異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
134 / 362

百三十四話

しおりを挟む
「バウル。お前、留置所に行きたいのか?」

「まぁな。どうしても会わないといけない奴がいるんだ。あっ! 勿論、軍務だからな」

「その恰好のまま、行けばいいんじゃないか?」

「無理っしょっ!! 此処で今、何してのか分かっていってんの!?」

「知らないが?」

「ですよね――! よく周りを見てみろよ、演習中だろう! 演習中!! この状況で、どうやって抜け出せばいいのよ。仮に旨いこと言っても今度は留置場で門前払い食らうだろうしさ~!!」

 表現、豊かなバウル―ゼンの身振り手振り。
 慌てれば手足をバタつかせ、ションボリすれば頭を項垂れる。
 困惑すれば、頭を抱え、考えれば腕を組む。
 実に多々あるが、どれも在り来たりで面白味にかける。

 現状が困難であろうとも、彼の落ち着きのない動きが気になりすぎて、どうも集中できない。
 ギデオンは深く息を吸い込み吐き出すと、これ以上は何をどう考え込んでも仕方ないと答えを導き出した。
 この場から脱出し、なおかつ留置所に向かう。
 だったら、シンプルにやればいい。
 ギデオンは、バウルに耳打ちした。

「その方法しかないのか? 大丈夫かな?」

「手っ取り早いほうがいいだろう。どうせ、アレコレ考えても、ずば抜けたアイデアなんて出てこないんだ。玉砕覚悟でやるだけだ」

「分かった……行くぞ!!」

 バウルがタックルをかまし、ギデオンを押し倒した。
 そのまま、馬乗りとなり左右の拳を交互に繰り出す。
 ゴス、ゴス、ゴス! と鈍い音が夜の野営地に鳴り響く。
 それは、演技などでななく、本当に肉と骨を弄る音だった。

「んなっ! クソォ――――!!」

 殴る拳が真っ赤に染まる。
 一人の兵士が、一方的に相手の兵士をボコボコにしている。
 こうした取っ組み合いは兵士たちの間では別段、珍しくもない。
 だとしても、強制的な演習に退屈していた彼らにとっては日頃、溜まっているストレスを発散する絶好の機会でしかない。
 どこからともなく、集まり、ギデオンたちを囲い酒瓶片手にヤジと声援を飛ばしてくる。

「うらあ――――!!」

 バウルの身体が浮き上がり、勢いよく観客の方へとダイブする。
 兵士たちの歓声がより激しさを増す。
 マウントから解放されたギデオンが、「ぺっ!」と血の混じったツバを吐き捨てた。

「その程度かよ……他人に喧嘩を売っておいて、猫パンチじゃ話にならないな」煽るギデオンに「いいぞ! 兄ちゃん!」と声援が飛ぶ。

「まだだ……! まだ…………準備運動だからよ~」

 場外まで飛ばされたバウルが虚勢を張り立ち上がる。
 背後からは「ワアアアッ――――!!!」と沸き立つ歓声。
 それとともに、二人の兵士どちらかが勝つか?
 臨時賭博が開催された。

 お祭り騒ぎを聞きつけ、慌ててテントから出てきた上官たちがホイッスルを吹く。
 見張り台の兵士も警鐘を鳴らして止めさせようとしているが、効果は見られない。
 一度、解放された兵士たちの心。
 それまで燻っていたモノが劫火となる、溜め込まれていた、鬱憤うっぷんそう易々と消えやしない。

「やれ、行け! 飛び掛かれ――!! ぶちのめせぇ!! ひぃやははっはっはああああぁ――――」

 狂気は謳われ、闘争と暴力に飢えた雄叫びが酔いを深める。
 二人が立ち並び、拳で殴り合う。
 一撃、また一撃がきまる度に、掛け金は増えてゆく。

「そこまでだぁあああああ―――――!!!」

 指揮官らしき、中年の男が怒号を上げた。
 同時に、数人がかりで地面に叩き伏せられてしまう、ギデオンとバウル。
 あれほど賑わっていた、野営地がほんの僅かで静まり返っていた。

「コイツらが騒ぎの中心だな。基地の方に送り返せ、懲罰を与えるのはそれからだ」

 眼光鋭い渋顔の指揮官が部下たちにそう命じていた。
 暴動を起こし、留置所送りとなるギデオンたちの目論見は、まんまと外れた。
 このままだと、軍の基地に連れてかれる!
 事態をどうにかしようとギデオンは、上官に訴え続けた。
 見苦しかろうが何だろうがひたすら足掻く、そうすることしかできない。

「このまま、僕たちを基地に送り届ければ、責任を問われるのは貴方ではありませんか?」

「かもな……」

「どうせなら、留置場の方に送ったほうが距離的に手間もかからず済むと思うのですが……」

「? 留置所行きを望むとは変な奴だな。残念だが、部下を罪人の所へ行かせるわけにもいかんのだよ」

 取りつく島がない……思い浮かぶ限りの答えを出しても、全部、正論で弾かれてしまう。
 この男は説得することができない! そう悟ってしまうと、返す言葉も出てこない。
 それでも、ここまで来て引き下がるつもりはない。
 なんとしても突破口を見つけ出す、ここが正念場だ。

「なぁ、オッサン。実は俺ら、軍人じゃねぇーすよ」

 意気込んだ傍から、ギデオンの想いをぶち壊そうとする輩が出張ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...