上 下
85 / 298

八十五話

しおりを挟む
第三チェックポイントの更新を済ませる。
ここまで進むと手のひらに転写された模様が魔法陣だとハッキリしてきた。

この魔法陣に意味はあるのだろうか?
専門家である魔術師の彼女の話によれば、獲得ポイント情報を簡易術式に置き換えたモノらしい。
ただ、それだけの為にと思われがちではある。
実際のところ、盗難防止や情報改ざんなどの対策として採用されたのがこの形式だ。
学校側もそれなりに気を配っているということがうかがえる。

怪盗ミスリムこと、バージェニルをどうするか?
三人は話し合った。
くわえて、自分たちが目にしてきた模擬戦の実情を簡潔に説明した。

彼らの話にバージェニルはうなづく。
ただそれだけで、自身について自主的には語ろうとはしない。
特に、どうして単独で行動していたのか?
その経緯をだそうとしてもバージェニルは沈黙を貫いたままだった。

このまま放置しておいた方が、無難な流れである。
が、ブロッサムたちが連れていくべきだと進言してきたので受け入れるしかない。
そうでもしなければ、この怪盗はまた無暗矢鱈と生徒を襲い続けるだろう。

三人を奇襲したという否定できない……前科がある。

ギデオンとしては彼女の処遇には興味を持ていなかった。
というより、極悪人でなければ彼は他者を裁こうとはしない。
自身もまた咎人とがびとであると理解しているからだ。

それとは別に、彼は彼女の天職に興味を持っていた。
キンバリー・カイネンの部屋で発見した手帳。
マジックロックで施錠せじょうされている禁忌の記録。
怪盗である彼女なら、専用スキルでロック解除できるかもしれない。
淡くとも期待を抱かずにはいられない。

「バージェニル。君は、マジックロックを解除したことがあるか?」

「何なの? 唐突ね……できるけど? ナイトレイドはシーフの上位職だし」

「なら、一つ頼みがある。コイツのロックを外したい」

カバンから手帳を取り出し、バージェニルに渡す。

くまなくロックの仕組みを探り、彼女は自身の力量と施錠した術者との差を見定める。

「かなり、分厚い手帳ね。解錠できなくはないけど、今は無理! 鍵解除のスキルを使用するには専用ツールが必要になるから模擬戦が終わるまでお預けね」

「分かった、後で頼む」

約束を取り付け終わると、偵察に出ていたブロッサムたちが戻ってきた。
彼女と手帳について会話するまでの少し間、二人には席を外してもらっていた。
手帳の出所を問われるのはギデオンにとってマイナスだった。
相手が誰であろうとできれば、人目を避けたい。
下手をすれば、バージェニルを巻き込んでしまう可能性は大いにある。
極力、リスクを減らしたい、それが彼の本音だった。

人数が四人ともなると、さすがに独断専行するわけにはいかない。
そう判断したギデオンはパーティー会議を開き今後の行動を決めることにした。

最初にブロッサムが声をあげた。

「一つ確認、宜しいですかな? バージェニル殿。聞けば此処以外のチェックポイントは未通過のこと! 我らはすでに三箇所を通過しております。同行することに関して問題はありませぬか?」

「いいのよ、模擬戦でポイントを稼ぎにきたわけではないから。それに貴方たちの話だと低ランク組の皆は上手く切り抜けたようだし、平原にさえ出ればその後は散り散りになるはずだから少なくとも全滅はないわね」

「ならば、次の課題は古城と断崖までどう向かうかですな。此処からだと、相当な距離を移動しなければ!」

「じ、時間も気になりま……じき、日も暮れそうです」

「魔術師殿の言うとおり、ギデ殿どういたしますか?」

「どうやら、テイマーとしての力を発揮する時がきたようだな」

一同が注目する中で、ギデオンは静かに答えた。
あたかも、本物のテイマーであるかのように誇張こちょうし語る。

「やるのですか? アレを」

「ああ。確認してもらった通りだ」

素性はともかく、移動の算段がついていたのは事実だ。
彼らは草原エリアまで移動すると早速、お目当ての群れに遭遇した。
六つ眼の象、アグカリモス。
サトラが乗っていたのを思い出し、どうにかこの象を利用できないかとギデオンは考えていた。
先ほどブロッサムたちに周辺を探らせたのは、暗に人払いをしただけではなく、象を見つけるのが目的だった。

「ほ、本当にあんな大きな生き物を、つ……捕まえるんですか?」

魔術師の少女の疑問に、蜜酒を取り出しながら彼は肯定した。

「まぁね、できない事はないさ。僕に任せてくれ」

「ちょっ! 貴方のバックパック、何やらモソモソと動いているんですけど!」

「ああ、蜜酒の匂いで起きたみたいだな」

ギデオンがカバン開けると中から、赤子のアルラウネがひょっこりと顔を出した。

「うにゅっ?」

「「か、可愛えぇぇぇぇっ――!!」」

普通は、なかなかお目にかかれない魔物の赤ちゃんに、女子陣は揃って黄色い声をあげる。
その目は、完全にアルラウネのとりこになっていた。

「何ですの!? 何ですの!? こんなのズルいわぁ――!!」

「だだだだ、抱っこしてもいいですか!?」

感動と動揺が入り混じっていた……。
想定外の反響にギデオンも苦笑するしかなかった。
興奮した彼女たちをなだめるのに、しばし時間を要した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。 最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。 でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。 記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ! 貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。 でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!! このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない! 何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない! だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。 それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!! それでも、今日も関係修復頑張ります!! 5/9から小説になろうでも掲載中

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...