異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百一話

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早朝の学校、ギデオンは中庭のベンチに腰を据えくつろいでいた。
手には、購買部で買った一部。
本日づけの新聞には昨日の爆破事件が記事として一面をかざっていた。

新聞を広げ目を通す。
そこに書かれている内容に、指先が震えた。
想像していたものとは明らかに異なる。
記事には、爆破事件の事しか掲載されていない。
もう一つのスクープ、女学生殺害事件については、新聞記事をくまなく探しても見当たらない。

誰かが根回しし事件を闇に葬ろうとしている。
嫌が応でも、そう疑ってしまう。
ここで犯人捜ししていても、意味がない。
新聞をたたみながら周囲を見渡す。

近くいた男子生徒が、手を振っていた。

「よう! 相変わらず冷めた目をしてんなぁー」

「そうか。で、何の用だ? オッド」

そばに寄ってきたのは、同じロークラスの生徒だった。
前回の模擬戦で、少しだけつながりができた天真爛漫な彼は、出会い頭からハイテンションだ。

「何って、ウネは元気しているのかなと思ってな! そうそう、結構良い土を見つけたんだ!」

「気持ちは有り難いが、もう土は必要ないぞ。人と同じく経口摂取で栄養を取れるようになったからな、じき二足歩行もできるようになるだろう」

「マジか!! 見てみてえ――! なぁ、今度また連れてきてくれよ」

「お前も、相当だな……機会があれば今度な」

「何、言ってんだ!? カナッペなんか、お前の犬に触りたい、感触を確かめたい、次はいつ会えるんだ? って大騒ぎしていたぞ」

「それなら、直に言ってくれればいいものを」

「それが出来ないのが、カナッペさんよ。秀才のくせに不器用なんだから~」

いつの間にか、隣に座っているオッドが自身の肩を抱きよせ、チャラける。
ギデオンは素で聞き流した。

「聞く限り面倒だな……そういえば、リッシュはどうだ? 怪我の具合はよくなったのか?」

「変わりないが、あんな事が起きた直後だ。当分、外出もままならないだろうよ」

「ケツァルコアトルの事について何か聞けたか?」

オッドを首を横に振ってみせた。
ハッキリと示した否定は、これ以上の言及は認めない。


「聞くだけヤボといった具合か。ヤボといえば……またか」

「どうした? ああ……」

「教えてくれ、オッド。彼女は何をしているんだ?」

「何って……本人に聞けばいいんじゃねぇ?」

「そうしたいが、此方が近づくと逃げてしまうんだが……」

柱の陰から、こちらの様子をうかがうクォリスの姿が見える。
本人は上手く隠れているつもりなのか知らないが、挙動不審すぎてかえって目立つ。

「このままだと困るからオッド、彼女に聞いてきてくれ」

「すぐに俺を使おうとすんなよ……」

結局、ギデオン自身でどうにか解決するしかなかった。
オッドに「先に教室に戻る」むねを伝えると、その場を離れることにした。

歩く度に伝わってくる別の足音。
別クラスだというのに、彼女はついて来ている。

「ここいらか」そう呟くとギデオンは他の生徒に混じるように廊下を進んだ。
刹那――視界から忽然と消えた。

そのことに慌てた、クォリスが右往左往する。

「いない……どこ?」

「何か用か? クォリス」

不意に声をかけられた背筋がビクンと伸びた。
気配を完全に絶ち、真後ろに立つ同級生に足がもつれてしまった。

「よっと! 慌てると危ないぞ」転倒しかけるクォリスの腕をパシッと掴む。

「あ、ありがと」伏し目がちな彼女の表情が微かに明るくなった。

「用が無いのなら僕はもう行くぞ」

「あの……ギデ君。もうすぐ、英誕祭なんだけど…………学校のイベントで、しゃ、社交ダンスがあるの」

「もしかして、相手を探していたのか?」

「その……良かったらだけど」

指先をモジモジさせるクォリス。
勇気を振り絞った淡い想いはギデオンにもしっかりと伝わってきた。
が、ガルベナールの一件がある手前、承諾することはほぼ不可能だった。

「済まない。用事があって参加はできない」

「そう……そうだよね。そっか……ギデ君、無理言ってゴメン――それじゃあ」

力なく何度も頷く少女にどう答えてあげればいいのか? 彼には分からない。
去り行く小さな背が今にも消え入りそうで、いたたまれない。
だとしても、一度くすぶり出した、この火は潰えることはない。
そう、すべてが終わるまでは止まれないのだ。



見晴台からナズィールの街並みを一望するがあった。
両手で抱えるほどの大きな箱には水色のリボンがかけてある。
大事そうに箱を抱きながら瞳の主は言った。

「ようやくだ。ようやく、待ちに待ったこの日が来た! さあ! 解き放とう祝福の刻を!!」

天に向けかざせれる手、同時に金色の綿毛が手に溜まる。
タンポポに似たソレは風に吹かれて街中に飛び立ってゆく。
誰にも気づかれることのない景色は、瞳の主だけが視認できる粛清しゅくせいの始まりだった。
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