異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
146 / 366

百四十六話

しおりを挟む
「この程度の剣戟で剣を語るとは、笑止」

 その無法者の目元は編み笠で隠された。
 ただ、剥き出しとなっている口元は絶えず口角を広げていた。
 枯れ枝のような、男の指先が黒塗りの柄をつかむ。
 すると、正体不明の空気の層がランドルフに押し寄せてきた。

 得体の知れない違和感……。
 殺意でも敵意でもない、それはランドルフの心を大いに揺さぶってくる。
 男が並みの剣士でないことは対峙した時から感じていた。

 ――近いモノは遠く、遠いモノは近くに。

 ランドルフは観の目で、相手の全体像を捉えようとしていた。
 肉体の動作を見るのではない。注目すべきは相手の心情、内面だ。
 自分の動きに合わせ無法者はどう動いてくるのか? 何度も脳内シュミレートしてみる。
 レイピア一本で、真向勝負を挑むか。
 それとも、二刀流でトリッキーに立ち回るか。
 様々な攻撃パターンを思い描くが剣先が男に届くイメージがまったく浮かばない。
 考えれば考えるほど、焦燥感が増してくる。

「なまじ、腕に覚えがあるようだが……ワシにオマエの剣が通じると思うてかぁ!」

「みくびるな――! 剣は一手ですべてを変える。貴様に、私の太刀筋が見切れるか!?」

『極限の無呼吸』が発動した。
 敵に放つ、一突きが幾重もの連撃に変化する。
 怒涛のラッシュで無法者のガードを突き崩そうとレイピアが空を切り裂く。
「フン……」黒刀の柄の先端(茎尻なかごじり)が大技アネアリミットブレイクの刺突を的確に捌く。
 ランドルフと同等……いや、それ以上に返しの刀が速い。

「一閃百撃とは、恐れ入った。だが! ワシのは一閃千撃だよ」

「ごはっ!!」

 茎尻が青年の鳩尾みぞおちに深くめり込んでいた。
 その場で身を屈め、苦痛にあえぐ。
 もし、あの今の攻撃が連撃だったら即死だったであろう。

 妙な手心を加えられ、鼻持ちならないが、それだけ実力差はひらけている。
 やはり、二刀を用いて翻弄するのが正解なのか……。

「ロールスライサー!」

 素早くカトラスをに抜き取ると立ち上がり際に、刃を揮う。
 ほぼ、ゼロ距離だというのにあと一歩が届かない。
 尋常ならざる反射神経を持つ男。
 無法者を相手に、ランドルフは為す術もなく消耗してゆく。
 どれだけ強固な一撃を放つことが出来ても、腕自体をつかまれてしまえば何も出来ない。
 無防備となったところに凶悪な膝蹴りが飛ぶ。

「うぐぅ―――」悲鳴が声にならない。
 男の剛腕が喉元をガッシリとつかんでいる。

「訊こう。何故? あの御方がこんな場所にいる?」

「な……んの話……だ」

「まったく、ガルベナールの奴め。 面倒事ばかり増やしおって……まぁ、よい。あの方は公国にとっては宝、返してもらうぞ」

「貴様……宰相と、どういう――――」

「死して眠れ」

 ランドルフの鮮血が散った。一瞬にして、手足の腱を斬られ地べたに横たわる。
 いつ、どうやって斬られたのか分からない。
 間近に転がるレイピアを拾い上げようとするが、指先一つ動かない。

「ほう、まだ息があるのか? だが、この出血だ。そう長くは持たんだろう」

 男は瀕死のランドルフには、目もくれず迎賓館の扉を蹴り破った。
 カラン――コロン――と下駄の音だけが確かに響く。
 館内で銃の発砲音と悲鳴が上がった。
 突然の襲撃は、惨劇を生み出す。
 男の正体すら分からないまま、ランドルフは意識を失った―――――


 *

 迎賓館を離れたシルクエッタはとある場所に向かっていた。
 聖職者である彼女は、ごくまれに神託を授かることがある。
 神託とは、心の中で聞こえる自分以外の誰かの声。
 その声はゴーダ学長と面会した翌日から、少しづつ聞こえ始めた。

『厄災が近づいている。厄災をこの街に入れてはダメ!』

 そうハッキリと聞こえた以上、無視を決め込むことはできない。
 明らかに、最悪の訪れを告げている。
 シルクエッタは、ナズィール駅方面を目指していた。
 
 エリエから鉄道でやってきた、それは長身の道化師だった。
 人目をひく白と紫の縦じまの衣装をまとい鉄の兜を頭からスッポリとかぶっている。
 懐には長方形の木箱を大事そうに抱えていた。

 道化師は、楽師だった。
 マジックや大道芸は、彼の得意とする分野ではなく、楽器演奏こそが生きがいであり、自身が他者に誇れるものであった。

 今宵は、英誕祭。
 大昔、この地に現れた英雄を祀る日
 日が暮れると共に、街中がお祭りムード一色に染まる。
 年に一度の祭りを楽しみしていた人々が集い、歌い踊る。
 道化師にとって演奏するのには、これ以上はない最高の舞台だった。
 ナズィールの街並みを眺めながら、彼は笑った。

「今日は歴史に残るメモリアルデーになる。フフェフフェフフェ~」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...