異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百二十三話

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 ピピピッピピピッ、通信用の端末が音をたてる。
 ギデオンのモノではない。
 それを懐から手に取ったのは、宰相のボディガードにあたるファルゴだった。

「俺だ……テメーら何をしていた? なにぃ!? ゴールデンパラシュートはともかく、ホワイトナイトまで離反しただと……おまけに、バリュエーションは自滅したのか! それで、テメーはどこで何をしている? ……分かった、そっちは任せる」

 コイツに隠し事は無理だ。
 周囲のことも気にせず、ベラベラと喋るガサツさを目の当たりにし、ギデオンは言葉を失っていた。
 ここまで、ボディガードとして不向きなに人間もそうそう居ない。
 やはりというべきか……ガルベナールとシオン賢者はつながりがあることが判明した。
 孫であるファルゴも、人間離れした強さを誇っている。
 この男もまた、刺客の一人だと警戒しておくべきだろう。

「ファルゴ様、どちらへ? 早く、宰相様を助けなければ!!」

「分かっている。それよりも先に一つ、確認しておきたいことがある」

 唐突にファルゴは本殿の方へと向かってゆく。
 行動理由が思い浮かばないギデオンは、いぶかしむも彼の後を追う。
 どうやら、シゼルが回収したらしい。
 さきほどまでキュピちゃんが倒れていた場所に、ガラスの片が落ちていた。

「悪いが、神官はいるか!?」本殿の中にある祭壇前まで来るとファルゴはひつぎを指で指し示した。
 黒檀こくたんでできたひつぎはオーソドックスであり、職人の手で丁寧に仕上げられている。
 そんな芸術性も気にすることもなく、やって来た神官に彼は「蓋を外せ」と命じた。
 あまりに突拍子もないことに神官も泡を食っていた。
 それでも、一国の宰相の孫の命を無下に断れば、後々問題に発展する。

「バミューダ!! そこにいるんだろう。さっさとメンバーを集めて、生徒たちを一旦、外に追いやれ」

 人目につくことを配慮し、ファルゴは部下たちに指示を出した。
 間違いなく教師にたいする敬意ではない。
 ただただ、騒ぎになることが嫌なのだろう。
 なぜなら、神官によって蓋を外したひつぎには遺体はおろか、何も入っていない。

「チッ、アイツの言った通りか……まったく面倒ばかりが増えやがる」

「どういうことですか? キンバリーさんの遺体はどこに消えてしまったんですか?」

「マローナ、この事は他言無用だ。どこのどいつの仕業か知らないが……キンバリー・カイネンの遺体が奪われた。なんのつもりか知らねえが、イヤな予感しかしねぇ」

 神隠しにでもあったかのように消えてしまった、キンバリーの遺体。
 ギデオンにとって、それ自体は大した事実ではなかった。
 誰が何の為に、持ち去ったのかは知らないが、彼の目的は、あくまでガルベナールへの粛清とその目論みを叩きつぶすことに終始一貫していた。
 キンバリーとの対決はすでに終わったことだ。
 消えてしまった遺体の所在は気になるが、それだけだ。
 これ以上は深く関わることはできない。
 時間も余裕もないことを考えれば敵勢をかく乱している、この状況はむしろ好ましいともいえる。

「ぬはぁ~! リーダー。キンバリー先生の捜索は我々、生徒会にお任せください!!」

 頭を抱えるファルゴのそばに、大柄な男が歩み寄ってきた。
 勇士学校の制服を着ているということは、生徒に違いないが十代にしては老け顔すぎる。

 生徒会? その単語にギデオンを耳を疑った。
 勇士学校の生徒がよりによって、ファルゴ個人に手を貸すとは思いもしなかった。
 ファルゴ自体、勇士学校の生徒だ。こうしたことが起きるのは別段、珍しいことでもない。
 ただ、知らない事とはいえ、一般人である彼らがガルベナールサイドに加担することは、あまりにも衝撃的だった。
 いくら、日頃から訓練をつんでいても、悪の片棒を担いでしまったら英雄も何もない。
 利用できるモノは何でも言葉巧みにだまして、悪用しようとするヘドロのように汚れきった、卑しいオトナの考えが透けてみえる。
 そのことにギデオンは胸くそ悪さを感じずにはいられなかった。

「追えるか?」リーダーである彼が一言、発した。

「生徒会長である、このバミューダにお任せを。イヌに捜させますので必ずや先生を見つけてまいりましょうぞ」

 それだけ伝えると、バミューダと名乗った生徒はそそくさと本殿から退場してゆく。

「……おい! そこの髪の長いお前、俺について来い!」

「えっ? いきなりなんですか!? その手を放してください! 痛っ! 止めてください、痛いです!!」

 ファルゴが近くにいる女子生徒の肩をつかんだ。
 嫌がる彼女の言葉に耳もかたむけず、半ば強引に連れ去ろうとする。
 女子生徒がマローナである少年のほうに、視線を向ける。
 どうして、助けを求めようとしないのか? 分からないが、その顔には覚えがあった。
 カナッペだ。つい最近、模擬戦テストで知り合ったリッシュパーティーの魔術師だ。
 面識こそ浅いが、彼女には借りがある。

「ファルゴさん! どうして彼女を連れ出そうとしているのですか? それに……女の子に乱暴をはたらくのは良くないと思います」

「……コイツは保険だ。お爺ちゃんをさらった奴らがどう出るか知らんが、俺は家族を救ってみせる。その為にはコイツが必要だ」

「犯人の目的が身代金なら、取り引きで解決するかもしれませんよ」

「んな、わけねぇーよ。わざわざ、俺を足止めするために、あんなバケモンよこした連中だ。奴らの狙いはお爺ちゃんの命だ。そう、考えて間違えない!」

 ここに来て、キュピちゃんの起こしたトラブルが事態を思わぬ方向へと動かそうとしていた。
 宰相への襲撃と宰相の誘拐は、別々の出来事だ。
 それが、ほぼ同時に発生した為、ファルゴの中では一つの出来事として認識されてしまっている。
 ギデオンたちがガルベナールを連れ去ったのは身柄の確保が目当てだ。
 同様、ファルゴも隙をついて取り押さえる手筈だった。
 運命の歯車は少しづつかみ合わなくなってきている。
 マタギの直感がそう告げていた。
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