91 / 364
九十一話
しおりを挟む
神話の中でのみ語られる架空の存在。
天を駆ける神は、此処に顕現した。
生きる伝説を目にし誰もが静観する、したまま圧倒される。
荘厳と気品を兼ね備えた容姿、人知を超越した神の化身はあまりにも煌びやかで美しい。
存在自体が奇跡と称えられるのも納得だ。
可視化される神気が後光となり、ケツァルコアトルが他生物と一線を画すことを強調していた。
蜷局を巻いた身体を素早く、回転させ神たる力をいかんなく発揮する。
言葉すら出せない一瞬だった。
ギデオンを横を通り抜けたかぎ爪が、リッシュを捉えた。
獲物をつかむと吹き抜けの天井を上昇し、今度は折り返すように急降下する。
「ぐあああっ……クソっ! 放せぇ!」
「精算の時間ダ……スカイドライバー!!」
事態の変化に、思考が追いつかない。
一体、どうして、何が、あってリッシュが狙われたのだ?
シオン賢者を警戒するのなら、ホワイトナイトと対峙するべきなのではないか!?
様々な憶測が、頭の中飛び交っている。
ホワイトナイトとケツァルコアトルよって板挟みにされたギデオンは、どちらを優先するべきか迷ってしまった。
わずかな足踏みが取り返せない遅延をうんだ。
かぎ爪が真下に向かって押し出される。
依然、リッシュは窮地から抜け出せていない。
このままでは、彼の身体は床との摩擦で、摺り潰されてしまう。
手を伸ばさずにはいられなかった……。
例えの行為自体に意味を見いだせなくとも、人の倫理が身体を突き動かしてくる。
せめて、銃がつかえれば状況を逆転できるはず……だが――――――
現実は何時だって、無情だ! もはや、クラスメイトを救う手立てがない。
「う、うにゅにゅうぬぬぬ~ん!!」
「ぎゃっひ!?」
二本の線が宙を飛び立ち伸長する。
何の前触れもなく、現れた緑の線。
ケツァルコアトルの足首に巻き付き、即座に収縮してゆく。
引っ張る力に、神の足下が揺らいだ。
リッシュを締め付けていた爪先が紐状の何かによって打ちつけられた。
直後、降り立った箇所にドスン!! と衝撃が走る。
黒曜石の床が砕け、みるみるうちに陥没していく。
パラパラと粉塵が舞う……。
合間から躍り出る人影は、身体に巻き付いた蔦に手繰り寄せられているリッシュだった。
肉の感触がない事に気づかないケツァルコアトルではない。
逃すまじと追走姿勢を取り、すぐさま彼らの方へと舵を切る。
「ヤベェ――! こっちに来てやがる。早く! もっと速く、リッシュを引き寄せてくれ」
「にゅうにゅ―――!」
縮みゆく蔦の先には、オッドに抱えられたアルラウネの姿があった。
産れたての小さな身体。
まだ、葉でできたおくるみに包まれた身でありながらも、赤子は人を救おうと奮闘していた。
「うしっ! 引き上げたぞ!! オッサン頼むわ」
「承知!」ブロッサムはリッシュを担ぐと一目散に退却した。
「皆、下がって!! 万物に宿る、魔の息吹よ……盟約の名のもと束ね、連ね、盤石なる礎を築け。プロテクション・エフェクトォ――!!」
カナッペにより、速やかに魔法障壁が幾重にも張り巡らされる。
「やるわね! 一遍に防御壁を造りだすなんて至難のワザよ」
感心するバージェニルだが、悠長に構えている暇はない。
神たる大蛇が、防御壁を砕くため頭から突入してきた。
ドガッガガガ―――!!!
障壁全体が大きく震動する。
先頭の障壁が容易く崩された。
歯を食いしばりカナッペがさらに魔力を込めるが、長時間維持する事は目に見えて不可能だ。
彼女は目だけ動かし、クォリスたちに伝えた。
「このままだと、数分しか持たない……皆、今のうちに逃げて!」
「カナッペは……どうするの?」
「隙を見て、逃げるわ」
「ウソ……に、逃げるなんてできっこないよ。私も、一緒にぃ……魔法であの、かか怪獣をとめる、から!」
「そうね! 貴女一人、恰好つけさせるなんて、義賊怪盗の名折れよ! クォリスさん、こうなれば私たちの女子力によるスペシャルでパーフェクトな魔法を、あの怪獣に見せつけてやるわよ!!」
「か、怪獣って……」カナッペが若干呆れていた。
ここまで来ると神の化身も形無しだ。
バージェニルとクォリスとって巨大な生物は全て怪獣枠に収められていた。
勝算があるから挑むのではない。
二人にはとっては、いかにイケてるかが、肝だ。
ここで、ケツァルコアトルを撃退できれば、最高に輝ける!
