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百二十五話

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 ファルゴの身を包む大気が、うなりを上げる。
 誰よりも、純粋に破壊と殺戮を好む悪食あくじき
 その闘気に触発されたかのように、乾いた風となり吹き荒ぶ。

「ジェイクのオッサン、下がっていろ……次は庇えない」

 ギデオンがポキ、ポキと首を鳴らす。
 準備運動のように片方の手首をつかんだまま、両手グッと前に押し出す。
 それから、ゆっくりと膝を折り曲げる。

「パーミッショントランス!!」―――叫びともに、ファルゴが一歩前進した。

 踏み込んだ地面が弾け飛び、まき散らした砂ぼこりは巨躯に絡め取られてゆく。
 どう走ったのかも、何歩進んだかも常人の目には捉えられない。
 暴走列車のごとく獲物に体当たりをかます。

 恐ろしいほどの速さに、ギデオンの反射神経を持ってしても追いつかない。

「がっあ……」ギデオンの上体が大きくのけ反った。

「もう、一丁」虎の頭ほどはあるファルゴの巨大な掌。そこから繰り出される肉の鉄鎚が、追い打ちをかけてくる。
 アゴを狙った一撃が彼の頭部ごと撃ち抜いた。

「浅い!! つーか、人の顔に靴を飛ばしやがって!!」

 眉間に刺さったヒールを振り払う暴虐の異端児。
 間抜けな絵面ではあるも、その瞳は怒りでたぎっていた。
 妨害が成功しなければ、今の一撃でギデオンは沈んでいた。

「パーミッショント――「二度もやらさせはしない!!」

 ギデオンはファルゴの頭部にジャケットを巻きつけ、動きを封じた。
 突然のアクシデントに「フゴ!!」と、情けない鼻音を鳴らしている。

「スリーヘッドショット」―――空かさず、魔銃ガルムを呼び出し近距離から三連続、魔法弾をぶち込んだ。

「イッ、タタァァア――!! イテェじゃねぇぇぇぇ――――か!!!」

「クッソ、堅固すぎるのも大概にしろ!」

 被弾してもなお、異端児は無傷だった。
 視界を遮るジャケットを引きちぎり不敵に口角を吊り上げている。

「この俺に、一撃入れたことは褒めてやろう。けど、ここまでだ……レックスアックス!!」

 瞬間、ファルゴの右膝部分が大型爬虫類に似せた闘気をまとい、加速する。

「ぐっ……こんのぉ!!!」
 
 脇腹を突いてくる蹴りを銃撃で押え込もうとするが、まったく効き目がない。
 その威力に圧倒されたギデオンは、地面を転げ回りながら苦痛の表情を浮かべていた。

「おらおらおらおあら――どうした? その程度か? ん?」

「フィアバースト!!」

 カナッペの声と共に、ファルゴの背が爆発した。
 焼けつく炎が、全身を駆け巡り高温を発する。

「炎傷効果の魔法だったな。そういえば、テメェもいたっけな」

 ギロリと鋭い眼光が動いた。見つめる先には、肩で息をしながら構える魔術師の少女がいた。

「つれぇーよな。本来、魔術師が魔法を使用するには、ワンドやロッドなどの媒体が必要だ」

「こ、これぐらい、大したことでは……ない、わ」

「いいねぇ~。この小僧を仕留めたら、次は女、オマエだ!」


「誰が誰を仕留めるって?」ギデオンが銃砲を抱えていた。
 第二形態――バハムート。魔力を一点に集約させ、超光速射撃と絶対なる貫通力を可能にした神威。
 ここから放たれる一撃は何人も避けられない。
 それは、無類の強さを誇る者でも例外ではないはずだ。

「ファルゴ、貴様はここで消す。そうでもしなければ、今後大きな壁になり手には負えなくなる」

「テメェ程度が、俺を排除するつもりか? 笑えない冗談だ」

 黒き閃光がダンジョン内部を駆けた。
 輝くのと同時にファルゴの身体が押し流されてゆく。
 どんなに踏ん張ろうとも、大義もない彼の想いでは、この流れを力でねじ伏せることはできない。
 数秒間だけ、その場に留まるのがやっとだ。

「うおおおおぉぉぉぉ―――アアアアアアッ―――!!」

 バハムートから発射されたグラバスタ―を真っ向から受け止める異端児。
 力と力。極限まで高められた二つの輝きが、衝突し仮想世界を大きく揺るがす。

 空を旋回するカラスが鳴き叫び、枝葉が燃え尽き、丸裸となった森から遠のく魔物の足音が聞こえた。
 ファルゴの頑強な肉体と接触し粉々に砕け散る黒水晶。
 未だ、後方に飛ばされている彼だが、信じられないことに素手でグラバスターの魔導エネルギーをつかみ取っていた。

「どれだけ強力なエネルギーであろうとも、俺のプラーナに勝てるわけがない! ダイノハンマァァァ――!!!」

 闘気をまとう腕が魔獣の爪と化す。
 バチ―――ンと、軌道をそらされ上空高く弾き飛ばされたグラバスタ―が瞬く間に消失してゆく。

 窮地に立たされたギデオンは唇を噛みしめた。
 大技は、連発して使えない。消費した魔力が溜まるまで数時間は要する。
 実質、最強の一撃を破られてしまった以上、何らかの手立てを講じなければ勝算はない。
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