122 / 298
百二十二話
しおりを挟む
神殿前に出てきたツワーガイドと宰相。
彼らを出迎えるように、横づけした車体がすでに止まっている。
「ジェイクのオッサン、車を出してくれ!」
「来たか、ギデオン! 事情は把握している……手筈通り、ガルベナールは連れてゆくぞ!」
捕獲した宰相の身柄をジェイクに預ける。
ガルベナールが細身で小柄だったからこそ、ここまで難なく持ち運べた。
猿ぐつわをはめ、拘束したままの状態でトランクルームに押し込む。
「で? お前の方はどうするんだ?」ジェイクが無機質に尋ねてくる。
感情を読み取られない為の訓練を受けているらしい。
彼との距離感がつかめず、会話のやり取りに少々、キツさを感じを得ない。
「鳥の方はどうなった?」ギデオンが答える。
「かなり、不味い状態だ。今、シゼルが動いてくれている」
「それほどまで強いのか!? ファルゴの奴は!!」
「ああ……アレは何と説明すればいいのか……人の域を脱している」
ケサランパサランの目を通じて、観戦していたジェイクの額から汗がにじんでいた。
強力な力を所持するケツァルコアトルが、宰相の孫の力に屈した。
思わぬ、結果。強敵の出現により二人の間に若干、沈黙が漂う。
本当に、あの暴君に勝てるのか? 協力者である彼の眼が無言で訴えていた。
「そうか……一先ず奴の元に戻る。ガルベナールが誘拐されたと知れば、どう動くか見当もつかないからな。あの鳥も可能なら助けるつもりだ」
「すまんな。私には支援ぐらいしかできない」
「そんな事は、どうでもいい……オッサンが私情に走って裏切らなければな。ソイツは重要参考人だ、独断で手出しすることは赦さないぞ!」
ギデオンはキツイ口調で忠告した。
先日、サーマリアの霊園にてゴールデンパラシュートの素性と活動目的を耳にした。
それは、くしくもギデオンと酷似したモノであり、共感できる部分も多々ある話だった。
だからこそ、痛いほど分かってしまう……!
一度でも感情が昂れば、この男は壊れてしまう。
すべてを投げ捨ててでも、自身の望みを叶えようとする危険な思想の持主だ。
これも……悪の種の副作用なのだろう。
現に他者に幸福を降りまくという奇特な能力は、彼の生来の人格を切実に表している。
ズレた眼鏡を、指先でクイと直し元スパイは断言する。
「言うな、若造が……これでも、共和国のエージェントとして活動し続けてきたんだ。その辺り、わきまえているわ」
「だと、いいがな……」
車が去るのを見届けながら、ギデオンは踵を返した。
戦闘が終了してから、だいぶ時間が経過してる。
シゼルが早まらなければと思いつつも、急ぎエントランスホールへと向かう。
外庭に立つファルゴが見えた。
周囲には、本殿の方から駆けつけてきた生徒たちや、安全な場所に避難していた参列客が集まって来ていた。
空から飛来してきた、謎の怪物。
それをほぼ単独で撃退した彼の雄姿を称えるべく一同は、拍手喝采を送る。
「すげぇ――――!! さすが俺たちのファルゴさんだ」
「キャァァ――! ファルゴくぅ~ん!! 素敵ぃ~」
「これが……ガルベナール殿のお孫さんか……末恐ろしい、才覚だ――」
称賛の嵐が飛び交う中、ファルゴは終始、眉間にシワを作っていた。
視線の先には虫の息となったオウムが地べたに這いつくばっていた。
「けっ! 弱いな……弱すぎるぞォォォオ――――!!!」
「キュ…………ピィ」力なく鳴くオウムに、ファルゴが狂ったように猛る。
「おい! 今のが全力だというのか? 嘘だろ!? 嘘って言えよ!! これじゃあ、ちっとも愉しめねぇーんだよ!! つーか!! さっきから、ピイチクとウゼェ――んだよ、外野ども!!! 俺は、暴れたりねぇんだよ、別にテメーらのためにコイツをボコボコにのした訳じゃねぇよ。」
「ファルゴさん!! ンクッ……ハァハァ―――た、大変です!!」
怒り冷めやらぬ、若者のまえにガイドが現れた。
その切羽詰まったの様子に、ファルゴは瞬く間に正気へと戻る。
自身のお気に入りを、一目見ただけで、それまでの彼とは別人のように大人しくなる。
宰相の孫は、意外とチョロかった。
「マローナ? 何かあったのか!? お爺ちゃんは、どうした?」
「そ、それが……すみません!! 目を離したすきに怪しい恰好をした連中に、連れ去られてしまいました」
「んだとぉ―――」
「これが現場に……」
ギデオンは見事なまでにマローナを演じきっていた。
たとえ偽りの涙を浮かべても、盲目となったファルゴに、その正体を見抜くすべはない。
誰かに気づかれれば、即座に終了だが、完璧な女装を見破る者はそこにいなかった。
手渡せれた手紙の封を切る。
中身を読むと、ファルゴは手紙をクシャクシャにして投げ捨てた。
