異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百十五話

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「僕のバリュエーションが……グッワアアア――アアアガガガアア――――!!!」

 両膝をつき、苦しそう胸をかきむしるリッシュ。
 悪の種の損傷――それは、計り知れないほどの心的苦痛を伴う。

 体内に埋め込まれた種は、成長段階において宿主の心の力を養分とする。
 その過程で宿主の精神と同化し、分身と化す。
 分身体が何故、魔物の姿を模しているのか?
 その秘密を知っているのは、ワイズメル・シオンの中でも、ごく一部の者たちだけだと言われている。
 魔物がどのような能力を得るのかは、宿主次第だ。
 感情、思考パターン、意思、記憶などによりそれは決定される。

「リッシュ、お前は自分の能力をひた隠しにしていたようだが、古城で自身にもバリュエーションをかけたのは、失敗だったな」

「どういう意味なんだい……?」

「お前が弱体化した時、悪いが個人ステータスを見せてもらった。その時、ステータスのいちじるしい低下を確認し、これがデバフの一種だと突き止めた」

「ステータスオープンのスキル持ちか……ウワサに聞いてはいたが実在するとはね……」

 バリュエーションの能力は、ステータス関連操作だ。
 額面どおり数値をいじるだけではなく、色別してカテゴライズまでできる多用途性に富んだものだ。
 弱体化の発動条件は、相手の名前を正しく認識していること。
 一人でも成功すれば、効果範囲内にいる他の者を巻き込むこともできる。
 逆に誤った認識を持っている相手には効力を発揮しない。

 なかなか複雑な条件だが、これも宿主たるリッシュの性格が大きく反映している。

「お前にグリンガムズィーべンを止めるすべはない。大人しく降参しろ!!」

 瞳を見開きギデオンが叫んだ。
 この降服勧告はクラスメイトとしての最初で最後の温情だった。
 それを知ることのないリッシュは、乾いた笑いをうかべて見せた。

「まだだ。僕の能力はこの程度ではではない。弱体化はもう必要ないだろう。ギデオン、ここからが本番だ……僕の全てを投じる。君にこれが止められるか!?」

「だから、後悔すると言っただろう! リッシュ、今度こそ出し惜しみするなよ!!」

 身体が急に軽さを覚えた。
 ギデオンを押さえつけていた弱体化能力は解除された。

 代わりに、リッシュの全ステータスが劇的に上昇していく。

「ハァアアア――!!」束縛する鞭ごと右腕を振り回す。

 重から軽、突然の重量差にギデオンの身体がいとも簡単に浮き上がる。
 そのまま半円を描くように上空に投げ飛ばされた。

「チッ! 今度は身体強化か!?」

 シオン賢者を押えていた左鞭を離し、同時に右鞭を屋上の排煙ダクトに巻きつける。
 鞭を収縮させ、屋上に不時着する。

「砂塵よ、地を狩る鉄騎となりて障害を打ち破れ!! アイアンファランクス――」

 息つく暇もあたえず、砂鉄の波が降りかかっってくる。
 グリンガムズィーべンの三連撃で貫通破壊してしのぐ。

 リッシュはなおも、土属性魔法を撃ちこんでくる。
 徐々にだが、砂鉄の硬度が強化されている。
 アイアンファランクス――その名が示す通り密度を増した砂が鉄壁を造りあげ、敵を叩き潰す。

 弾丸のように走る、伸縮自在の一撃で応戦してゆく。
 鉄壁とぶつかり合う度に、衝撃で体力が削られてしまう。
 どこかで反撃に転じないといけない。
 通常なら、そうしなければならないが、今回は少し状況が違う。

 勝機は充分に見えていた。
 力任せのリッシュの剣は、ただ殴り飛ばすだけの鈍器になってしまった。
 身体能力が底上げされても、武器の性能や剣の技量は不足していた。

「バルクソール! マスタングブレイドォォ!! オオオッ! ダンプティエッジィ―――」

 乱舞する剣技が一気に押し寄せてくる。
 持て余したスタミナを駆使して、ラストスパートをかけようとしている魂胆が見え見えだ。
 そんなことをしても剣技としての質が低ければ一太刀も通ることはない。

 反対に、ここまでやれば肉体のほうがおかしくなってくる。
 剣技とは、安易に乱発できるモノではない。
 一撃にもてる能力を込めて発動させる溜め技が多々存在する。
 ソレを無視すれば、のちのちに支払う代償はたかくつく。

「がら空きだ」鞭の一本がリッシュの軸足をなぎ払う。
 攻撃するのに必死で防御をおこたった彼は、あっけなく転倒した。

「き、君は本当に悪夢のような奴だ……僕の攻撃は何一つ君に届かない。ステータスの数値を上げ続けても何ら変わりない……最悪だ。君こそ本当の悪魔に相応しいじゃないか?」

「意外と毒舌なんだな、お前。ようやく、メッキがはがれてきたか……リッシュ、今の連撃モドキが自分のモノだと本気で言っているのか? いくら容量ばかり増やしても、中身がともなっていなければ自身の力を100パーセント発揮することなど夢のまた夢だ」

「つまり……実力不足ということかい? これでも僕は、様々な武器を扱えるスキルを所持しているんだよ、そんな馬鹿げた話はないだろう」

「それは上澄みだけでしかないだろう!? お前が常に平常心を保っていられるのは、何かを犠牲にする覚悟もなく、何一つ賭けようともしない。最初から本気でやるつもりでも、本気の出し方が分からないんじゃ自身の限界なんて越えられやしないぞ!!」
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