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百三十四話
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「バウル。お前、留置所に行きたいのか?」
「まぁな。どうしても会わないといけない奴がいるんだ。あっ! 勿論、軍務だからな」
「その恰好のまま、行けばいいんじゃないか?」
「無理っしょっ!! 此処で今、何してのか分かっていってんの!?」
「知らないが?」
「ですよね――! よく周りを見てみろよ、演習中だろう! 演習中!! この状況で、どうやって抜け出せばいいのよ。仮に旨いこと言っても今度は留置場で門前払い食らうだろうしさ~!!」
表現、豊かなバウル―ゼンの身振り手振り。
慌てれば手足をバタつかせ、ションボリすれば頭を項垂れる。
困惑すれば、頭を抱え、考えれば腕を組む。
実に多々あるが、どれも在り来たりで面白味にかける。
現状が困難であろうとも、彼の落ち着きのない動きが気になりすぎて、どうも集中できない。
ギデオンは深く息を吸い込み吐き出すと、これ以上は何をどう考え込んでも仕方ないと答えを導き出した。
この場から脱出し、なおかつ留置所に向かう。
だったら、シンプルにやればいい。
ギデオンは、バウルに耳打ちした。
「その方法しかないのか? 大丈夫かな?」
「手っ取り早いほうがいいだろう。どうせ、アレコレ考えても、ずば抜けたアイデアなんて出てこないんだ。玉砕覚悟でやるだけだ」
「分かった……行くぞ!!」
バウルがタックルをかまし、ギデオンを押し倒した。
そのまま、馬乗りとなり左右の拳を交互に繰り出す。
ゴス、ゴス、ゴス! と鈍い音が夜の野営地に鳴り響く。
それは、演技などでななく、本当に肉と骨を弄る音だった。
「んなっ! クソォ――――!!」
殴る拳が真っ赤に染まる。
一人の兵士が、一方的に相手の兵士をボコボコにしている。
こうした取っ組み合いは兵士たちの間では別段、珍しくもない。
だとしても、強制的な演習に退屈していた彼らにとっては日頃、溜まっているストレスを発散する絶好の機会でしかない。
どこからともなく、集まり、ギデオンたちを囲い酒瓶片手にヤジと声援を飛ばしてくる。
「うらあ――――!!」
バウルの身体が浮き上がり、勢いよく観客の方へとダイブする。
兵士たちの歓声がより激しさを増す。
マウントから解放されたギデオンが、「ぺっ!」と血の混じったツバを吐き捨てた。
「その程度かよ……他人に喧嘩を売っておいて、猫パンチじゃ話にならないな」煽るギデオンに「いいぞ! 兄ちゃん!」と声援が飛ぶ。
「まだだ……! まだ…………準備運動だからよ~」
場外まで飛ばされたバウルが虚勢を張り立ち上がる。
背後からは「ワアアアッ――――!!!」と沸き立つ歓声。
それとともに、二人の兵士どちらかが勝つか?
臨時賭博が開催された。
お祭り騒ぎを聞きつけ、慌ててテントから出てきた上官たちがホイッスルを吹く。
見張り台の兵士も警鐘を鳴らして止めさせようとしているが、効果は見られない。
一度、解放された兵士たちの心。
それまで燻っていたモノが劫火となる、溜め込まれていた、鬱憤そう易々と消えやしない。
「やれ、行け! 飛び掛かれ――!! ぶちのめせぇ!! ひぃやははっはっはああああぁ――――」
狂気は謳われ、闘争と暴力に飢えた雄叫びが酔いを深める。
二人が立ち並び、拳で殴り合う。
一撃、また一撃がきまる度に、掛け金は増えてゆく。
「そこまでだぁあああああ―――――!!!」
指揮官らしき、中年の男が怒号を上げた。
同時に、数人がかりで地面に叩き伏せられてしまう、ギデオンとバウル。
あれほど賑わっていた、野営地がほんの僅かで静まり返っていた。
「コイツらが騒ぎの中心だな。基地の方に送り返せ、懲罰を与えるのはそれからだ」
眼光鋭い渋顔の指揮官が部下たちにそう命じていた。
暴動を起こし、留置所送りとなるギデオンたちの目論見は、まんまと外れた。
このままだと、軍の基地に連れてかれる!
