「ぐぉおおおおおお―――――」
六本の剣を直にくらわされ、アークデーモニアはジリジリと後方に押し流されてゆく。
近接武器を媒体とし、魔力を用いて中近、遠距離武器に変容させる。
これこそが、陰陽師であるクォリスが編み出したエンチャントウエポンの進化系。
属性付与から属性顕現に至る、新たなるスキル、その名をメディウムと呼ぶ。
アークデーモニアにとって、メディウムウエポンの存在は予想すらできなかったことだ。
当然ながら対策などない。
自身の魔力で強化された肉体が、光属性を帯びる氷刃によって相剋されている。
魔力と魔力がぶつかり合い互いを打ち消した。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる