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百三十八話
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精神魔法の効力が薄れてゆく。
プロタリコルが使用していたモノは人の意識を操るモノだったのだろう。
使用者が行動不能に陥ったことで、それまで均衡を保っていた生徒会の支配に綻びが生じた。
本来ならば、いるはずもない学生たちの存在。
当然、兵士たちの間でどよめきが起こり出す。
「クソォ! どういう事だ? 身体が言う事を利かない。君たち、ここで何をしているんだ!?」
「ほほーい! 社会科見学ですよ~。申し遅れました! 私、生徒会長のバミューダと申します。お母さんと一緒を公約にかかげ日々、生徒会を取り仕切っております」
正気に戻ったオトナたちを相手に、ユーモラスな表現と垢抜けた態度をみせる生徒会長のバミューダ。
どこか掴みどころのない性格は、そこ知れない彼の潜在能力を、そこはかとなく暗示しているかのようだ。
「プロタリコルくぅ~ん!! なぁ~に、してんのかなぁ――――」
小さな瞳が、ジロリと役員の方へと向けられた。
怒り混じりの視線に周りのオトナたちも、自然と委縮してしまう。
「くぁいちょ―――!! すみません」地面に顔をこすりつけながら、謝罪する姿は惨めに映っても、ギデオンの表情は何一つ変わらない。
人は必ずしも自分の生き方を選択できるわけではない。
選択権を持っていても放棄する事だってある。
選択というのは意思決定であり、今後に大きな変化をもたらす力を秘めている。
人によっては自分という感覚が希薄な人もいるだろう。場合によっては、常に身近な誰かに行動を決めてもらわないと何をしていいのか? 分からない者もいる。
支配というのは見えない檻であり、心を縛り付ける鎖だ。
バミューダはこの鎖の扱いに長けている。
何処をどう動かせば、相手の心にある積み木を崩せるのか、熟知している。
「見える分だけ、牢獄のほうがマシかもしれないな」ギデオンは魔術用ナイフ取り上げ、バミューダの方へと投げつけた。
プロタリコルがどれだけ生徒会の為に尽くしても、バミューダは現状でしか評価しない。
現生徒会が求めるのは、カタチのない未来よりも堅実なる今だ。
バミューダを動かすには、そこが一番効率的だ。自身の置かれている立場に気づかせるためには、今を壊さないと始まらない。
「あだだ! 何か鎖骨部分に刺った……これはプロタリコルきゅんのナイフではないかぁぁぁ!!」
「お主は、戦闘している相手に背中をむけるのか!?」
部下の失態に我慢ができなくなった会長はブロッサムを無視し、すかさずギデオンたちの方へ動こうとしていた。
「紅葉狩り!」バチィ――――ン!! 痛快な音を鳴らして平手打ちが背に飛ぶ。
剛力を誇るブロッサムの一撃だ。単純な痛みだけでは済まされない。
「がはっあああ……」衝撃により、バミューダが呼吸困難となった。
チアノーゼを起こし顔から血色を失ってゆく。
「ふがぁ!」お返しとばかりに振り向きざまの水平チョップが、ブロッサムの首元を叩きつけた。
「バハッ! ゲホゲホ! ゴハッア…………」白目をむきながらも、闘士である彼は一歩もひかない。
未だに掴みかかろうとする闘争本能に、煩わしさを感じたのか? バミューダは叫んだ。
「せ、せくてぇー。くっ……せくてぇ――――ああ! セクティー!! この男の動きを封じるのです!」
『かしこまりぃ~! 兵士の皆さぁーん! そこにいる大男は極悪人です。皆で捕獲しちゃいましょう!!』
敷地内に設置されている魔道具から美声が響く。
その声を聞いたものは、自身の意思とは無関係に身体が動いてしまうという。
すべては女王である彼女に従うため。最愛の人に褒めてもらいたいがゆえ、肉体は欲す。
女王の指示を!
