異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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八十四話

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一難去ってまた一難。
突然、乱入してきた謎の女に一同は言葉を失っていた。

それは強敵に抱く危機感、あるいは絶望などでは決してない。

ただ一言、三人が揃って思ったであろう感想は

で違いない。

その証拠に、ギデオンは女を直視しないよう視線をどこか遠くに向けていた。
反対に魔術師の少女は目が離せないといった感じでガン見している。
ブロッサムにいたっては、人質であるはずなのに赤面し恥ずかしがっている。

女の装いは、百パーセント誰もが不審感を覚えるほど先鋭的だった。
奇抜さを通り越した何か……。

黒革でできたホルターネックの軽鎧ライトアーマー
それに合わせ羽織る、レース刺繍のロングカーディガン。
ボンネット帽子の下には、素顔を隠す為のマスカレードマスクを装着。

あまりに珍妙すぎるコーディネート。
正体隠したいのか? 目立ちたいのか?
もはや、本人でさえも分からなくなっている雰囲気が痛烈に伝わってくる。

「我が名は、義賊怪盗ミスリム! この世の不義、不徳、不正の輩を成敗する為、闇夜にまみれ暗躍する黒薔薇のナイトレイド! 栄えある伝統を築いてきた、このルヴィウス勇士学校の模擬戦にて弱者狩りなる不逞不徳ふていふとくを働く悪党がいると聞きつけ参上した次第。よもやと思うが貴公らが、その者たちであるまいな!!」

三人の反応など気にもとめず、女が名乗りをあげた。
頼んでもいないのに、わざわざ振付けまでしてくれる怪盗は、サービス精神旺盛せいしんおうせいだった。


――――しばらくの間、気不味い沈黙が場を支配した。


「ふん、あくまで黙秘というわけか! ならば、致し方ない……我が、暗殺術で貴公らの悪を断ち切ろう!!」

「いや! またれよ。我らは低クラス狩りの被害にあった方ですぞ!」

「問答無用! 真偽はあとで確かめればいい。まずは、リーダーっぽいお前からだ!」


ブロッサムの制止を聞かず、怪盗ミスリムは真向からギデオンに仕掛けてきた。

「はぁっ! 僕のことか!?」

「ふっはあは! 今更、とぼけても我が目は誤魔化せないぞ。インビジブルステップ!!」

こちらに向かって軽やかに走ってくる怪盗の姿が直前でスっと消え去った。
弁慶の擬態能力とは異なる、不可視化のスキル。
奇襲戦法としては悪くはない効果的な技だ。

それでも――――

「んがっ! あわわわわあ―――!!」

足下を引っ掛けられたミスリムが前のめりによろけた。
ギデオンは、か細い手首を背後から掴み彼女を取り押さえた。

「うぐぐぐう……放せ、放しなさい! 何故、我のインビジブルステップが……」

「これだけ香水の匂いがキツければ、僕でなくとも気づくぞ」

「だとしても……こう易々と捕まるなんて――不覚。このミスリム、一生の汚点! かくなる上は――――」

「それは、ダメ。アイスロック」

捕縛されたミリムス。
彼女の異変にいち早く対応したのは、同性である魔法少女だった。
呪符により怪盗の右手中指の爪先だけが凍っている。
男二人は、少女に「何故、魔法を使用したのか?」尋ねた。

「コレは……つけ爪です。何らかの毒が仕込んであると思い……はい。魔法を」

「君が気づいてくれて助かったよ、もう少しで手遅れになるところだった」

「はぅ……」褒められた彼女は、そっぽ向いてしまった。
またかと、肩をすくめるギデオン。
大袈裟に言い過ぎて、軟派な奴だと警戒されてしまったのだろうか?
内心、真摯しんしに反省する彼は全くもって知らなかった。

顔を背けた少女がどんな表情をしているのか?
それは、普段から冷静で大人しい彼女からは想像もできないほどの――――惚気のろけ具合だった。


「それで、怪盗ミリムスだったな。まさか、自害しようとでもしたのか!? 学生相手に何をやっているんだ! アンタは!!」

彼女の軽率な行動は、流石に見過ごせなかった。
自身でも驚くほどに声を張り上げ、叱責していた。

「か、怪盗である以上は正体がバレる事などあってはならない。それに……捕まったら……されるんでしょ?」

「……何か、カン違いしていないか?」

頬を赤く染める彼女に、肩を落としてため息をつく。
あからさまな素振りに、ご立腹したようだ。
怪盗はムキになって続けた。

「だから!! エッチなこととか! スケベな行為とか、要求されて回されちゃうんでしょ!? 見なさいよ! そこの大柄の男子とか、見るからに恥辱モノとか好きそうじゃない」

「あっ……その……われは断じて如何わしい事などしませぬぞ!! 天地開闢てんちかいびゃくから子々孫々ししそんそんまで誓って、女子を泣かせたりはしませぬわ!!!」

「へぇ~、どうだか……」

「やめろ……ブロッサムが困っているじゃないか。それに怪盗設定はどうした? キャラが崩れているぞ」

「設定とかキャラとか言うなし! あばっ!」

他者を巻き込んでおきながら、まったく反省の色を見せない怪盗にチョップが炸裂した。
一歩踏み外せば、大事になるところだった。
なのに当事者は自覚すらしていない。

「我? 私だって色々とあるんだもん。やるべき事とか……」

「そんなモノ、僕たちには関係ないだろう。それは君の問題だから自己管理してくれよ、バージェニル・ミリムス」

「あっ……はい」怪盗ミスリムの表情筋が硬直した。 
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