異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
142 / 362

百四十二話

しおりを挟む
 倒れ込んだままの襲撃者を見下ろすギデオン。
 その澄みきった眼差しは冷淡でありつつも、どこかきつけられるモノがある。

 己が武具を失った襲撃者は、打つ手なしといわんばかりに両肩を震わせながら委縮していた。
 すでに半泣きしている姿に、ギデオンとブロッサムもお手上げとなり構えを解いた。

「これでは、どちらが悪者か? 分かりませぬな。フローレンス殿、咄嗟のことで殴ってしまい申し訳ないが先に手出ししたのはそちら、納得のゆく説明をしてもらいますぞ!」

「何を……ブロッコリ! どうしてオマエが此処にいるモン! モンは本殿の警備を任されているから侵入者がいたら排除するのは当然のことだモン!!」

「モン? なぁ? お前、ふざけているのか……」

「ヒ……アヒヒヒヒィィ――!! この人、おっかないモン!」

「ギデ殿、これが彼女の素ですぞ」

 ギデオンを凄まれ、さらに身を丸くし縮まり込むフローレンス。
 相当な怖がりなのだろう。
 彼女の災害にでもあったかのようなリアクションに、ギデオンも少しばかりショックを受けた。

 ブロッサムが仲介に入ってくれなければ、さらに厳しく追求していただろう。
 この少女の気になる、不可解なポイントは話し方のみだけではないのだから……。

「ブロッサム、彼女の頭に獣のような耳が生えているんだが……?」

「えっ? まあ、そうでしょう…………ま、まさかっ! ギデ殿は獣人族を見たことがないのですか!?」

「獣人族……? ケンタウロスみたいな奴か?」

「バッ、それは架空の生物だモン!! 今時、獣人族も知らないだなんて、どこの糞田舎のダサ房だモン!!」

「……そいつは悪かったな。なんせ、聖王国じゃ見かけない珍獣だからな」

「ち、珍獣――――――!! コイツ、キライ」


 獣人族との初めての交流。
 その時の出来事をギデは著書でこう綴っている。

『最初に出会ったのが彼女でなければ獣人族のイメージは違ったモノになったかもしれない。少なくとも、語尾が変な種族だと誤解することはなかった。思い返す度に彼女が「モン」と言っていた理由がわからない。気になるけれど、知っても特はない。だから、尋ねることもなかった』

 これは、とある大陸で後に起こる獣人族とのいさかいを皮肉交じりに記したものだ。
 獣人族は主に西の大陸に住まう種族で、東のこちら側では滅多に見かけない。
 とりわけ、聖王国は宗教的観点から獣人たちの入国を禁止していた。
 ゆえにギデオンを含む聖王国の人間にはまったく認知されていない。

 彼とフローレンスの相性は良好とは言い難い。
 お互い、言いたい事をはっきりと口にするタイプだ。
 特に、フローレンスは軽口を叩いてしまう癖がある。
 似た者同士、そりが合わない。
 その事は、ギデオンも断念していた。

 環境に恵まれすぎて時折、忘れそうになるが自身は勇士学校の臨時生徒に過ぎない。
 その先を求めるのはとても酷な話だ。
 親しくなれば、その分、別れがツラくなる。学友が増えればなおさらだ。
 このまま学生として過ごしていくのは、あまり現実的ではない。
 そう思うと、フローレンスとの距離感ぐらいがちょうど良かった。

「訊きたい事がいくつかある。さっき、警備とか言っていたな。この空の本殿で何を守ろうとしていたんだ?」

「何って? 現場の維持だモン。キンバリー先生が見つかるまで、誰も本殿には近づけないつもりだったのに……そっちこそ留置所に送られたはずのブロッコリがどうしてノコノコと戻ってきているんだモン?」

「何度も言いましたが、誤解ですぞ。我は事件に関与しておりませんぞ! その事実を証明する為に戻ってきたのです」

 胸を張り、フローレンスの前に堂々と立つブロッサム。
 まるで自分は悪くないという態度に、上半身を起こしながら彼女は軽く舌打ちした。

「モンの能力が、まがい物とでも言いたいのか?」

「そうではなく、キンバリー先生の白衣を持っていたから犯人だと決めつけたのはおかしいと言っておるのです」

「はぁ? 偶然拾ったなんて信じられるかモン! 棺桶の中に入れてあったモノだぞ、開けなきゃ取り出せないモン」

 批判的な主張にフローレンスは口を尖らせ激怒していた。
 話した感じ、彼女は完全にブロッサムを犯人として見ている。
 能力を過信しろくに裏も取らず、ずさんな推理をしてしまった。
 その自覚がないというのは、土台無理がある。

 悪意がないというには、実に面倒なことだ。
 意識の片隅には、自身への疑念がある。にもかかわらず、他者に反発することで自身の過ちを認めないようにしている。

「空の棺は今、どこにあるんだモンモン!?」

「誰がモンモンだぁ―――!! 墓所に決まっているモン!」

「よし! ブロッサム、コイツも連れて行こう。こういう頭デッカチには口で説明するよりも、直に見せた方が早い」

「それもそうですな! 分からせましょうぞ」

「はわわわわあ!! 止めろ―――」

 フローレンスの首根っこをつかみ上げると、二人は墓所へと移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...