異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
93 / 362

九十三話

しおりを挟む
背中からほとばしる雷撃。
枝別れした雷は行き場を無くし城の外にまで突き抜けている。
小さな破損、刃の切っ先が当たってできた亀裂クラックは神からすれば大した事ではなかった。

むしろ、厄介なのは刃先に添えられていた憤怒のほうであろう。
負傷した場所が悪い。
明確な敵意と的確な一撃により、ケツァルコアトルの最も柔い部分が露出していた。
人体における急所ともいっても過言ではない。
暴走する魔力の渦に耐えられず、背中のうろこがはがれ落ちてゆく。

雅なガラス細工ように、ヒラヒラと地上へと振り落ちる肉薄にくうすの希少素材。
切迫した戦闘状況に不相応なほど、儚く幻想的な空間を生み出す。

氷塊をかみ砕きながら大蛇は眼下を睨んでいた。
背後から奇襲をしかけてきた少年を。
矮小わいしょう、貧弱でしかない人間がこうも堂々と歯向かってくる。
釈然しゃくぜんとしない事実の信憑性を確かめるがごとく彼に顔を近づけてくる。

「よくも、敵を押し付けてくれたな鳥野郎!!」

ギデオンはいつになく、冷ややかな眼をしていた。
極度の興奮状態に入り込むとこうなる。
つまり……仲間の窮地きゅうちに激高している。
少し前までの彼なら、当然のように受け流していたのかもしれない。

彼は気づいていた、自身の中に何か新たな息吹が芽生え始めようとしている事に。
これまで、幾度となく手を貸してくれた友や仲間がいたからこそ、ここまで辿りつけた。
どんなに肩肘を張っても、どれほど突き離そうとしても、ついて来てくる物好きがいる。

「最高の物好き、それが仲間って奴だ!」ここより先の未来、ギデはそう豪語する。

今はまだ何となくでしか、感じ取れていない。
それでも着実に前進している。
怒りや憎悪を糧に復讐することだけ考えればいい。
確かに、そう思った時期があったことは否めない。

ただ、それだけではギデオンとして当初から、なそうとしていた聖王国内の浄化はできない。
外の世界を見て、触れ、実感した今だからこそわかる。
国は単独では成り立たない。
様々な関わり、外因、要因、繋がりが複雑に絡んでいる。
それは人に置き換えても一緒だった。

「ギデ!」
「ギデ殿!」
「ギデ……さん」

間一髪のところで間に合うと、仲間たちが表情を明るくしながら彼を呼んでいた。

「不思議な連中だ。出会ったばかりだというのに、彼らの声を聞くとつい、期待に応えたくなってしまう……甘えなのは重々、分かっている。それでも、コイツに対抗するには皆の想いが必要だ!! それが、この身を突き動かしてくれる」

魔力欠乏症――魔力を回復させない限り、絶えない苦痛が全身をむしばむ。
ギデオンも例外ではない。
古城での戦いが開始された時点から、身がきしむ痛みをこらえて戦っていた。
状態回復させる為には、マジックポーションが必要かつ、休息を取らなければならない―――――


胸元に忍ばせていたポーション瓶を取り出す。
栓を開けるとケツァルコアトルに見せびらかすように、ゴクリと喉を鳴らしてみせる。

「ぷはっ! 欲しいか? なら力づくで取ってみろよ」

その挑発はウワバミの神にとっては毒だった。
いくら自己再生能力があろうとも、修復にはそれなりの時間を要する。
未だ、体外へと流出する魔力は抑えられない。
これでは、先に魔力が枯渇こかつしてしまう。

目の前に出されたポーションは、神にとって渡りに船だった。
回復さえ、済ませれば相手は虫の息だ。
後でじっくりと始末できる。

などと安易に考えてしまったのだろう。
飛びつくように大口を開けギデオンに迫ってきた。

見計らったように瓶が投げ込まれる。

「じっくりと味わってくれよ。溜めるのに何日もかかったからな」ギデオンが薄目を開けて微笑んでいた。

一本まるごととは言え巨大な蛇の身体、一瞬で飲み込んでしまった。
途端、ケツァルコアトルの長い胴体が跳ね上がった。

「ぎっ、ナニを飲ませた……」

「お前達の大好物さ。神でも酒で酔うんだろっ!? それともウワバミである、お前には物足りなかったか?」

「ぎゃああああっ!! オマエ、知ってたなぁ――!! キュピちゃんの弱点……酒キライ、キライ、キライ、キライ、キライじゃあぁああ―――――ぐええええええっ!!」

もがき苦しみながら、神の化身が縮んでゆく。
蛇の姿から、元のオウムへと戻る。

「当たり前だろ? 僕はミルティナスの信徒だったんぞ。他の神々についても、一通りは学んでいる。特に、お前は目立ちたがり屋だ、文献にも事細かに記されている。にしても……ここまで弱体化するとは、蜜酒には驚かされてばかりだな」

「ぐっわあ……まだ、まぁーだだよ! 捕まるワケには…………キュピちゃぁああんフラッシュ―!!」

捕獲しようとした瞬間、オウムとなった神が全身から光を放つ。
悪あがきでしかないが、なりふり構わず逃亡をはかる。
白みがかった視界から、わずかに翼を羽ばたかせ懸命に飛んでゆく姿が見える。

「あんの、オウム!! 逃がすかよ。捕まえろ、ウネ!」

「よせ、追うな! オッド、奴は泳がせておく。それよりも……ウネって? お前、いつの間にアルラウネに名前をつけたんだ……?」

「いっ、良いだろ……呼び名が無いと不便だしぃ……」

唇をとがらせ、オッドが頬を赤らめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。 溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。 アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。 公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。 公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。 幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。 普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……? 果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。 これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...