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九十二話
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暴走する大蛇の動きが一瞬、鈍くなった。
複数の魔法による行動阻害、少女たちの活躍をギデオンも遠目で追っていた。
今すぐにでも、加勢したいと気は急く。
焦りばかりつのるが、まずは眼前の問題を解決しないといけない。
彼はホワイトナイトのテリトリーに囚われていた。
領域とは、床に散らばった鏡の破片だ。
無数に砕け、辺り一面を埋め尽くす様は、まるでジグソーパズルでもやっている気がする。
もっともパズルは木製、ここまで悪趣味に輝くようなものじゃない。
目に余るという意味であれば、ホワイトナイトとケツァルコアトルの行動原理もそうだ。
白騎士の存在を警告しておきながらも、自身は手を出さないケツァルコアトル。
ホワイトナイトの方は神の化身に完全に目もくれず、いまだにギデオンだけを狙い続けている。
仲間? そう思うには根拠も足らず、連携が取れているようにも思えない。
利害の一致、そこを互いに上手く活用しているようにも感じる。
背後から処刑人の剣が横一線を描き飛んできた。
その場で屈み、回避から蹴りに転じる。
何もない空白を蹴りだすだけ……まただ、敵を間近で取り逃がすのをもう何度も繰り返している。
鏡の中を自由に移動できる特性。
それを活かした多角攻撃は非常に厄介だった。
相手がいつ、どこから仕掛けてくるか分からない以上は、動作が後手に回る。
超嗅覚で対処はできているが、出現する都度、細々と斬りつけてくるのは面倒だとしか言いようがない。
時間と集中力の無駄遣い。
ここまで、攻撃パターンを見極めようと探っていた。
けど、もう充分だ……攻撃に規則性はない、完全なランダム。
ならば、お遊びでしかない。
端から勝負をつけるわけでもなく……一方的に相手じわじわと弄る事を愉しんでいるようだ。
だとしたら……陰湿なモノに付き合う道理はない!
ギデオンはハァーと息を吐き出すと、法衣のポケットをまさぐった。
手にあたる感触を確かめて、白騎士にこう宣言した。
「ホワイトナイト貴様の弱点は判明した! 僕は、一秒でも早くパーティーメンバーのもとに行かなければならない。これはその為の一歩だ……先へと進む跳躍だ! 僕の覚悟を受け止めるつもりならば、貴様も逃げ腰ではなく一歩前に踏み込んで来い!! でなければ、僕の足は止められないぞ!!」
硝子を踏みつけ、一斉に駆け出す。
彼の眼に見えているのは、もはや白騎士ではない。
バチバチと帯電する翼を虹色に染め上げ、熱を放とうとするウワバミの背だ。
前を横切るように、百合の絵柄と我、汝を求めたりという文字が刻印された刀身が伸びてきた。
ギデオンは決して視線を離さなかった。
意識は常に、仲間のほうへと向けられていた。
「言ったはずだ! 前に踏み込んで来いとな!!」
白騎士の顔に、方位磁針が突きつけられた。
これは模擬戦が始まる前に支給されたモノの一つだ。
移動がてら度々、使用していた為、法衣にポケットにしまい込んでいた。
方位磁針に特別な力が秘めらているわけではない。
むしろ、代用できるモノなら何でも良かった。
手持ちではこれだけだった。
針を覆う、ガラスの器のみがホワイトナイト自身、自分の姿を認識できるアイテムだった。
「僕はカン違いをしていた。白騎士は自己を投影するモノを利用し移動するものだと。だからこそ、まず初めに引っかかりを覚えた。どうして、僕の目を移動して来ないのか? その答えは、お前の行動から顕著に出ていた。鏡を壊したのも、鏡の中を移動していたのも攻撃目的ではない。自分を見ると隠れようとする回避行動の一環にすぎない。何がお前の心を蝕んでいるのか、僕には想像つかない。ただ、自身の姿は見たくないのに、誰かには見て欲しい……お前を見ていると誰しもが抱く欲求がヒシヒシと伝わってくる」
コンパスの器に溶け込むように吸い込まれてゆくホワイトナイトの身体。
彼が事実を暴いたところで、その習性からは抗えない。
「気持ちは分からなくもない。誰だってそうなる時はある……それでも、自分から逃げ続ける事なんてできはしないんだ。逃げれば逃げるほど、目を背ければ背けるほどに辛さは増す……そう、僕のようにだ。僕が、視認するのを止めた以上、お前は存在できない。言えた義理じゃないが、結局最後まで自分を見続けるのは自分だ。直視するのが正しいとは言わない、けれど無い事にはできない」
ギデオンはコンパスを再度ポケットにしまい、剣を鞘から引き抜いた。
「わずかでもいい、その手を自分に差し出すんだ! そうすれば、きっと掴んでくれる人がいる!! その手を引っ込めてしまえば、誰一人として触れたくても触れられないのは間違いないのだから」
全身の筋繊維をバネのようにしならせ放たれる模造刀。
加速した刃は投擲と呼ぶには、相応しくないほどの凄まじい速度と破壊力を持っていた。
まさに銃撃。
ケツァルコアトルの背を貫き、剣は粉みじんと化した。
「がぎゃあやひゃややっ――――!!!」
絶叫とともに、のたくる蛇の胴体。
剣で撃たれた衝撃により魔力の制御バランスが乱れ始め、瞬く間に臨界点を越えた。
雷光が古城全体を満たした。
複数の魔法による行動阻害、少女たちの活躍をギデオンも遠目で追っていた。
今すぐにでも、加勢したいと気は急く。
焦りばかりつのるが、まずは眼前の問題を解決しないといけない。
彼はホワイトナイトのテリトリーに囚われていた。
領域とは、床に散らばった鏡の破片だ。
無数に砕け、辺り一面を埋め尽くす様は、まるでジグソーパズルでもやっている気がする。
もっともパズルは木製、ここまで悪趣味に輝くようなものじゃない。
目に余るという意味であれば、ホワイトナイトとケツァルコアトルの行動原理もそうだ。
白騎士の存在を警告しておきながらも、自身は手を出さないケツァルコアトル。
ホワイトナイトの方は神の化身に完全に目もくれず、いまだにギデオンだけを狙い続けている。
仲間? そう思うには根拠も足らず、連携が取れているようにも思えない。
利害の一致、そこを互いに上手く活用しているようにも感じる。
背後から処刑人の剣が横一線を描き飛んできた。
その場で屈み、回避から蹴りに転じる。
何もない空白を蹴りだすだけ……まただ、敵を間近で取り逃がすのをもう何度も繰り返している。
鏡の中を自由に移動できる特性。
それを活かした多角攻撃は非常に厄介だった。
相手がいつ、どこから仕掛けてくるか分からない以上は、動作が後手に回る。
超嗅覚で対処はできているが、出現する都度、細々と斬りつけてくるのは面倒だとしか言いようがない。
時間と集中力の無駄遣い。
ここまで、攻撃パターンを見極めようと探っていた。
けど、もう充分だ……攻撃に規則性はない、完全なランダム。
ならば、お遊びでしかない。
端から勝負をつけるわけでもなく……一方的に相手じわじわと弄る事を愉しんでいるようだ。
だとしたら……陰湿なモノに付き合う道理はない!
ギデオンはハァーと息を吐き出すと、法衣のポケットをまさぐった。
手にあたる感触を確かめて、白騎士にこう宣言した。
「ホワイトナイト貴様の弱点は判明した! 僕は、一秒でも早くパーティーメンバーのもとに行かなければならない。これはその為の一歩だ……先へと進む跳躍だ! 僕の覚悟を受け止めるつもりならば、貴様も逃げ腰ではなく一歩前に踏み込んで来い!! でなければ、僕の足は止められないぞ!!」
硝子を踏みつけ、一斉に駆け出す。
彼の眼に見えているのは、もはや白騎士ではない。
バチバチと帯電する翼を虹色に染め上げ、熱を放とうとするウワバミの背だ。
前を横切るように、百合の絵柄と我、汝を求めたりという文字が刻印された刀身が伸びてきた。
ギデオンは決して視線を離さなかった。
意識は常に、仲間のほうへと向けられていた。
「言ったはずだ! 前に踏み込んで来いとな!!」
白騎士の顔に、方位磁針が突きつけられた。
これは模擬戦が始まる前に支給されたモノの一つだ。
移動がてら度々、使用していた為、法衣にポケットにしまい込んでいた。
方位磁針に特別な力が秘めらているわけではない。
むしろ、代用できるモノなら何でも良かった。
手持ちではこれだけだった。
針を覆う、ガラスの器のみがホワイトナイト自身、自分の姿を認識できるアイテムだった。
「僕はカン違いをしていた。白騎士は自己を投影するモノを利用し移動するものだと。だからこそ、まず初めに引っかかりを覚えた。どうして、僕の目を移動して来ないのか? その答えは、お前の行動から顕著に出ていた。鏡を壊したのも、鏡の中を移動していたのも攻撃目的ではない。自分を見ると隠れようとする回避行動の一環にすぎない。何がお前の心を蝕んでいるのか、僕には想像つかない。ただ、自身の姿は見たくないのに、誰かには見て欲しい……お前を見ていると誰しもが抱く欲求がヒシヒシと伝わってくる」
コンパスの器に溶け込むように吸い込まれてゆくホワイトナイトの身体。
彼が事実を暴いたところで、その習性からは抗えない。
「気持ちは分からなくもない。誰だってそうなる時はある……それでも、自分から逃げ続ける事なんてできはしないんだ。逃げれば逃げるほど、目を背ければ背けるほどに辛さは増す……そう、僕のようにだ。僕が、視認するのを止めた以上、お前は存在できない。言えた義理じゃないが、結局最後まで自分を見続けるのは自分だ。直視するのが正しいとは言わない、けれど無い事にはできない」
ギデオンはコンパスを再度ポケットにしまい、剣を鞘から引き抜いた。
「わずかでもいい、その手を自分に差し出すんだ! そうすれば、きっと掴んでくれる人がいる!! その手を引っ込めてしまえば、誰一人として触れたくても触れられないのは間違いないのだから」
全身の筋繊維をバネのようにしならせ放たれる模造刀。
加速した刃は投擲と呼ぶには、相応しくないほどの凄まじい速度と破壊力を持っていた。
まさに銃撃。
ケツァルコアトルの背を貫き、剣は粉みじんと化した。
「がぎゃあやひゃややっ――――!!!」
絶叫とともに、のたくる蛇の胴体。
剣で撃たれた衝撃により魔力の制御バランスが乱れ始め、瞬く間に臨界点を越えた。
雷光が古城全体を満たした。
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