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百六話
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物寂し気に自身を語る少女。
確かに気位が高そうではあるも、悪徳令嬢というほど悪い人間には見えない。
そうは思っても、かける言葉が見当たらない。
彼女は出会ったばかりの人物に同情を誘うような人物ではないとランドルフなりに悟っていた。
ここで、身の上話を持ち出してくるのは拒絶の一環。
それ以上は、私に関わるな! と警告を発しているようだ。
ランドルフは自身の手首を握った。
右でも左でも構わない……こうすると気分が落ち着くからだ。
握った手に伝わる脈拍が徐々にゆっくりとなり正常に戻る。
彼女の言葉だけでそうなった訳ではない。
一葉という喩えは、彼にも覚えがあったからだ。
もっとも、ランドルフの場合は外ではなかった……正反対の内側でずっと閉じこめられていた。
「ランドルフさん?」
バージェニルの声で、思考の檻に捕まろうとしている自分に彼はきづいた。
雑念はふりほどこうと出された紅茶をに手をのばす。
「熱っ!!」勢い任せで口元に運んだせいで軽く火傷してしまった。
「大丈夫ですか?」問う彼女に「すみません」と平謝りする。
青年の中でティーブレイクは優雅に嗜むモノ。
印象だけが先行する彼にとって、先ほどの行為は不作法でしかなかった。
「本題に移りましょう、魔法施錠の解除をお願いできますか!?」
キンバリーの手帳をテーブルに置くとランドルフは真摯に頭を下げた。
出所を明かせない以上、そうやって頼みこむしか方法がなかった。
「構いませんわ。貴族の令嬢たるこの私が、そのような細やかな事を気にするわけありませんわ。万が一、悪事に加担するような事があれば、この手帳ごと貴方がたを斬り刻む義賊が現れますわ!」
「ナイトレイドは、人の悪事を見分けることが可能なのですか!?」
「あ、あくまで個人的な見解ですわ……オホホホッ!! それで、マジックロックの解錠でしたね。準備は整ってますわよ」
バージェニルはそう言うと胸元で両腕をクロスさせた。
薬指と小指を曲げた独特な手のポーズを作り念じる。
それに呼応するように、テーブル中央にある日傘の柄が光を帯び、魔法文字を刻んでゆく。
瞳を閉じながら、精神統一した彼女が両腕を対象に向けて伸ばす。
「行きますわよ……イニシエーション・オープン!!」
その瞬間、手帳がカタカタと小刻みに振動し、魔法陣を排出した。
傘の柄から文字が飛び出し、虫食いのように魔法陣をボロボロに溶かし崩してゆく。
すべてを消すのに一分とかからなかった。
パチン! と留め具が外れ、手帳が開かれた。
「……成功よ。確かめてごらんなさい」
「ええっ、では――――」
ランドルフが手帳を掴んだところで、日傘に何かが直撃した。
「あら、手鏡? こんな場所にどうして?」
「それに、触れてはいけない!!」
「キャッ!」
鏡を拾おうとするバージェニルを青年は手で押し退けた。
多少、荒っぽいがそうも言っていられない……間近には脅威が迫って来ていた。
「逃げろ!! バージェニル嬢!!」
鏡の中から飛び出す処刑人の剣がランドルフの頭上を通過する。
あと、少しでも後退するタイミングが遅ければ刃の餌食になっていた。
背筋に痺れを走らせながら、彼は腰に下げていたレイピアを引き抜いた。
「何て事だ……アイツの忠告通りになった。とすると、狙いはこの手帳か!?」
「ピンポン! ピンポン! 良く、出来ましたぁ~」
白騎士が出現したのと同時に、もう一つ別の手鏡からツインテールの少女が飛び出してきた。
「あ、貴女は!!」目を見開いたまま、令嬢は絶句していた。
「へぇ~、覚えててくれたんだぁ。そうでぇ~す! 皆のアイドルこと、キュピちゃん飼い主ぃシゼル・アマンだよ!! ねぇ、ねぇ、どうしたの? ミミックに化かされたような顔しちゃって? ウケるんですけど~」
「そ、そうですわね。あのオウムが怪物になったところで、貴女を疑うべきでしたわね……」
「ひどぉーい。キュピちゃんは、れっきとした神様なんだよ! まぁ……成れの果てなんだけど……」
「ギデから聞いているぞ! 君は昨日、川原にて遺体で発見されたはずだ……どうして此処に居る?」
困惑するランドルフを一瞥し、少女は口元を大きく広げた。
「あれね! 全部、嘘だよ~。でも、彼はとんでもない奴だねぇ。ダイナマイトを放り投げても、生きているんだもん。参った、参った!」
ゆらり、ゆらりと両肩を左右に動かしながら白騎士のもとへ歩いてゆくシゼル。
甲冑の肩を彼女が叩いた途端、騎士の姿から彼女自身に変わる。
「どう? 驚いたでしょっ! シゼルの悪の種はドッペルゲンガーなんだよ~」
「そういう事か! でも、良いのか? ここで正体を明かしても、今までずっと隠してきたんだろう?」
「分かってないなぁ~、その段階は終了したんだよ。シゼルもキュピちゃんも、目標や目的があって動いているんだよ。それにぃ、ホワイトナイトを倒せる奴なんていないしぃ」
「うぬぼれも、そこまで来れば相当だな。良かろう、本物の騎士の剣を見せてやる!」