「バッ―――――」
オトナたちは彼を取り囲んだ。命令に従い、必死に抵抗する彼を取り押さえると、そのまま留置所内へ担いでゆく。
全員が同じ行動をした為に車両倉庫の前には、彼とギデオンたちだけが取り残さるカタチとなった。
「案外、元気そうで安心したよ……ブロッサム」
「ぎ、ギデ殿! どうして、このような所に!? まさか、我を助けにきたというのですかな? でしたら、心配無用ですぞ! このブロッサム、身体の丈夫さだけが取り柄ですからな」
いかにも、余裕だと笑顔で訴える。
その顔が取り繕ったものだと、ギデオンは即座に見抜いていた。
ブロッサムが、そうする理由がただ一つ。
近しい人間に迷惑をかけたくない時だ。
頭を掻きながらギデオンは答えた。
「ここに来たのは確認する為だ。ブロッサム、お前は無実なんだよな? キンバリー教諭の遺体が盗まれた事と何ら関わりを持っているわけではないよな?」
「ギデ殿? その問いに無実だと答えたら、貴方はどうなさるおつもりで?」
「決まっているだろっ! ここから連れ出す!!」
プロタリコルが使用していたモノは人の意識を操るモノだったのだろう。
使用者が行動不能に陥ったことで、それまで均衡を保っていた生徒会の支配に綻びが生じた。
本来ならば、いるはずもない学生たちの存在。
当然、兵士たちの間でどよめきが起こり出す。
「クソォ! どういう事だ? 身体が言う事を利かない。君たち、ここで何をしているんだ!?」
「ほほーい! 社会科見学ですよ~。申し遅れました! 私、生徒会長のバミューダと申します。お母さんと一緒を公約にかかげ日々、生徒会を取り仕切っております」
正気に戻ったオトナたちを相手に、ユーモラスな表現と垢抜けた態度をみせる生徒会長のバミューダ。
どこか掴みどころのない性格は、そこ知れない彼の潜在能力を、そこはかとなく暗示しているかのようだ。
「プロタリコルくぅ~ん!! なぁ~に、してんのかなぁ――――」
小さな瞳が、ジロリと役員の方へと向けられた。
怒り混じりの視線に周りのオトナたちも、自然と委縮してしまう。
「くぁいちょ―――!! すみません」地面に顔をこすりつけながら、謝罪する姿は惨めに映っても、ギデオンの表情は何一つ変わらない。
人は必ずしも自分の生き方を選択できるわけではない。
選択権を持っていても放棄する事だってある。
選択というのは意思決定であり、今後に大きな変化をもたらす力を秘めている。
人によっては自分という感覚が希薄な人もいるだろう。場合によっては、常に身近な誰かに行動を決めてもらわないと何をしていいのか? 分からない者もいる。
支配というのは見えない檻であり、心を縛り付ける鎖だ。
バミューダはこの鎖の扱いに長けている。
何処をどう動かせば、相手の心にある積み木を崩せるのか、熟知している。
「見える分だけ、牢獄のほうがマシかもしれないな」ギデオンは魔術用ナイフ取り上げ、バミューダの方へと投げつけた。
プロタリコルがどれだけ生徒会の為に尽くしても、バミューダは現状でしか評価しない。
現生徒会が求めるのは、カタチのない未来よりも堅実なる今だ。
バミューダを動かすには、そこが一番効率的だ。自身の置かれている立場に気づかせるためには、今を壊さないと始まらない。
「あだだ! 何か鎖骨部分に刺った……これはプロタリコルきゅんのナイフではないかぁぁぁ!!」
「お主は、戦闘している相手に背中をむけるのか!?」
部下の失態に我慢ができなくなった会長はブロッサムを無視し、すかさずギデオンたちの方へ動こうとしていた。
「紅葉狩り!」バチィ――――ン!! 痛快な音を鳴らして平手打ちが背に飛ぶ。
剛力を誇るブロッサムの一撃だ。単純な痛みだけでは済まされない。
「がはっあああ……」衝撃により、バミューダが呼吸困難となった。
チアノーゼを起こし顔から血色を失ってゆく。
「ふがぁ!」お返しとばかりに振り向きざまの水平チョップが、ブロッサムの首元を叩きつけた。
「バハッ! ゲホゲホ! ゴハッア…………」白目をむきながらも、闘士である彼は一歩もひかない。
未だに掴みかかろうとする闘争本能に、煩わしさを感じたのか? バミューダは叫んだ。
「せ、せくてぇー。くっ……せくてぇ――――ああ! セクティー!! この男の動きを封じるのです!」
『かしこまりぃ~! 兵士の皆さぁーん! そこにいる大男は極悪人です。皆で捕獲しちゃいましょう!!』
敷地内に設置されている魔道具から美声が響く。
その声を聞いたものは、自身の意思とは無関係に身体が動いてしまうという。
すべては女王である彼女に従うため。最愛の人に褒めてもらいたいがゆえ、肉体は欲す。
女王の指示を!
「バッ―――――」
オトナたちは彼を取り囲んだ。命令に従い、必死に抵抗する彼を取り押さえると、そのまま留置所内へ担いでゆく。
全員が同じ行動をした為に車両倉庫の前には、彼とギデオンたちだけが取り残さるカタチとなった。
「案外、元気そうで安心したよ……ブロッサム」
「ぎ、ギデ殿! どうして、このような所に!? まさか、我を助けにきたというのですかな? でしたら、心配無用ですぞ! このブロッサム、身体の丈夫さだけが取り柄ですからな」
いかにも、余裕だと笑顔で訴える。
その顔が取り繕ったものだと、ギデオンは即座に見抜いていた。
ブロッサムが、そうする理由がただ一つ。
近しい人間に迷惑をかけたくない時だ。
頭を掻きながらギデオンは答えた。
「ここに来たのは確認する為だ。ブロッサム、お前は無実なんだよな? キンバリー教諭の遺体が盗まれた事と何ら関わりを持っているわけではないよな?」
「ギデ殿? その問いに無実だと答えたら、貴方はどうなさるおつもりで?」
「決まっているだろっ! ここから連れ出す!!」
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