事態をどうにかしようとギデオンは、上官に訴え続けた。
見苦しかろうが何だろうがひたすら足掻く、そうすることしかできない。
「このまま、僕たちを基地に送り届ければ、責任を問われるのは貴方ではありませんか?」
「かもな……」
「どうせなら、留置場の方に送ったほうが距離的に手間もかからず済むと思うのですが……」
「? 留置所行きを望むとは変な奴だな。残念だが、部下を罪人の所へ行かせるわけにもいかんのだよ」
取りつく島がない……思い浮かぶ限りの答えを出しても、全部、正論で弾かれてしまう。
この男は説得することができない! そう悟ってしまうと、返す言葉も出てこない。
それでも、ここまで来て引き下がるつもりはない。
なんとしても突破口を見つけ出す、ここが正念場だ。
「なぁ、オッサン。実は俺ら、軍人じゃねぇーすよ」
意気込んだ傍から、ギデオンの想いをぶち壊そうとする輩が出張ってきた。
「まぁな。どうしても会わないといけない奴がいるんだ。あっ! 勿論、軍務だからな」
「その恰好のまま、行けばいいんじゃないか?」
「無理っしょっ!! 此処で今、何してのか分かっていってんの!?」
「知らないが?」
「ですよね――! よく周りを見てみろよ、演習中だろう! 演習中!! この状況で、どうやって抜け出せばいいのよ。仮に旨いこと言っても今度は留置場で門前払い食らうだろうしさ~!!」
表現、豊かなバウル―ゼンの身振り手振り。
慌てれば手足をバタつかせ、ションボリすれば頭を項垂れる。
困惑すれば、頭を抱え、考えれば腕を組む。
実に多々あるが、どれも在り来たりで面白味にかける。
現状が困難であろうとも、彼の落ち着きのない動きが気になりすぎて、どうも集中できない。
ギデオンは深く息を吸い込み吐き出すと、これ以上は何をどう考え込んでも仕方ないと答えを導き出した。
この場から脱出し、なおかつ留置所に向かう。
だったら、シンプルにやればいい。
ギデオンは、バウルに耳打ちした。
「その方法しかないのか? 大丈夫かな?」
「手っ取り早いほうがいいだろう。どうせ、アレコレ考えても、ずば抜けたアイデアなんて出てこないんだ。玉砕覚悟でやるだけだ」
「分かった……行くぞ!!」
バウルがタックルをかまし、ギデオンを押し倒した。
そのまま、馬乗りとなり左右の拳を交互に繰り出す。
ゴス、ゴス、ゴス! と鈍い音が夜の野営地に鳴り響く。
それは、演技などでななく、本当に肉と骨を弄る音だった。
「んなっ! クソォ――――!!」
殴る拳が真っ赤に染まる。
一人の兵士が、一方的に相手の兵士をボコボコにしている。
こうした取っ組み合いは兵士たちの間では別段、珍しくもない。
だとしても、強制的な演習に退屈していた彼らにとっては日頃、溜まっているストレスを発散する絶好の機会でしかない。
どこからともなく、集まり、ギデオンたちを囲い酒瓶片手にヤジと声援を飛ばしてくる。
「うらあ――――!!」
バウルの身体が浮き上がり、勢いよく観客の方へとダイブする。
兵士たちの歓声がより激しさを増す。
マウントから解放されたギデオンが、「ぺっ!」と血の混じったツバを吐き捨てた。
「その程度かよ……他人に喧嘩を売っておいて、猫パンチじゃ話にならないな」煽るギデオンに「いいぞ! 兄ちゃん!」と声援が飛ぶ。
「まだだ……! まだ…………準備運動だからよ~」
場外まで飛ばされたバウルが虚勢を張り立ち上がる。
背後からは「ワアアアッ――――!!!」と沸き立つ歓声。
それとともに、二人の兵士どちらかが勝つか?
臨時賭博が開催された。
お祭り騒ぎを聞きつけ、慌ててテントから出てきた上官たちがホイッスルを吹く。
見張り台の兵士も警鐘を鳴らして止めさせようとしているが、効果は見られない。
一度、解放された兵士たちの心。
それまで燻っていたモノが劫火となる、溜め込まれていた、鬱憤そう易々と消えやしない。
「やれ、行け! 飛び掛かれ――!! ぶちのめせぇ!! ひぃやははっはっはああああぁ――――」
狂気は謳われ、闘争と暴力に飢えた雄叫びが酔いを深める。
二人が立ち並び、拳で殴り合う。
一撃、また一撃がきまる度に、掛け金は増えてゆく。
「そこまでだぁあああああ―――――!!!」
指揮官らしき、中年の男が怒号を上げた。
同時に、数人がかりで地面に叩き伏せられてしまう、ギデオンとバウル。
あれほど賑わっていた、野営地がほんの僅かで静まり返っていた。
「コイツらが騒ぎの中心だな。基地の方に送り返せ、懲罰を与えるのはそれからだ」
眼光鋭い渋顔の指揮官が部下たちにそう命じていた。
暴動を起こし、留置所送りとなるギデオンたちの目論見は、まんまと外れた。
このままだと、軍の基地に連れてかれる!
事態をどうにかしようとギデオンは、上官に訴え続けた。
見苦しかろうが何だろうがひたすら足掻く、そうすることしかできない。
「このまま、僕たちを基地に送り届ければ、責任を問われるのは貴方ではありませんか?」
「かもな……」
「どうせなら、留置場の方に送ったほうが距離的に手間もかからず済むと思うのですが……」
「? 留置所行きを望むとは変な奴だな。残念だが、部下を罪人の所へ行かせるわけにもいかんのだよ」
取りつく島がない……思い浮かぶ限りの答えを出しても、全部、正論で弾かれてしまう。
この男は説得することができない! そう悟ってしまうと、返す言葉も出てこない。
それでも、ここまで来て引き下がるつもりはない。
なんとしても突破口を見つけ出す、ここが正念場だ。
「なぁ、オッサン。実は俺ら、軍人じゃねぇーすよ」
意気込んだ傍から、ギデオンの想いをぶち壊そうとする輩が出張ってきた。
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