ランドルフがもう一本の刃、カットラスを引き抜いた。
確かに気位が高そうではあるも、悪徳令嬢というほど悪い人間には見えない。
そうは思っても、かける言葉が見当たらない。
彼女は出会ったばかりの人物に同情を誘うような人物ではないとランドルフなりに悟っていた。
ここで、身の上話を持ち出してくるのは拒絶の一環。
それ以上は、私に関わるな! と警告を発しているようだ。
ランドルフは自身の手首を握った。
右でも左でも構わない……こうすると気分が落ち着くからだ。
握った手に伝わる脈拍が徐々にゆっくりとなり正常に戻る。
彼女の言葉だけでそうなった訳ではない。
一葉という喩えは、彼にも覚えがあったからだ。
もっとも、ランドルフの場合は外ではなかった……正反対の内側でずっと閉じこめられていた。
「ランドルフさん?」
バージェニルの声で、思考の檻に捕まろうとしている自分に彼はきづいた。
雑念はふりほどこうと出された紅茶をに手をのばす。
「熱っ!!」勢い任せで口元に運んだせいで軽く火傷してしまった。
「大丈夫ですか?」問う彼女に「すみません」と平謝りする。
青年の中でティーブレイクは優雅に嗜むモノ。
印象だけが先行する彼にとって、先ほどの行為は不作法でしかなかった。
「本題に移りましょう、魔法施錠の解除をお願いできますか!?」
キンバリーの手帳をテーブルに置くとランドルフは真摯に頭を下げた。
出所を明かせない以上、そうやって頼みこむしか方法がなかった。
「構いませんわ。貴族の令嬢たるこの私が、そのような細やかな事を気にするわけありませんわ。万が一、悪事に加担するような事があれば、この手帳ごと貴方がたを斬り刻む義賊が現れますわ!」
「ナイトレイドは、人の悪事を見分けることが可能なのですか!?」
「あ、あくまで個人的な見解ですわ……オホホホッ!! それで、マジックロックの解錠でしたね。準備は整ってますわよ」
バージェニルはそう言うと胸元で両腕をクロスさせた。
薬指と小指を曲げた独特な手のポーズを作り念じる。
それに呼応するように、テーブル中央にある日傘の柄が光を帯び、魔法文字を刻んでゆく。
瞳を閉じながら、精神統一した彼女が両腕を対象に向けて伸ばす。
「行きますわよ……イニシエーション・オープン!!」
その瞬間、手帳がカタカタと小刻みに振動し、魔法陣を排出した。
傘の柄から文字が飛び出し、虫食いのように魔法陣をボロボロに溶かし崩してゆく。
すべてを消すのに一分とかからなかった。
パチン! と留め具が外れ、手帳が開かれた。
「……成功よ。確かめてごらんなさい」
「ええっ、では――――」
ランドルフが手帳を掴んだところで、日傘に何かが直撃した。
「あら、手鏡? こんな場所にどうして?」
「それに、触れてはいけない!!」
「キャッ!」
鏡を拾おうとするバージェニルを青年は手で押し退けた。
多少、荒っぽいがそうも言っていられない……間近には脅威が迫って来ていた。
「逃げろ!! バージェニル嬢!!」
鏡の中から飛び出す処刑人の剣がランドルフの頭上を通過する。
あと、少しでも後退するタイミングが遅ければ刃の餌食になっていた。
背筋に痺れを走らせながら、彼は腰に下げていたレイピアを引き抜いた。
「何て事だ……アイツの忠告通りになった。とすると、狙いはこの手帳か!?」
「ピンポン! ピンポン! 良く、出来ましたぁ~」
白騎士が出現したのと同時に、もう一つ別の手鏡からツインテールの少女が飛び出してきた。
「あ、貴女は!!」目を見開いたまま、令嬢は絶句していた。
「へぇ~、覚えててくれたんだぁ。そうでぇ~す! 皆のアイドルこと、キュピちゃん飼い主ぃシゼル・アマンだよ!! ねぇ、ねぇ、どうしたの? ミミックに化かされたような顔しちゃって? ウケるんですけど~」
「そ、そうですわね。あのオウムが怪物になったところで、貴女を疑うべきでしたわね……」
「ひどぉーい。キュピちゃんは、れっきとした神様なんだよ! まぁ……成れの果てなんだけど……」
「ギデから聞いているぞ! 君は昨日、川原にて遺体で発見されたはずだ……どうして此処に居る?」
困惑するランドルフを一瞥し、少女は口元を大きく広げた。
「あれね! 全部、嘘だよ~。でも、彼はとんでもない奴だねぇ。ダイナマイトを放り投げても、生きているんだもん。参った、参った!」
ゆらり、ゆらりと両肩を左右に動かしながら白騎士のもとへ歩いてゆくシゼル。
甲冑の肩を彼女が叩いた途端、騎士の姿から彼女自身に変わる。
「どう? 驚いたでしょっ! シゼルの悪の種はドッペルゲンガーなんだよ~」
「そういう事か! でも、良いのか? ここで正体を明かしても、今までずっと隠してきたんだろう?」
「分かってないなぁ~、その段階は終了したんだよ。シゼルもキュピちゃんも、目標や目的があって動いているんだよ。それにぃ、ホワイトナイトを倒せる奴なんていないしぃ」
「うぬぼれも、そこまで来れば相当だな。良かろう、本物の騎士の剣を見せてやる!」
ランドルフがもう一本の刃、カットラスを引き抜いた。
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