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百三話
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「告別式の会場は何処になる?」
御付きの黒服たちが、建屋を囲う。
入口に二人ずつ、裏口にも同数、物々しく警備にあたる。
「はい。三時間後、ウルス殿にて執り行われます……注意点として、神殿内での飲食は禁止されています」
「分かっておる。だから、こうして解消しているのだろう。のう! ファルゴよ」
店内にはガルベナール一行とその関係者以外はいない。
全員、締めだされたのだ……テーブル席でガツガツと大飯を喰らう、若者に。
大衆向けの店は、一国の宰相が食事をすませるには不相応だった。
警戒心が強いガルベナールは、酒を煽るだけで食事が盛られた皿には一切、手をつけていない。
この店が出す料理の味は、絶品だ。
しかし、宰相からすれば料理の出来栄えなど、まったくもって重要ではない。
安心、安全に食事をすませれれば事足りる。
それでも、この様な場所に立ち寄ったのは、ひとえに孫のためだ。
彼が空腹を訴えなければ、予定は狂うことはなかった。
孫への甘さのせいで、スケジュール調整を余儀なくされた。
ツアーガイドの彼女は、手帳を確認しながら、対応の追われて羽目になった。
本来ならば、宰相側の秘書官がやるべきことのだろうが、あてにはならない。
「ナズィール地区の事は、我々より詳しいそちらにお任せします」と丸投げ状態で彼女は化粧なおしに集中している。
学長の方をチラ見すると申し訳なさそうに薄ら笑いしていた。
同様、周囲の補佐官も旅行気分でまったりとしている。
助け船は出そうにない……マローナはそう察したかのように日程を修正していく。
「できれば、これ以上の厄介事は起こさないで欲しい」その呟きを打ち消すがごとく、用心棒である少年が喚く。
「おい! シザークラブのチャハーン三人前追加だ。早くしろ、三分以内に用意しろ。でないと、店ごと叩き潰す」
ファルゴの要求は無茶苦茶だった。
いくら、卵とソバを炒めたお手軽、料理とはいえ三分で作れるわけがない。
彼の注意を引こうとゴーダが世間話を始める。
まったくもって聞いちゃいない……子供のようにフォークをにぎりテーブルに柄を叩きつけている。
「――な? 君もそう思うだろう、マローナ君!」
いきなり話を振られても困るとマローナは困惑した。
さすがに、彼女の名がでてくるとファルゴも耳をかたむける。
助けて欲しいのは彼女も同じだった。
左右を見回す反応に、学長の会話を聞き逃してしまったのは一目瞭然だ。
「知りませんよ……そんな事」
突っぱねる物言いに「ギャハハハハッ!!」と膝をたたきながら爆笑するファルゴがいた。
下卑た笑いに、ナズィール側のスタッフたちは顔色を真っ青にしてゆく。
「いいねぇ~!! お爺ちゃんもそう思うだろ?」
「反対派の重鎮を、そんな事で片づけてしまうとは、なかなか苛烈な発言だのう。コロシアム建設か……モーリッチのヤツに話したら飛びつくぞい。よかろう、聖王国でも出資を取り計らってもらえるよう、聖王様に進言してやるぞ」
「はっ! ウダウダ言うヤツは、ぶちのめせばいいだけだ!! 力あるヤツが、それを誇示しなくてどーすんだ?」
話が不味いほうへ流れている。
自身のうかつな発言にマローナは、萎縮する。
ファルゴからそそがれる熱烈な視線が痛いらしい。
「そろそろ、会場に向かいましょう。スタッフが荷を迎賓館の方に送り届けますので! 皆様はそのまま直行でお願いします!」
ゴーダが堰を切ったように伝える。
宰相一行は、重い腰をあげつつゾロゾロと退室してゆく。
会場であるウルス殿は、ここから魔導四輪で四十分。
到着後、一向の身だしなみを整える時間を計算にいれれても充分、間に合う。
ただ、その後の予定は遅れを解消するせいで、分刻みに管理しないといけない。
ここまでくれば、もはやガイドではなく秘書扱いだ。
「大丈夫ですよ。時間の遅れはこちらでフォローしますので任せてください」
表情が強張るマローナのまえに、運転手のジェイクが立っていた。
「よろしく、お願いします!」
頼もしい言葉に、彼女は頭を下げる。
少し、肩の荷がおりたのか? 車に向かう足取りはしっかりとしていた――――
ウルス殿に着いた。
ジェイクがショートカットコースを選び、ここまで車を走らせてくれた。
おかげで、時間はなんとかなりそうだ。
ウルス殿は通常の神殿とは造りが異なる。
遥か太古の時代から、この地を見守り続けてきた大神殿には、ロストテクノロジーと呼ばれるものが存在する。
いまだ、解明されていない古代の遺産。
うち一つが、正面ゲートに設置された昇降機だ。
仕組みは謎だが三角の昇降機、その頂点ぶぶんに床パネルが取りつけられている。
ここを足でふむ。
すると、リフターが傾斜をくだるように下降し出す。
門よりも低い位置にある本殿……古代人たちがどうして、こんな面倒な構造にしたのかは、誰にもわからない。
