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百九話
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もらった通信機が早速、役立った。
ギデオンは、颯爽と校舎裏に向かう。
昨日の今日で忙しないことばかりだが、ランドルフがホワイトナイトを捕獲した。
願ってもない朗報だった。
ホワイトナイトの能力を踏まえれば、捕らえるのは困難だと予想されていた。
放っておけば、後々障害となりうる。
その不安要素を、ここで取り除けたのは大きい。
現場に到着すると、ランドルフが応急手当をうけていた。
心配無用という意思表示のつもりなのだろうか?
「大丈夫か?」と呼びかけると、無言で手帳を渡された。
「すまない、二人とも。警戒してはいたが、こうも早く再襲撃をしかけてくるとは……敵をあなどりすぎた」
解錠された記録を手にし謝罪の言葉を告げる。
ここまで上手く、ことが運んだのは君たちのおかげだ。
そう言わんばかりにギデオンは頭を下げてみせた。
「仕方ないですわよ。こうなる危険に対し、できる限り窓やガラスのない場所を選んでいたのに、まさか、手鏡が飛んでくるとは思いもよりませんでしたわ!」
「敵は私たちの位置を掌握している……そうとしか思えない!」
戦闘直後というのもあり、興奮冷めやらぬ二人。
その様子を少し離れた場所から冷めた視線で見続けている者がいた。
シゼル・アマン、すでに死亡したはずの少女は、木の幹に縛りつけられていた。
ギデオンは彼女もとへと近づいてゆく。
「道理で新聞の記事に載っていないはずだ……何が目的だ? どうして僕たちを狙った?」
「さぁ? 知りたければ、ドーゾ拷問でもして調べれば?」
「やせ我慢しても、良い事はないぞ。傷は浅いとはいえ、治癒しない限り歩くのも困難なはずだ」
「話せば治療してくれるの? 何があっても君たちには話さない……話さないんだよぉ~!」
「なら、そうすれば良い。どのみち僕らは真実に達する。それでも、あえて一つだけ確認する! お前とあの鳥は本当にワイズメル・シオンか!?」
問いにならない質問だった。
聞いたところで、相手が正直に打ち明けるとはかぎらない。
それでも、彼は問うのを止めなかった。
ちゃんと、シゼル本人の口から答えを聞かなければ、成否は判明せずに終わってしまう。
相手を裁く上での、最低限の義務。
それを守らなければ、ただ無差別に暴力をふるっているのと、同程度のモノに成り下がってしまう。
「チガウよ。少なくとも、キュピちゃんはアイツらを敵視している……」
自分のことには寡黙な少女も、あのオウムが絡むと口を開く。
彼女にとってキュピちゃんは、特別な存在なのだろう。
必死に擁護しようとする様が、それを物語っていた。
「シオンの賢者じゃないという訳か……すまないが、ランドルフ、この女を軍警察に引き渡してくれ」
「そんなに簡単に信じていいのか? 軍警察に任せたとしても彼女を裁くには証拠がなさすぎるぞ」
「少なくとも、お前は辻斬りの被害にあったんだ。それで、立証すればいいさ。それ以上は、僕の裁量でが決めかねる。でなければ僕は、コイツを――――」
「分かった……この娘の身柄は預かろう」
「オホン! ところで、お二方。私からも質問よろしいでしょうか?」
男たちから発せられる、ピリピリとした空気に耐えられなくなったようだ。
バージェニルが会話に割って入ってきた。
何やらご機嫌斜めな、彼女の表情は普段の三割増しでムスッとしていた。
「バージェニルもご苦労様!」
「ぎ、ギデさん!! そういうことではないでしょ――う! 何を、一仕事終えたみたいな顔をしていらっしゃるのかしら? さきほどから黙っていれば、シオンなんちゃらがどうとか、軍警察がどうたらとランドルフさんと二人で盛り上がっているようですが、そろそろに私にも説明しなければいけないのでは!!」
「バージェニル、いいかい。世の中には、知らなくてもいいことが一杯あるんだ」
「ん、またぁ―――! お茶を濁すのも大概にですわ!! だいたい、その手帳の中身を見る権利は、解錠した私にもありますわ。それを蚊帳の外に置くなんて鬼畜ですわ!」
「ギデ……さすがに、もう誤魔化せないだろ。中途半端に巻き込んだままでは、かえって危険だと思うぞ」
「あまり気が進まないが致し方ない……今から手帳を開く。バージェニル、後で文句言ってきても責任はとれないからな!」
「構いませんわ。望むところよ」
開示される手帳、そこにはキンバリー・カイネンが書き記した過去の研究理論が残されているという。
シゼルたちが、何の為に手帳を回収しようとしたのか?
