異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百三十話

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「シゼル、君は持ち場に戻れ」

「ブゥ―――、簡単に言ってくれちゃって。変装してお偉方をだますの結構、骨が折れるんだよ」

「一座にいたんだろ? だったら、その演技力でだまし通してくれ」

「むむっ、キュピちゃんのことがなければ従わないのに!」

 憤慨ふんがいし不服を訴えるシゼル。
 対するギデオンの態度は実に素気ない。
 いくら先輩といえど、敵対勢力として奇襲をかけてきた人間を容易く信用することはできない。
 それこそ、聖人でなければ受け入れ難い相手だ。
 彼ら、と手を組んだのは、あくまで利害の一致と敵勢力の規模が大きいことを見越しての結論だ。
 構わないといった素振りで対応してみせるも、内心は腹の探りあいだ。
 それは、離反者側である彼女も、とうに見透かしているはず。
 誰がいつどこで裏切るか不安は常につきまとう、互いに気など休まる暇もない。

 それでも、現時点でシゼルがギデオンたちをたばかる可能性は極めて低かった。
 すべては、彼らを仲介する位置にいるシルクエッタのおかげだ。
 彼女がファルゴの戦いで負傷したキュピちゃんを手厚く治癒しなければ、シゼルは協力をこばんだだろう。

 前回のリッシュの時もそうだった。
 これまでのことは赦すという条件で、リッシュを逃さないように網を張らせていた。
 しかし、結果は散々なものだった……シゼルは独断専行でリッシュを仕留めてしまった。
 ギデオンとって、キンバリーの研究につながる貴重な情報源を二度も失ったことは手痛い。
 さらに、日中のケツァルコアトルの騒動も重なり、ガルベナールを誘拐しなければならない状況に陥ってしまった。
 事前に練っていた計画は、この大番狂わせにより頓挫してしまった。

 こうした背景があるからこそ、ギデオンがホワイトナイトである彼女にいだく印象は、マイナス面が大きい。

「皆、カナッペさんのことはボクに任せて」瑠璃色の瞳が真っすぐ、ギデオンたちを捉えていた。
 強い使命感に満ち溢れた眼だ。
 これほど頼もしいモノはない、その事を理解している幼馴染の彼は無言で頷くと真っ先に退室した。

「そうだ! ギデ、学長がお前を探していたぞ。この別館の一階奥、会議室にいるはずだ」

 廊下に出るとすぐにオッドが声をかけてきた。
「分かった」とだけ告げると、軽く手を振る。

 学長たちの要件は、おそらく芳しくないものだ。
 ガルベナールの動向を探るという当初の目的は、ほぼ白紙になってしまった。
 それを痛感しているからこそ、お咎めを受ける覚悟が必要だった。

「ようやく、戻ってきたようだね。ギデ君」

 会議室に入るなり、円卓に両肘をついた学長ゴーダ・マーシャルが口を開いた。
 その表情はやはり厳しい。
 隣に佇む、学年主任のミチルシィもこちらに視線をむけたまま微動だにしない。

「ランドルフから、おおよその事情は聞いている。どうして呼ばれたのか? 分かるかね?」

「ガルベナール宰相のことですか? でしたら、仲間が扮装して時間を稼いでいますが……」

「そうではない!」学長よりも先に反応したのは、ミチルシィの方だった。

「ミチルシィ先生、落ち着いてください」

「す、すみません。つい取り乱してしまいました」

「ギデ君、どうしてワイズメル・シオンなる存在を隠していた? よりよって、キンバリー先生やウチの生徒たちも関与している案件らしいじゃないか!? だとしたら非常に不味いぞぉぉぉ!!」

 それまで物静かだった学長が、とうとう剣幕を立てて怒鳴り出した。
 叱りをうけた当人からすれば、今更感が半端ない。
 当然、ギデオンには非はなく、責められる道理もない。
 すべての問題は、関係者を管理しきれていなかった学校側にある。

 気づいた時点ですでに手遅れな状況に、オトナたちは冷静さを欠いていた。
 客観視しても完全にとばっちりを受けている。
 その中で、ギデオンは心底を呆れていた……いくら世間体を気にしても変わらないものは変わらない。
 オトナたちは、それ知っていても尚、自分の立ち位置に依存し守ろうとする。
 そこにあるは本物の自由ではなく、与えられたマガイモノの自由だった。

「先生方、覚悟を決めて下さい。これは、単なるイザコザではなく、国家間での侵略戦争です。何かを失うことを恐れていては、敵はそこを狙って突いてきます。あなた方が本当に守るのは何なのですか? 勇士学校ですか? それとも生徒たちの未来ですか? これは指導者以前に個人一人としての問いかけです。僕は……僕たちはすでに覚悟を決めています。未来を守るために今を戦うと!」

 若干、十五歳の若者の発言に教員二人は圧倒されていた。
 反論する言葉も失い、自分たちの認識の甘さを恥じるように俯いていた。

 子供だと思っていた生徒たちは、知らず知らずに自ら戦局に立とうとしていた。
 彼らは、まだ世間の常識やシガラミに染まりきってはいない。
 それを無理やり説いてどうなるというのだ?
 不甲斐ない自分たちオトナに変わり、希望を背負う若人わこうど
 その純粋な想いに呼応するようにミチルシィの予言が発動し出した。
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