異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
146 / 362

百四十六話

しおりを挟む
「この程度の剣戟で剣を語るとは、笑止」

 その無法者の目元は編み笠で隠された。
 ただ、剥き出しとなっている口元は絶えず口角を広げていた。
 枯れ枝のような、男の指先が黒塗りの柄をつかむ。
 すると、正体不明の空気の層がランドルフに押し寄せてきた。

 得体の知れない違和感……。
 殺意でも敵意でもない、それはランドルフの心を大いに揺さぶってくる。
 男が並みの剣士でないことは対峙した時から感じていた。

 ――近いモノは遠く、遠いモノは近くに。

 ランドルフは観の目で、相手の全体像を捉えようとしていた。
 肉体の動作を見るのではない。注目すべきは相手の心情、内面だ。
 自分の動きに合わせ無法者はどう動いてくるのか? 何度も脳内シュミレートしてみる。
 レイピア一本で、真向勝負を挑むか。
 それとも、二刀流でトリッキーに立ち回るか。
 様々な攻撃パターンを思い描くが剣先が男に届くイメージがまったく浮かばない。
 考えれば考えるほど、焦燥感が増してくる。

「なまじ、腕に覚えがあるようだが……ワシにオマエの剣が通じると思うてかぁ!」

「みくびるな――! 剣は一手ですべてを変える。貴様に、私の太刀筋が見切れるか!?」

『極限の無呼吸』が発動した。
 敵に放つ、一突きが幾重もの連撃に変化する。
 怒涛のラッシュで無法者のガードを突き崩そうとレイピアが空を切り裂く。
「フン……」黒刀の柄の先端(茎尻なかごじり)が大技アネアリミットブレイクの刺突を的確に捌く。
 ランドルフと同等……いや、それ以上に返しの刀が速い。

「一閃百撃とは、恐れ入った。だが! ワシのは一閃千撃だよ」

「ごはっ!!」

 茎尻が青年の鳩尾みぞおちに深くめり込んでいた。
 その場で身を屈め、苦痛にあえぐ。
 もし、あの今の攻撃が連撃だったら即死だったであろう。

 妙な手心を加えられ、鼻持ちならないが、それだけ実力差はひらけている。
 やはり、二刀を用いて翻弄するのが正解なのか……。

「ロールスライサー!」

 素早くカトラスをに抜き取ると立ち上がり際に、刃を揮う。
 ほぼ、ゼロ距離だというのにあと一歩が届かない。
 尋常ならざる反射神経を持つ男。
 無法者を相手に、ランドルフは為す術もなく消耗してゆく。
 どれだけ強固な一撃を放つことが出来ても、腕自体をつかまれてしまえば何も出来ない。
 無防備となったところに凶悪な膝蹴りが飛ぶ。

「うぐぅ―――」悲鳴が声にならない。
 男の剛腕が喉元をガッシリとつかんでいる。

「訊こう。何故? あの御方がこんな場所にいる?」

「な……んの話……だ」

「まったく、ガルベナールの奴め。 面倒事ばかり増やしおって……まぁ、よい。あの方は公国にとっては宝、返してもらうぞ」

「貴様……宰相と、どういう――――」

「死して眠れ」

 ランドルフの鮮血が散った。一瞬にして、手足の腱を斬られ地べたに横たわる。
 いつ、どうやって斬られたのか分からない。
 間近に転がるレイピアを拾い上げようとするが、指先一つ動かない。

「ほう、まだ息があるのか? だが、この出血だ。そう長くは持たんだろう」

 男は瀕死のランドルフには、目もくれず迎賓館の扉を蹴り破った。
 カラン――コロン――と下駄の音だけが確かに響く。
 館内で銃の発砲音と悲鳴が上がった。
 突然の襲撃は、惨劇を生み出す。
 男の正体すら分からないまま、ランドルフは意識を失った―――――


 *

 迎賓館を離れたシルクエッタはとある場所に向かっていた。
 聖職者である彼女は、ごくまれに神託を授かることがある。
 神託とは、心の中で聞こえる自分以外の誰かの声。
 その声はゴーダ学長と面会した翌日から、少しづつ聞こえ始めた。

『厄災が近づいている。厄災をこの街に入れてはダメ!』

 そうハッキリと聞こえた以上、無視を決め込むことはできない。
 明らかに、最悪の訪れを告げている。
 シルクエッタは、ナズィール駅方面を目指していた。
 
 エリエから鉄道でやってきた、それは長身の道化師だった。
 人目をひく白と紫の縦じまの衣装をまとい鉄の兜を頭からスッポリとかぶっている。
 懐には長方形の木箱を大事そうに抱えていた。

 道化師は、楽師だった。
 マジックや大道芸は、彼の得意とする分野ではなく、楽器演奏こそが生きがいであり、自身が他者に誇れるものであった。

 今宵は、英誕祭。
 大昔、この地に現れた英雄を祀る日
 日が暮れると共に、街中がお祭りムード一色に染まる。
 年に一度の祭りを楽しみしていた人々が集い、歌い踊る。
 道化師にとって演奏するのには、これ以上はない最高の舞台だった。
 ナズィールの街並みを眺めながら、彼は笑った。

「今日は歴史に残るメモリアルデーになる。フフェフフェフフェ~」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...