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八十一話

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第二チェックポイントは空洞の中にあった。
一先ず、台座に手を置きポイントを更新する。
これで二つ。
残りはストーンサークルと古城、断崖だ。

「ギデ殿! 目ぼしいモノといえば、これぐらいですかね……」

ランタンを手にぶら下げたままブロッサムは、壁に描かれた魔法陣を凝視していた。
確かに怪しいと言えば、怪しい。
けれど、それは―――

「トラップだ。触るなよ、何が起きるかは僕にも想像がつかない」

「ギデ殿……もう手遅れですぞ。触れてしまいました」

「なっ!?」開いた口が塞がらないまま、魔法陣が光に包まれてゆく。

途端、周囲の景色が歪み変貌を遂げる。

「ここは……まさか!」

トラップの影響により、ギデオンたち三人は別の場所に飛ばされていた。
空間転移、ダンジョントラップの中でも割とよくある仕掛けだ。
彼らが出てきたのは、石造りの殺風景な広間だった。
ここは、魔力結界で造られた仮想空間だ。
その証拠に光源など関係なく、先にある回廊と思しき所まで見渡せる。

どうやら、ここは寺院と類似した構造の建屋らしい。

ただし、外に出る為の道は存在すらしない。
ダンジョン、トラップ、強制転移とパワーワードがこれだけ揃っているんだ。
残念ながら、行き着くさきはボス部屋と相場が決っている。

回廊の方からゆったりと歩み寄ってくる六つ眼の象。
アグカリモスという気性の温厚な魔物だ。

それにまたがるは、魔獣の仮面を装着した茶褐色ちゃかっしょくの武神。
上だけ半裸で、下は鎧の草摺くさずりとすね当てを装備している。

「ヤトラ……」

それまで寡黙かもくだった少女が、武神を見るなり呟いた。

「ヤトラ? あれが、何者なのか知っているのか?」ギデオンが聞き返す。

彼女はコクリと首を振り肯定する。

「め、女神ミルティナスを守護する六神将が一人。ベヒモスの仮面をつけ三叉戟さんさげきのトライデントを振るぅ軍神……けど、本物じゃないでしゅ――あれは……ヤトラを模した石像、クレイゴーレムです!」

「クレイゴーレムか、確か局部破壊しても再生する魔物だったな」

「あっ、はい。つ、通常のゴレームとは違い術式で起動しているわけでもありましぇ……ん。は、はっきり断言すると我々には分が悪い……相手かと」

「そうは言うが、アレをどうにかしない事には此処を出るのは、不可能じゃないか?」

「ギデ殿のおっしゃる通り。それに、武神の方は準備万全のようですぞ!」

ブロッサムの言葉通り、ヤトラが象から飛び降りた。
カチャカチャと音を鳴らしながら上半身を左右、小刻みに揺らす。
その動きを間近で見た者は、心がぐという。
ギデオンたちとて例外ではない。
さっきまでの緊張感はどこへやら、戦意がすっーと消され棒立ち状態に陥っている。

「二人とも、しっかりして下ひゃいぃぃぃ――!!」

氷塊がトライデントに激突し鳴り響いた。
金属の甲高い音により、呆然としていたギデオンとブロッサムは我に返った。

「くぅ―――なんたる不覚。魔法使い殿、援護感謝いたしますぞ!」

「ブロッサム、僕とスコルで敵の注意をそらす。隙ができたら強烈な一撃を見舞ってくれ」

「このブロッサム、大役任されましたぞ」


「来い! スコル」主の呼びかけに応じ、影からスコルが顕現する。
半ば、彼から生み出された魔獣は、一心同体の存在。
わざわざ、口頭で伝えなくとも主の意図を察し、挟撃する為の行動を取る。

魔物解体用のダガーナイフを取り出しヤトリに突き立てようとするギデオン。
武神も動きを察知し、足を一歩先に踏み込む。

「ぐぉぉおおお――!!」真っ先に飛び出してきた槍の穂先。
間髪入れず、膝を落とし回避する。
何とか、避けられたが……その危うさは、ギデオンが叫びを上げてしまうほどだった。

一歩、たった一歩が規格外の歩幅。
正確には、瞬発力が強ぎて一瞬にして詰め寄られてしまう。
このままでは、ゴーレムとは思えないほどの機動力に翻弄ほんろうされてしまう。
そうなる前に、一気にたたみかけるしかない!

「ガゥ!!」スコルが武神の背に飛びついた。
振りほどこうと、ヤトリも槍の柄で必死で殴り続ける。
それでもスコルは猟犬だ。
一度、捕まえた獲物をそう易々と手放したりはしない。

「アイシクルバインド」

追撃の氷結呪符が足下を拘束する。
身動きを完全に封じ込めば、武神とて彼らの敵ではない。

スパァ―ン!!

ギデオンの疑似パリィにより、トライデントが宙に舞う。
足だけではなく、両腕の動きまで封じられたヤトラは完全に無力化した。

「どっせい!!!」

ふところに飛び込んだブロッサムが武神を押し倒し床を転がり回る。
膝裏をかかとで押さえつけられているゆえに仕掛けられた者は逃げ出せない。

地獄車――転がり続け地に叩きつけられる度に、ゴーレムの身体がひび割れ破損してゆく。

ブロッサムは勝利を確信していた。
彼同様、魔術師の少女も心ゆるぶ。

しかし、その考えは早計だった。
この程度のダメージで、撃退できるほどヤトラは甘い相手ではない。
模造とはいえ、女神を守護する一柱なのだから……。
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