異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百七話

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「フフッ……どこまで楽しめるかなぁ~?」

シゼルが不敵に笑う。
再度、ドッペルゲンガーに触れるとホワイトナイトに顕現けんげんする。
重量ある断罪の剣が地をえぐる。
粗暴な剣閃が振り子のように飛んでくる。

一撃、また一撃と殴るようにランドルフの身に刃を叩き込んでゆく。
抵抗することもなく、為すがままにされる彼の身は木の葉ように、ふらついていた。

「ランドルフさん!!!」バージェニルが甲高い声をあげる。

声を耳にした護衛長は、彼女の不安を打ち砕くがごとく口角をあげてみせる。

「笑っている!?」異変に気づいた白騎士の主は、迅速に相手から離れるよう指示を出した。

「宙を舞う木の葉を斬るのは容易ではないはずだ! その程度の技量で、倒せるほど私は甘くないぞ!!」

「いや~ん! 動きが見切られちゃっているぅ」

「破壊力は凄まじいが、動きが単調だ!」

「う~ん、ムズカシイ、ドウシヨウ? コマッタナ―……」

無傷のランドルフを見ながら、自身の人差し指をコメカミにあてがうシゼル。
ツインテールを垂らすように首をかしげているが、無表情だ。
到底、困っているようには思えない少女の人相は、まるで人形のようで薄気味悪い。

「そうだ! こういう時こそ、力と力を一つにすればいいんだ!」

何かを思いつき、唇を三日月型にしながらポンと手を打つ。

「ここからが正念場か……」肌を刺す空気に、青年は重心を低く落とす。

「それじゃあー!! 本気で行くよぉ~ん!! おーそらいず・きゃりばぁ――――ホワイトフレーム!!」

不遜ふそんな口調とともに、白騎士の鎧が九つ部位にバラける。

ポールドロン(肩) ガントレット(腕) クーター(肘)
サバトン(足) ヘルム(頭) クゥイス(もも)
グリーヴ(すね) パウレイン(膝) ブレストプレート(胴)

各部位が少女の肉づきに合わせ、形状変化してゆく。
フルプレートだった鎧が軽量化され、チェーン部分と装甲部分で半々に分けられた。
兜はヘッドドレス風に、ブレストプレートはハーフメイルといった具合に、機動力を重視した装いとなった。
その中で十個目のパーツ、処刑人の剣だけは変わることなくあり続けた。

「その正中線に沿った構え、君も剣術の心得があるようだな」

「モチロン~! シゼルはグレートナイトの適性があるんだよ」

「ならば! 手加減不要だな。龍頭、虎頭――」

ランドルフは、レイピアとカットラスの切っ先が八の字になるように構えた。

「剣術において、は重要だ。それぞれ型に相性があり、独自の特性を持つ。型を極めるという事は戦術の幅を拡張するのも同じ、精度を高めるそれだけで強力な武器となる」

「ウンチクはどうでもいいよ! プレートアーマーの防御力を甘く見ないほうがいいよ~」

どちらかと言わず、両者は大地を蹴った。
両手持ちの大剣と曲刀が凄まじい金属音を奏でながら、空を切って振り回される。
双方、引く気配はまったくない。
刃が相手の身体に達するまで撃ち合うつもりだ。
ランドルフの頬から血がにじむ。
シゼルの喉元を刃がかすめる。

ガツッ! 青年の足が白騎士のサバトンを踏みつける。
そのまま押し倒そうと前に出る。

「遅いよ!!」態勢を崩しながらも、少女の一撃がランドルフの腹部に飛んだ。
その場で片膝を折り、傷口を押える。
徐々に手が赤く染まってゆく。
彼はうめき声一つあげずにいるが、呼吸は確実に乱れていた。

「ほらね。シゼルのほうが強いでしょっ!? 次は、頭蓋骨を撃ち抜くよ~ん。クラッシュドダンプ!!」

白騎士の彼女は人間離れした跳躍を見せた。
獲物を眼下に見下ろしたまま幅広の直刀を全力で振り下ろす。

ドガッ!! 土砂をまき散らしながら、断罪の刃が地面にめり込んでいた。

「い、いない!? どこに消えたぁ……ああっ――――!」

少女のひじわきから鮮血がドパッと飛び出した。
覚えのない身体の穴にうろたえる。
小さな傷であってもジワジワと痛みが増していく。
これが何か剣士である彼女には分かっていた。
いかに致命的かを知っているからこそ、細心の注意をはらっていた……なのに、貫かれた瞬間さえ気づけなかった。

「い……言ったろ。本物の剣術を見せてやると……これが私と君の差だ、クッ――」

「無茶しないでくださいまし。後は、私が引き受けますわ」

「来るな!」

深手を負った自分のそばに駆けつけようとする令嬢。
片腕を伸ばし若き騎士は、彼女の歩みをとめた。

「避難しろと言ったはずだ、バージェニル嬢。これは騎士同士の戦いだ、よって手出しは無用」

ひたいから汗を垂れ流し気丈に振る舞う。
バージェニルが言ったとおり、誰の目から見ても無理をしている。
もって、後一撃……失血により青年の意識は、とうに限界を迎えている。

何が彼を駆り立てるのか? 令嬢である彼女には、理解が及ばなかった。
それが騎士の誇りだとしても、命を賭して戦う理由にはならない。
自分と違う価値観に、バージェニルは胸元で拳を握りしめていた。
そこにあるのは、事の顛末てんまつを見届けなければいけないという熱い使命感だった。
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