一つだけ確実に言えるのは、文明は一度滅亡している。
圧倒的な技術の差が、すべてを物語っていた。
御付きの黒服たちが、建屋を囲う。
入口に二人ずつ、裏口にも同数、物々しく警備にあたる。
「はい。三時間後、ウルス殿にて執り行われます……注意点として、神殿内での飲食は禁止されています」
「分かっておる。だから、こうして解消しているのだろう。のう! ファルゴよ」
店内にはガルベナール一行とその関係者以外はいない。
全員、締めだされたのだ……テーブル席でガツガツと大飯を喰らう、若者に。
大衆向けの店は、一国の宰相が食事をすませるには不相応だった。
警戒心が強いガルベナールは、酒を煽るだけで食事が盛られた皿には一切、手をつけていない。
この店が出す料理の味は、絶品だ。
しかし、宰相からすれば料理の出来栄えなど、まったくもって重要ではない。
安心、安全に食事をすませれれば事足りる。
それでも、この様な場所に立ち寄ったのは、ひとえに孫のためだ。
彼が空腹を訴えなければ、予定は狂うことはなかった。
孫への甘さのせいで、スケジュール調整を余儀なくされた。
ツアーガイドの彼女は、手帳を確認しながら、対応の追われて羽目になった。
本来ならば、宰相側の秘書官がやるべきことのだろうが、あてにはならない。
「ナズィール地区の事は、我々より詳しいそちらにお任せします」と丸投げ状態で彼女は化粧なおしに集中している。
学長の方をチラ見すると申し訳なさそうに薄ら笑いしていた。
同様、周囲の補佐官も旅行気分でまったりとしている。
助け船は出そうにない……マローナはそう察したかのように日程を修正していく。
「できれば、これ以上の厄介事は起こさないで欲しい」その呟きを打ち消すがごとく、用心棒である少年が喚く。
「おい! シザークラブのチャハーン三人前追加だ。早くしろ、三分以内に用意しろ。でないと、店ごと叩き潰す」
ファルゴの要求は無茶苦茶だった。
いくら、卵とソバを炒めたお手軽、料理とはいえ三分で作れるわけがない。
彼の注意を引こうとゴーダが世間話を始める。
まったくもって聞いちゃいない……子供のようにフォークをにぎりテーブルに柄を叩きつけている。
「――な? 君もそう思うだろう、マローナ君!」
いきなり話を振られても困るとマローナは困惑した。
さすがに、彼女の名がでてくるとファルゴも耳をかたむける。
助けて欲しいのは彼女も同じだった。
左右を見回す反応に、学長の会話を聞き逃してしまったのは一目瞭然だ。
「知りませんよ……そんな事」
突っぱねる物言いに「ギャハハハハッ!!」と膝をたたきながら爆笑するファルゴがいた。
下卑た笑いに、ナズィール側のスタッフたちは顔色を真っ青にしてゆく。
「いいねぇ~!! お爺ちゃんもそう思うだろ?」
「反対派の重鎮を、そんな事で片づけてしまうとは、なかなか苛烈な発言だのう。コロシアム建設か……モーリッチのヤツに話したら飛びつくぞい。よかろう、聖王国でも出資を取り計らってもらえるよう、聖王様に進言してやるぞ」
「はっ! ウダウダ言うヤツは、ぶちのめせばいいだけだ!! 力あるヤツが、それを誇示しなくてどーすんだ?」
話が不味いほうへ流れている。
自身のうかつな発言にマローナは、萎縮する。
ファルゴからそそがれる熱烈な視線が痛いらしい。
「そろそろ、会場に向かいましょう。スタッフが荷を迎賓館の方に送り届けますので! 皆様はそのまま直行でお願いします!」
ゴーダが堰を切ったように伝える。
宰相一行は、重い腰をあげつつゾロゾロと退室してゆく。
会場であるウルス殿は、ここから魔導四輪で四十分。
到着後、一向の身だしなみを整える時間を計算にいれれても充分、間に合う。
ただ、その後の予定は遅れを解消するせいで、分刻みに管理しないといけない。
ここまでくれば、もはやガイドではなく秘書扱いだ。
「大丈夫ですよ。時間の遅れはこちらでフォローしますので任せてください」
表情が強張るマローナのまえに、運転手のジェイクが立っていた。
「よろしく、お願いします!」
頼もしい言葉に、彼女は頭を下げる。
少し、肩の荷がおりたのか? 車に向かう足取りはしっかりとしていた――――
ウルス殿に着いた。
ジェイクがショートカットコースを選び、ここまで車を走らせてくれた。
おかげで、時間はなんとかなりそうだ。
ウルス殿は通常の神殿とは造りが異なる。
遥か太古の時代から、この地を見守り続けてきた大神殿には、ロストテクノロジーと呼ばれるものが存在する。
いまだ、解明されていない古代の遺産。
うち一つが、正面ゲートに設置された昇降機だ。
仕組みは謎だが三角の昇降機、その頂点ぶぶんに床パネルが取りつけられている。
ここを足でふむ。
すると、リフターが傾斜をくだるように下降し出す。
門よりも低い位置にある本殿……古代人たちがどうして、こんな面倒な構造にしたのかは、誰にもわからない。
一つだけ確実に言えるのは、文明は一度滅亡している。
圧倒的な技術の差が、すべてを物語っていた。
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