他者にとって、信じられない話ではある。
常識を疑われても、仕方がない。
それでも、彼女たちにとっては尊いのは今、この一時なのだ……。
「来るわ! 二人とも迎撃準備――――」
「式陣、氷結の塊!!!」
「その剣は闇夜に浮かぶ、無音で忍び寄り急所を射抜く……一にして全となる餓狼、その牙の名はシェイドバイト!」
魔法障壁がすべて破砕された。
大顎を開いた蛇神が、その巨体をくねらせ床を滑走してくる。
その凶悪な口を岩石ような氷の塊で塞ぐ。
四方八方から闇属性のダガーナイフが暴雨ように降り注ぎケツァルコアトルを取り囲んだ。
天を駆ける神は、此処に顕現した。
生きる伝説を目にし誰もが静観する、したまま圧倒される。
荘厳と気品を兼ね備えた容姿、人知を超越した神の化身はあまりにも煌びやかで美しい。
存在自体が奇跡と称えられるのも納得だ。
可視化される神気が後光となり、ケツァルコアトルが他生物と一線を画すことを強調していた。
蜷局を巻いた身体を素早く、回転させ神たる力をいかんなく発揮する。
言葉すら出せない一瞬だった。
ギデオンを横を通り抜けたかぎ爪が、リッシュを捉えた。
獲物をつかむと吹き抜けの天井を上昇し、今度は折り返すように急降下する。
「ぐあああっ……クソっ! 放せぇ!」
「精算の時間ダ……スカイドライバー!!」
事態の変化に、思考が追いつかない。
一体、どうして、何が、あってリッシュが狙われたのだ?
シオン賢者を警戒するのなら、ホワイトナイトと対峙するべきなのではないか!?
様々な憶測が、頭の中飛び交っている。
ホワイトナイトとケツァルコアトルよって板挟みにされたギデオンは、どちらを優先するべきか迷ってしまった。
わずかな足踏みが取り返せない遅延をうんだ。
かぎ爪が真下に向かって押し出される。
依然、リッシュは窮地から抜け出せていない。
このままでは、彼の身体は床との摩擦で、摺り潰されてしまう。
手を伸ばさずにはいられなかった……。
例えの行為自体に意味を見いだせなくとも、人の倫理が身体を突き動かしてくる。
せめて、銃がつかえれば状況を逆転できるはず……だが――――――
現実は何時だって、無情だ! もはや、クラスメイトを救う手立てがない。
「う、うにゅにゅうぬぬぬ~ん!!」
「ぎゃっひ!?」
二本の線が宙を飛び立ち伸長する。
何の前触れもなく、現れた緑の線。
ケツァルコアトルの足首に巻き付き、即座に収縮してゆく。
引っ張る力に、神の足下が揺らいだ。
リッシュを締め付けていた爪先が紐状の何かによって打ちつけられた。
直後、降り立った箇所にドスン!! と衝撃が走る。
黒曜石の床が砕け、みるみるうちに陥没していく。
パラパラと粉塵が舞う……。
合間から躍り出る人影は、身体に巻き付いた蔦に手繰り寄せられているリッシュだった。
肉の感触がない事に気づかないケツァルコアトルではない。
逃すまじと追走姿勢を取り、すぐさま彼らの方へと舵を切る。
「ヤベェ――! こっちに来てやがる。早く! もっと速く、リッシュを引き寄せてくれ」
「にゅうにゅ―――!」
縮みゆく蔦の先には、オッドに抱えられたアルラウネの姿があった。
産れたての小さな身体。
まだ、葉でできたおくるみに包まれた身でありながらも、赤子は人を救おうと奮闘していた。
「うしっ! 引き上げたぞ!! オッサン頼むわ」
「承知!」ブロッサムはリッシュを担ぐと一目散に退却した。
「皆、下がって!! 万物に宿る、魔の息吹よ……盟約の名のもと束ね、連ね、盤石なる礎を築け。プロテクション・エフェクトォ――!!」
カナッペにより、速やかに魔法障壁が幾重にも張り巡らされる。
「やるわね! 一遍に防御壁を造りだすなんて至難のワザよ」
感心するバージェニルだが、悠長に構えている暇はない。
神たる大蛇が、防御壁を砕くため頭から突入してきた。
ドガッガガガ―――!!!
障壁全体が大きく震動する。
先頭の障壁が容易く崩された。
歯を食いしばりカナッペがさらに魔力を込めるが、長時間維持する事は目に見えて不可能だ。
彼女は目だけ動かし、クォリスたちに伝えた。
「このままだと、数分しか持たない……皆、今のうちに逃げて!」
「カナッペは……どうするの?」
「隙を見て、逃げるわ」
「ウソ……に、逃げるなんてできっこないよ。私も、一緒にぃ……魔法であの、かか怪獣をとめる、から!」
「そうね! 貴女一人、恰好つけさせるなんて、義賊怪盗の名折れよ! クォリスさん、こうなれば私たちの女子力によるスペシャルでパーフェクトな魔法を、あの怪獣に見せつけてやるわよ!!」
「か、怪獣って……」カナッペが若干呆れていた。
ここまで来ると神の化身も形無しだ。
バージェニルとクォリスとって巨大な生物は全て怪獣枠に収められていた。
勝算があるから挑むのではない。
二人にはとっては、いかにイケてるかが、肝だ。
ここで、ケツァルコアトルを撃退できれば、最高に輝ける!
他者にとって、信じられない話ではある。
常識を疑われても、仕方がない。
それでも、彼女たちにとっては尊いのは今、この一時なのだ……。
「来るわ! 二人とも迎撃準備――――」
「式陣、氷結の塊!!!」
「その剣は闇夜に浮かぶ、無音で忍び寄り急所を射抜く……一にして全となる餓狼、その牙の名はシェイドバイト!」
魔法障壁がすべて破砕された。
大顎を開いた蛇神が、その巨体をくねらせ床を滑走してくる。
その凶悪な口を岩石ような氷の塊で塞ぐ。
四方八方から闇属性のダガーナイフが暴雨ように降り注ぎケツァルコアトルを取り囲んだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる