異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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八十九話

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古城に進みゆく若き獅子たち。
その背を追いながら、ブロッサムが申し訳なさ気に挙手をする。

「城に向かうのは一向に構いませぬが、少々不安が……そのファルゴとやらが、中で待ち受けていたらギデ殿たちの対決はどうなるのですかな?」

「オッサン……もう少し空気を読もうぜ」

「空気? ですか? 我は何か余計な事を失言してしまったのですかな!?」

オツドから肩を軽く叩かれ、慌てふためく。
困った顔を見せる彼の傍にクォリスが足早あしばやに詰め寄る。

「大丈夫、ブロッサム君。そ、それを確認する為の入城だから……」

「ならば、そこいらの手下から訊き出せば良いのでは?」

「悪手ね……そう考えがちになるのは分かるけど、この学校にも一応は仕来しきたりが存在するのよ」

「カナッペ殿、仕来りとは如何に? 無知な我に説明してもらっても宜しいですかな?」

「いや、そんなかしこまらないで。答えるから! 君、西の大陸から来たんだっけ? なら、知らなくて当然だから」

深々と頭を下げるブロッサムは、いつになく真剣な面持ちだった。
素直に見識を深めたいという想いが感じ取れる。
ここまでされたら、適当にあしらうわけにはいかない。
カナッペは、自身の発言の意図を明らかにした。

「この学校も外界と同じで貴族同士の取り決め、ルールが適応されているのよ。訓練の有無関係なく、一度争いが生じれば、事の成否は貴族の価値観によって左右されるわ。つまり、強者側と弱者側の間に線を引く概念があるのね。
この強弱は権力の差、家柄によって決まるの。従って弱者が強者に相対するには範疇はんちゅうでしか認められないわけ。脅しや拷問で相手の内情を探ろうなんて、もってのほか! それこそ最悪、貴族階級の人間、全員を敵に回すことになるわ」

「?????」

「カナッペ……難しすぎるよ」

「うっ、そうね……かいつまんで話せればいいんだけど、クォリスの言うとおり余計、小難しくなってしまったわ」


「そう深く考える事もないんじゃない。シンプルにやられたらやり返せる、けど釣り合いが取れなくなる事はダメ! それでオッケィ!?」

「そう! それよ! まさに彼女の言う通りよ」

「おおっ! さすがはバー……ミスリム殿。我でも理解が追いつきますぞ」

皆におだてられ、有頂天になったバージェニルは、これ見よがしに毅然とふるまう。
捕捉を入れれば、暴漢たちがファルゴの名を持ち出した時点でギデオンは相手が貴族であるということを懸念していた。
名乗り上げる行為は、うっかり口を滑らせたからではない。
それ自体が脅しの意味合いを持つ。
自分たちの背後には誰がついているのか示す為の証明と警告。
いわば保険のようなものだった――――


城門をくぐり抜け、中庭を通る。
城内の大広間から階段を上がり、その先に謁見えっけんの間がつながる。
古城というだけあって、中は調度品や小物が散乱したままだ。
一体、どれだけの長い年月、主を失い放置されていたのか?
天上や床下、至る所にほこりが堆積している。

「蜘蛛の糸がスゴイな」

リッシュが顔に貼りつく糸を払いのけながら、奥へと進んでゆく。
糸どころか、蜘蛛自体が近場にいるかもしれない。
ギデオンは全神経を研ぎ澄ました。
些細な音も逃さないように聞き耳をたてる。

「ギデ君、この扉の向こうが王の間だ! ファルゴが潜んでいるかもしれない。注意して進もう」

「今のところは人の気配は感じられない……一応、持っておくか」

ギデオンは、壁に飾ってあった模造刀を鞘ごと取り出した。

最奥の扉が「ギィ――」っと音を鳴らし開いてゆく。
玉座まで一直線に敷かれた絨毯じゅうたんの上を二人並び進んでゆく。
王の玉座と背後にある鏡張りの壁。
調べてみたがいずれもおかしなところはない。

部屋の四隅に置かれた篝火台かがりびだいから絶えず、炎が揺らいでいる。
学校側が事前に用意したであろう、それだけが違和感を放っている。

「さあ、始めよう」リッシュが剣を構えた。

無言で模造刀を振り下ろすと、刀身の先とリッシュが重なって見える。
これ以上の言葉は要らない……。
己が剣戟を先に叩き込んだ方が、勝負を制する。

じりじりと間合いを詰め、出どころをうかがう両者。
辺りの空気だけが重く冷たくなってきた。
高鳴る心音と鼓動を抑え、その一歩を踏み出した。

キィィィ―――ン!!

勝負の直前で、甲高い耳鳴りが発生した。

「きゃあああ!!」ギデオンだけではない、王の間に入ってきたバージェニルたちも耳を塞いでいた。

「な、何なんだ!? この音は!!」

「ギデ君! 皆の様子がおかしいぞ!!」

リッシュの言葉どおり、パーティーメンバー全員が項垂れるようにして床に膝をついていた。
皆が同じタイミングで、同じ症状を引き起こすのは明らかに異常だ。

「リッシュ、君は大丈夫そうか!?」

「今のとこ―――ううっ!! どういう事だ……全身の……力が抜け――」

ついに、リッシュまでもが座り込んだまま動かなくなってしまった。
謁見の間に不穏な気配が漂う。
理由もわからず、成す術もないギデオンは独りだけ支障をきたさなかった。
これが敵の攻撃だとしたら、かなり問題だ。
何とかしないと全滅は免れない。
耳鳴りは、すでに止んでいた。
それでも彼らの容態は悪化の一途を辿っているようだった。
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