異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
99 / 362

九十九話

しおりを挟む
二頭の白馬が足並みを揃えて止まる。
周辺の景色に似つかわしくない優雅な乗り物。
その異質さに全員が釘づけになる。

馬も白ければ、箱馬車も白塗り。
金縁の車輪に、彩色豊かな宝石が散りばめられた扉。
その場にいる荒くれ者を大人しくさせるのには、充分すぎるインパクトだ。

「おや? こんなところで出会うとは……どうやら、忠告は無駄に終わってしまったようだね」

どこぞの姫様でも降りてくるのかと思いきや、馬車から出てきたのは初老の男性。
モデルも顔負けするぐらい、パリッとしたスーツをエレガントに着こなしている。

まだ記憶に新しい、分厚い唇にギデオンたちは顔を見合わせ驚く。

「ミチルシィ先生!?」

「先生がどうしてここに?」

新入生の問いに、教諭は片肘の下に手をあてがう。
親指の腹で下唇をなぞりながら、経過すること数十秒。

「今から校舎に向かいます。二人とも乗りなさい」意外な返答がかえってきた。

「待ってくれ! 先生。そこの、テントの中に女生徒の遺体が……!!」

「まぁ、落ち着きなさい。今の爆発騒ぎで、共和国軍が駆けつけてくるのは、時間の問題です。ひと先ず、調査は手慣れている彼らに任せて、我々は此処から離れるゾ」

肩を優しく押し出すミチルシィに従わざるを得なかった。
ギデオン自身は共和国軍に良い感情は抱いていない。
必ず、どこかで不正や手抜きをする疑念が尽きないからだ。

それでも……ミチルシィの言っている事は正しい。
共和国の人間が共和国内で殺害された。
ここに、部外者が割って入っても混乱を招くだけ。
結局、共和国の人間が自身の手で事件解決しなければ、何もかもが有耶無耶になってしまう。

*

馬車が勇士学校に着いた。
到着早々、ミチルシィ教諭について来るように言われた。
どうやら長らく不在だった学長が、カイネンの事を聞きつけて急遽、帰国したらしい。

唐突な呼び出しに、普段なら嫌悪感を示す。
けれど、犠牲者を出してしまったからには、気長に構えている暇はない。

ギデオンにとって、学長との面会は願ってもみないチャンスだった。
ここで学校から助力がえられれば、敵の正体を突き止めることも大いに期待できる。

コンコン! コンコンコン!

ノックマナーなど無視され扉が叩かれる。
一階廊下の突き当り、ここが学長室のようだが……扱いが酷い。
扉を打ちつける教師は、もはや鬱憤うっぷんを晴らすかのようにリズムを刻んでいる。

それほどにまで、の返事はノロかった。

「どうぞ……」

部屋の中から気怠そうな声がした。
よいよ、学長との対面。
指先をピーンと伸ばすシルクエッタは相当、緊張しているみたいだ。
表情が強張ったままになっている。

さして、かしこまる事のないギデオンは、ただただ学長がどのような人物か? 気になって仕方なかった。

「やあ! ミチルシィ。留守中、ご苦労様! いやー、参っ「そんな事より、学長。紹介します、聖王国からお越しいただいた治癒師団代表のシルクエッタさんと留学生のギデ君です」

「シルクエッタ・クリーンと申します。この度は、治癒講師としてお招きいただき恐悦至極です。友好の使者として共和国の一助いちじょになれるよう努めて参ります。宜しくおねがいします」

「聖王国、修道会より参りました、ギデです。御校から薫陶くんとうたまわる、またとない機会を活かし趣、伝統、文化、風習をしっかりと学ぶ所存でございます。ご指導ご鞭撻のほど、お願いいたします」

「学長!?」

聖王国からの使者である二人の所作に、学長と呼ばれる彼の涙腺るいせんは崩壊していた。
ミチルシィが慌ててなだめると、ちり紙で鼻をかむ学長が震えながら答えた。

「申し訳ない。君たちのような若者に丁重に扱って貰ったことなど今まで一度もなかったから、つい感極まって……ね。俺の名は、ゴーダ。この学校の頂点、学長として熱々を届けに来たぜぇぇ~い」

「先生、大丈夫なんですか……? あの学長」

「頭か? 七割ぐらいは逝っているゾ!」

ルヴィウス勇士学校、学長のゴーダは灰汁あくの塊のような人物だった。
距離感がまったく掴めず、どう接してゆけばいいのか? コツすら必要とする次元だ。
言わば、乱気流にのまれた戦闘機。
隣にいる学年主任以外は、操縦桿そうじゅうかんの握りかたさえ分からない。

……にもかかわらず、ミチルシィが学長に二人を引き合わせた経緯には裏がある。

「学長、聖王国のガルベナール宰相がナズィールの視察もかねて、キンバリー教授の告別式に参列なさるそうです」

「聞いている。どういう言う風の吹き回しか、一国の宰相様がお出でなさるとは……どうする? ミチルシィ先生? 何の準備もできて居ねぇから、歓迎しようもないぞ」

「それなのですが……このナズィールに戦乱の相が出ております。おそらく、ガルベナール宰相が此処に訪れることがトリガーだと思われますゾ」

「何だって!? それで、そこの二人が鍵になると……」

「はい、 ガルベナール宰相がどのような厄災を引き連れてくるのか、存じませんが……聖王国との同盟は、共和国が存続する為の必要事項なのは変わりません。よって我々に戦火を沈めること出来ません、ですが――――」

大人たちの視線がギデオンとシルクエッタに向けられる。
希望があるのを信じて止まない、ひたむきな眼差し。
学校側の事情はともかく、ガルベナールとの戦いは共和国全土に拡大するかもしれない。
言葉として形を成した途端、その未来は一気に現実味を帯びた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。 溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。 アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。 公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。 公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。 幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。 普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……? 果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。 これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...