異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百四十三話

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 神殿裏の墓所―――壮観なウルス殿が脚光を浴びる、その陰でひっそりとたたずむドーム型の建造物。
 ウルス殿と同時期に造営された安息の間は、同じく歴史的な価値を持つ。
 また、墓所だけではなく寺院でもある為、年間を通して多くの観光客が参拝に訪れる。

 これまで見た事もない広大な規模の聖域に、ギデオンも度肝を抜かれていた。
 聖王国にあった教会が洗練されたモノなら、共和国のそれは、堂々たるモノだ。
 そこに頼もしさや頑強さを感じてしまうのは、元信徒の性である。

「デカいな……」

「ですな。共和国東部の方々は死後、この場に埋葬されるそうですからな」

「どうして、一ヶ所に集中しているんだろうな? 聖王国では墓地はいくつもあったから不思議だ」

「我も他国の出身なので詳しくはありませぬが、共和国の人々は魂というモノの概念に特別な想いを抱いていると聞きます。何でも輪廻転生リンカーネイションと呼ばれるもので、死後の人間は生まれ変わる為に長い年月をかけて旅をするとか。なので、道中はぐれてしまう者がでないようにと、こうして集合しやすくしているのでしょう」

「魂は年に二度だけ開く天界の門を目指してゆくそうだモン!」

「なるほど、為になる話だ」

「ミルティナス神教は違うのかモン?」

「まぁな……空にある神々の星、ユナテリオンに死者は帰還してゆくとされている。それよりも……馴染すぎてやしないか、お前?」

「固いことは言いっこなしだモン」

 成り行きとは言え、同行させるカタチとなった獣人族の女学生フローレンス。
 彼女はコミュニケーションお化けだった。
 お化けとは、すなわち怪物、剛の者。
 愛くるしい容姿と、垢抜けた性格で他者と距離感を縮め、一気に打ち解けてゆく。
 悩み事があると、ついつい相談してしまう。
 彼女は誰とでも気さくに話せる生徒会のマスコット。
 その地位を築いた今、男女問わず学校の生徒たちから高い支持を得ている。

「とりあえず、得意のカマトトで、そこの神官と交渉してきてくれ」

「カマトトいうなぁぁぁ!! ほぉんと、人使い荒いわぁああ――――」

 その魅力がギデオンの心にささることはない……。
 ハンター系のクラスであるゆえ、獣人を狩りの獲物と感じ取ってしまうらしい。

 だからといって狩りの衝動にかられるわけでもない。
 あくまで、感覚として捉えるだけで精神に作用することもない。
 普通の少女として接するだけだ。

「オッケーもらったモン! まだ、棺は寺院の方に安置しているらしいモン」

「さすが、生徒会だな。こうも簡単に話が通ると手間が省ける」

「手間? モンがいなかったら、どうやって棺を調べるつもりだったモン!?」

「それはですな。我が――――」

 ブロッサムの話を聞きながら、顔面蒼白となったフローレンスが「野蛮だモン!!」と叫んだ。

 墓所の中に入る。ドーム型の内部は白塗り一色の外壁とは打って変わり、視覚を刺激するほど色彩の濃い壁画が描かれていた。
 その内容は、女神が降臨する場面から始まり、この地に蔓延るはびこる邪と対峙し討ち取るまでの話が、一編ずつ、いくつかに分けられたものだ。

 人類にとっての大いなる遺産、国宝級の宝が、そこら中に散らばっている。
 息つく暇もなく、押し寄せてくる興奮にギデオンは軽い眩暈を覚えた。
 壁画から伝わってくる情報は、神である歩帝斗と関わりを持つ彼だからこそ、得られるモノである。

「こっちだモン。この部屋に棺が置かれているモン」

「これが例の棺ですかな? ギデ殿」

「間違いない、告別式の時に見た物だ」

 薄暗い部屋の中央に棺が置かれていた。
 棺以外、何も置かれていないことから、部屋というよりは保管場所といった方が適切な感じがする。
「早速、始めるぞ」ギデオンは棺のそばで手をかざす。
 その手の中に鏡が出現すると、棺桶を映し隠されていたモノを浮き彫りしてゆく。

「おおっ!! その力は! ステータス画面という奴ですな! 我も昔、一度だけ見たことがありますぞ。もしや、ギデ殿は異界の使者なのですか!?」

「説明は後だ。二人とも、僕たちは遺体の行方ばかりに気を取られて、身近なところに犯人を暴き出すヒントがある事を見落としていた。それは、遺体を盗んだ犯人も同じだ。まさか、こんな方法で調べられるとは思いもしないだろう」

「どういう事だモン。棺なんか調べて指紋を見つけ出しても棺自体、大勢の人間が触れているから犯人の特定には至らないモン」

「昔、恩師から聞いた話だが、棺にはランクが存在するそうだ。故人の身分で変わり、貴族と平民では棺に使用される木材すら異なる。これは東大陸の主要国家では必ずと言っていいほど、取り決められている習慣のようなものらしい。キンバリー教諭は、博士号を持っていた……ゆえに貴族と同等の扱いでなければ不自然だ!」

「という事は……もしや!!」

「そうだ。この棺は、貴族用の棺に用いられる七耀木シチヨウボクで作られていない、平民用の物!! つまり、遺体だけが盗まれたわけではなく、ひつぎごと奪われたんだ!!」
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