すべての答えはこの中にある。
今、生態研究の闇に憑かれた女の内側があばかれる。
ギデオンは、颯爽と校舎裏に向かう。
昨日の今日で忙しないことばかりだが、ランドルフがホワイトナイトを捕獲した。
願ってもない朗報だった。
ホワイトナイトの能力を踏まえれば、捕らえるのは困難だと予想されていた。
放っておけば、後々障害となりうる。
その不安要素を、ここで取り除けたのは大きい。
現場に到着すると、ランドルフが応急手当をうけていた。
心配無用という意思表示のつもりなのだろうか?
「大丈夫か?」と呼びかけると、無言で手帳を渡された。
「すまない、二人とも。警戒してはいたが、こうも早く再襲撃をしかけてくるとは……敵をあなどりすぎた」
解錠された記録を手にし謝罪の言葉を告げる。
ここまで上手く、ことが運んだのは君たちのおかげだ。
そう言わんばかりにギデオンは頭を下げてみせた。
「仕方ないですわよ。こうなる危険に対し、できる限り窓やガラスのない場所を選んでいたのに、まさか、手鏡が飛んでくるとは思いもよりませんでしたわ!」
「敵は私たちの位置を掌握している……そうとしか思えない!」
戦闘直後というのもあり、興奮冷めやらぬ二人。
その様子を少し離れた場所から冷めた視線で見続けている者がいた。
シゼル・アマン、すでに死亡したはずの少女は、木の幹に縛りつけられていた。
ギデオンは彼女もとへと近づいてゆく。
「道理で新聞の記事に載っていないはずだ……何が目的だ? どうして僕たちを狙った?」
「さぁ? 知りたければ、ドーゾ拷問でもして調べれば?」
「やせ我慢しても、良い事はないぞ。傷は浅いとはいえ、治癒しない限り歩くのも困難なはずだ」
「話せば治療してくれるの? 何があっても君たちには話さない……話さないんだよぉ~!」
「なら、そうすれば良い。どのみち僕らは真実に達する。それでも、あえて一つだけ確認する! お前とあの鳥は本当にワイズメル・シオンか!?」
問いにならない質問だった。
聞いたところで、相手が正直に打ち明けるとはかぎらない。
それでも、彼は問うのを止めなかった。
ちゃんと、シゼル本人の口から答えを聞かなければ、成否は判明せずに終わってしまう。
相手を裁く上での、最低限の義務。
それを守らなければ、ただ無差別に暴力をふるっているのと、同程度のモノに成り下がってしまう。
「チガウよ。少なくとも、キュピちゃんはアイツらを敵視している……」
自分のことには寡黙な少女も、あのオウムが絡むと口を開く。
彼女にとってキュピちゃんは、特別な存在なのだろう。
必死に擁護しようとする様が、それを物語っていた。
「シオンの賢者じゃないという訳か……すまないが、ランドルフ、この女を軍警察に引き渡してくれ」
「そんなに簡単に信じていいのか? 軍警察に任せたとしても彼女を裁くには証拠がなさすぎるぞ」
「少なくとも、お前は辻斬りの被害にあったんだ。それで、立証すればいいさ。それ以上は、僕の裁量でが決めかねる。でなければ僕は、コイツを――――」
「分かった……この娘の身柄は預かろう」
「オホン! ところで、お二方。私からも質問よろしいでしょうか?」
男たちから発せられる、ピリピリとした空気に耐えられなくなったようだ。
バージェニルが会話に割って入ってきた。
何やらご機嫌斜めな、彼女の表情は普段の三割増しでムスッとしていた。
「バージェニルもご苦労様!」
「ぎ、ギデさん!! そういうことではないでしょ――う! 何を、一仕事終えたみたいな顔をしていらっしゃるのかしら? さきほどから黙っていれば、シオンなんちゃらがどうとか、軍警察がどうたらとランドルフさんと二人で盛り上がっているようですが、そろそろに私にも説明しなければいけないのでは!!」
「バージェニル、いいかい。世の中には、知らなくてもいいことが一杯あるんだ」
「ん、またぁ―――! お茶を濁すのも大概にですわ!! だいたい、その手帳の中身を見る権利は、解錠した私にもありますわ。それを蚊帳の外に置くなんて鬼畜ですわ!」
「ギデ……さすがに、もう誤魔化せないだろ。中途半端に巻き込んだままでは、かえって危険だと思うぞ」
「あまり気が進まないが致し方ない……今から手帳を開く。バージェニル、後で文句言ってきても責任はとれないからな!」
「構いませんわ。望むところよ」
開示される手帳、そこにはキンバリー・カイネンが書き記した過去の研究理論が残されているという。
シゼルたちが、何の為に手帳を回収しようとしたのか?
すべての答えはこの中にある。
今、生態研究の闇に憑かれた女の内側があばかれる。
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