異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百二十二話

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 神殿前に出てきたツワーガイドと宰相。
 彼らを出迎えるように、横づけした車体がすでに止まっている。

「ジェイクのオッサン、車を出してくれ!」

「来たか、ギデオン! 事情は把握している……手筈通り、ガルベナールは連れてゆくぞ!」

 捕獲した宰相の身柄をジェイクに預ける。
 ガルベナールが細身で小柄だったからこそ、ここまで難なく持ち運べた。
 猿ぐつわをはめ、拘束したままの状態でトランクルームに押し込む。

「で? お前の方はどうするんだ?」ジェイクが無機質に尋ねてくる。
 感情を読み取られない為の訓練を受けているらしい。
 彼との距離感がつかめず、会話のやり取りに少々、キツさを感じを得ない。

「鳥の方はどうなった?」ギデオンが答える。

「かなり、不味い状態だ。今、シゼルが動いてくれている」

「それほどまで強いのか!? ファルゴの奴は!!」

「ああ……アレは何と説明すればいいのか……人の域を脱している」

 ケサランパサランの目を通じて、観戦していたジェイクの額から汗がにじんでいた。
 強力な力を所持するケツァルコアトルが、宰相の孫の力に屈した。
 思わぬ、結果。強敵の出現により二人の間に若干、沈黙が漂う。
 本当に、あの暴君に勝てるのか? 協力者である彼の眼が無言で訴えていた。

「そうか……一先ず奴の元に戻る。ガルベナールが誘拐されたと知れば、どう動くか見当もつかないからな。あの鳥も可能なら助けるつもりだ」

「すまんな。私には支援ぐらいしかできない」

「そんな事は、どうでもいい……オッサンが私情に走って裏切らなければな。ソイツは重要参考人だ、独断で手出しすることは赦さないぞ!」

 ギデオンはキツイ口調で忠告した。

 先日、サーマリアの霊園にてゴールデンパラシュートの素性と活動目的を耳にした。
 それは、くしくもギデオンと酷似したモノであり、共感できる部分も多々ある話だった。
 だからこそ、痛いほど分かってしまう……!
 一度でも感情が昂れば、この男は壊れてしまう。
 すべてを投げ捨ててでも、自身の望みを叶えようとする危険な思想の持主だ。
 これも……悪の種の副作用なのだろう。

 現に他者に幸福を降りまくという奇特な能力は、彼の生来の人格を切実に表している。

 ズレた眼鏡を、指先でクイと直し元スパイは断言する。

「言うな、若造が……これでも、共和国のエージェントとして活動し続けてきたんだ。その辺り、わきまえているわ」

「だと、いいがな……」


 車が去るのを見届けながら、ギデオンは踵を返した。
 戦闘が終了してから、だいぶ時間が経過してる。
 シゼルが早まらなければと思いつつも、急ぎエントランスホールへと向かう。

 外庭に立つファルゴが見えた。
 周囲には、本殿の方から駆けつけてきた生徒たちや、安全な場所に避難していた参列客が集まって来ていた。
 空から飛来してきた、謎の怪物。
 それをほぼ単独で撃退した彼の雄姿を称えるべく一同は、拍手喝采を送る。

「すげぇ――――!! さすが俺たちのファルゴさんだ」
「キャァァ――! ファルゴくぅ~ん!! 素敵ぃ~」
「これが……ガルベナール殿のお孫さんか……末恐ろしい、才覚だ――」  

 称賛の嵐が飛び交う中、ファルゴは終始、眉間みけんにシワを作っていた。
 視線の先には虫の息となったオウムが地べたに這いつくばっていた。

「けっ! 弱いな……弱すぎるぞォォォオ――――!!!」

「キュ…………ピィ」力なく鳴くオウムに、ファルゴが狂ったようにたける。

「おい!  今のが全力だというのか? 嘘だろ!? 嘘って言えよ!! これじゃあ、ちっとも愉しめねぇーんだよ!! つーか!! さっきから、ピイチクとウゼェ――んだよ、外野ども!!! 俺は、暴れたりねぇんだよ、別にテメーらのためにコイツをボコボコにのした訳じゃねぇよ。」

「ファルゴさん!! ンクッ……ハァハァ―――た、大変です!!」

 怒り冷めやらぬ、若者のまえにガイドが現れた。
 その切羽詰まったの様子に、ファルゴは瞬く間に正気へと戻る。
 自身のお気に入りを、一目見ただけで、それまでの彼とは別人のように大人しくなる。
 宰相の孫は、意外とチョロかった。

「マローナ? 何かあったのか!? お爺ちゃんは、どうした?」

「そ、それが……すみません!! 目を離したすきに怪しい恰好をした連中に、連れ去られてしまいました」

「んだとぉ―――」

「これが現場に……」

 ギデオンは見事なまでにを演じきっていた。
 たとえ偽りの涙を浮かべても、盲目となったファルゴに、その正体を見抜くすべはない。
 誰かに気づかれれば、即座に終了だが、完璧な女装を見破る者はそこにいなかった。

 手渡せれた手紙の封を切る。
 中身を読むと、ファルゴは手紙をクシャクシャにして投げ捨てた。
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