彼らを出迎えるように、横づけした車体がすでに止まっている。
「ジェイクのオッサン、車を出してくれ!」
「来たか、ギデオン! 事情は把握している……手筈通り、ガルベナールは連れてゆくぞ!」
捕獲した宰相の身柄をジェイクに預ける。
ガルベナールが細身で小柄だったからこそ、ここまで難なく持ち運べた。
猿ぐつわをはめ、拘束したままの状態でトランクルームに押し込む。
「で? お前の方はどうするんだ?」ジェイクが無機質に尋ねてくる。
感情を読み取られない為の訓練を受けているらしい。
彼との距離感がつかめず、会話のやり取りに少々、キツさを感じを得ない。
「鳥の方はどうなった?」ギデオンが答える。
「かなり、不味い状態だ。今、シゼルが動いてくれている」
「それほどまで強いのか!? ファルゴの奴は!!」
「ああ……アレは何と説明すればいいのか……人の域を脱している」
ケサランパサランの目を通じて、観戦していたジェイクの額から汗がにじんでいた。
強力な力を所持するケツァルコアトルが、宰相の孫の力に屈した。
思わぬ、結果。強敵の出現により二人の間に若干、沈黙が漂う。
本当に、あの暴君に勝てるのか? 協力者である彼の眼が無言で訴えていた。
「そうか……一先ず奴の元に戻る。ガルベナールが誘拐されたと知れば、どう動くか見当もつかないからな。あの鳥も可能なら助けるつもりだ」
「すまんな。私には支援ぐらいしかできない」
「そんな事は、どうでもいい……オッサンが私情に走って裏切らなければな。ソイツは重要参考人だ、独断で手出しすることは赦さないぞ!」
ギデオンはキツイ口調で忠告した。
先日、サーマリアの霊園にてゴールデンパラシュートの素性と活動目的を耳にした。
それは、くしくもギデオンと酷似したモノであり、共感できる部分も多々ある話だった。
だからこそ、痛いほど分かってしまう……!
一度でも感情が昂れば、この男は壊れてしまう。
すべてを投げ捨ててでも、自身の望みを叶えようとする危険な思想の持主だ。
これも……悪の種の副作用なのだろう。
現に他者に幸福を降りまくという奇特な能力は、彼の生来の人格を切実に表している。
ズレた眼鏡を、指先でクイと直し元スパイは断言する。
「言うな、若造が……これでも、共和国のエージェントとして活動し続けてきたんだ。その辺り、わきまえているわ」
「だと、いいがな……」
車が去るのを見届けながら、ギデオンは踵を返した。
戦闘が終了してから、だいぶ時間が経過してる。
シゼルが早まらなければと思いつつも、急ぎエントランスホールへと向かう。
外庭に立つファルゴが見えた。
周囲には、本殿の方から駆けつけてきた生徒たちや、安全な場所に避難していた参列客が集まって来ていた。
空から飛来してきた、謎の怪物。
それをほぼ単独で撃退した彼の雄姿を称えるべく一同は、拍手喝采を送る。
「すげぇ――――!! さすが俺たちのファルゴさんだ」
「キャァァ――! ファルゴくぅ~ん!! 素敵ぃ~」
「これが……ガルベナール殿のお孫さんか……末恐ろしい、才覚だ――」
称賛の嵐が飛び交う中、ファルゴは終始、眉間にシワを作っていた。
視線の先には虫の息となったオウムが地べたに這いつくばっていた。
「けっ! 弱いな……弱すぎるぞォォォオ――――!!!」
「キュ…………ピィ」力なく鳴くオウムに、ファルゴが狂ったように猛る。
「おい! 今のが全力だというのか? 嘘だろ!? 嘘って言えよ!! これじゃあ、ちっとも愉しめねぇーんだよ!! つーか!! さっきから、ピイチクとウゼェ――んだよ、外野ども!!! 俺は、暴れたりねぇんだよ、別にテメーらのためにコイツをボコボコにのした訳じゃねぇよ。」
「ファルゴさん!! ンクッ……ハァハァ―――た、大変です!!」
怒り冷めやらぬ、若者のまえにガイドが現れた。
その切羽詰まったの様子に、ファルゴは瞬く間に正気へと戻る。
自身のお気に入りを、一目見ただけで、それまでの彼とは別人のように大人しくなる。
宰相の孫は、意外とチョロかった。
「マローナ? 何かあったのか!? お爺ちゃんは、どうした?」
「そ、それが……すみません!! 目を離したすきに怪しい恰好をした連中に、連れ去られてしまいました」
「んだとぉ―――」
「これが現場に……」
ギデオンは見事なまでにマローナを演じきっていた。
たとえ偽りの涙を浮かべても、盲目となったファルゴに、その正体を見抜くすべはない。
誰かに気づかれれば、即座に終了だが、完璧な女装を見破る者はそこにいなかった。
手渡せれた手紙の封を切る。
中身を読むと、ファルゴは手紙をクシャクシャにして投げ捨てた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる