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八十話
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再度、地図を広げる。
残り四箇所のチェックポイントを確認する。
瀑布 古城 断崖
湿地 平原
ストーンサークル
位置的には、こんな感じだ。
選択肢としてはストーンサークルから瀑布、古城方面の折り返しルートか。
瀑布、古城、断崖を経てストーンサークルの周回ルートかのどちらかになる。
いずれにせよ、チェックポイントはすぐに制覇されないように、意地の悪い配置となっている。
ギデオンは悩むことなく、周回ルートを選んだ。
理由は二つ。
先程の締め上げた生徒の情報のよると、下位クラス狩りの網はストーンサークル方面まで拡げる予定になっているそうだ。
虎穴に飛び込むのは、利口ではないし何より、無駄な戦闘による体力の消耗と時間のロスが手痛い。
言うまでなく、折り返しルートは危険だということだ。
もう一つ、理由付けとして上位クラス生徒たちがスタート時にとった行動だ。
彼らの半数以上は瀑布の方へと真っ先に向かっていた。
近場だからという見方もできなくないが、本当にそれだけなのか?
彼らがこぞって、瀑布を目指すのは何かしら秘密が隠されているから、そう当てはめれば自然と合点がゆく。
川沿いを目印に北上していく。
目の前に豪快な水音を立てる白布が垂れている。
天上から真下に向かってとめどなく流れる水の造形美は、一時的に見る者の心をかすめ取る。
第二チェックポイント、瀑布。
激しい水しぶきにより立ち込める靄。
瀑布との距離が近くなるにつれて視界は悪くなる。
「こりゃあ、敵から身を隠すのには丁度いい場所ですな!」
こいつは、どういうつもりなのだろうか?
先刻の大行進から真後ろにいた男子生徒が同行してきた。
彼だけではない……さらにその後ろに雪色のクロークをまとう少女の姿までもある。
「何処まで、ついて来るつもりなんだ? というよりも……君たちは何者なんだ?」
見かねたギデオンが尋ねると、照れ臭そうに笑い返す男子。
眼光が鋭く、悪人面の彼。
その笑顔は、邪悪な化身としか言いようがない。
それでも、リアクションがあるだけ少女よりは、いくぶんかマシだった。
依然、口を閉ざしたままで視線を合うと即座に明後日の方を向いてしまう。
一体、何が彼女をこんな風にしてしまったのか?
謎以上に薄気味が悪い。
「名乗るほどの者ではないですぞ。我のことなんぞは、通りすがりのミドルクラスの委員長、ブロッサムと思っていただければ結構です!」
「全部、言ってんだが……で、君の名は?」
「――――でしゅ」
「ん? もう、少し声を大きくしてもらえないかな」
「フロストデビィィィ――――ル!!」
狼狽しながら、少女はギデオンの背後を指差しその名を呼んだ。
見開いたままの瞳に、揺らめく霜の悪魔が映り込む。
「スコル、シャドウファングだ!!」
号令とともに影を伝ったスコルが敵を捕捉した。
待ち伏せていた魔物の首元を容赦なく噛み千切る。
冷えきった空気の向こうからズシャリと、何かが崩れ落ちた。
魔物の本体ではない。
薄っぺらい氷の膜が地を這いながら、無防備となったギデオンに襲い掛かろうとしていた。
「コイツ……! 不定形タイプの魔物か!?」
氷の膜――アイスグレーズと呼ばれるモノが無数に重ね合わさる。
人のカタチに変化してゆく、それこそがフロストデビル生来の姿だ。
靄の中で輪郭をおびると魔物は本性をさらけだした。
刃ように鋭く氷結した魔手を、ギデオンの喉元めがけ撃ち込んでくる。
「アイシクルバインド」
どこからともなく、聞こえた一声とともに刹那、辺りが吹雪く。
腕でおおった瞼を開くと、凍りついたまま固まったフロストデビルがいた。
魔法を唱えたのは、謎の少女だ。
彼女は魔術用の護符を使用して魔法を発動させていた。
「あとは、我にお任せあれ」
どっしりと構えた体勢でブロッサムがフロストデビルを仕留めにかかる。
左右交互に繰り出される張り手から衝撃波が吹き荒れる。
「秘技、鉄砲撃ちなり!」
フロストデビルが粉みじんになった。
見た目も派手だが、かなり強力な技だ。
少女とブロッサム。
どちらとも独自の戦闘スタイルを修めている。
護符を使用する魔法と一風変わった肉弾戦。
聖王国では、まずお目にかかれない特殊技巧である。
さすがは勇士学校の生徒として選ばれただけはある。
常人にはない発想と奇抜な才能には感服するしかない。
「ここの瀑布、裏側に空洞があるぞ」
「もしや、これがギデ殿が気にしていた謎の答えでは!?」
「……君には話していないはずだ。どうして知っている?」
「ふぅ~、目ですかね。よく言うでは、ありませんか! 目は口よりも全てを語ると」
「……先に進もう」
得意気になって語るブロッサムの言いたい事はなんとなく解かる。
ただ彼の一言は、超常現象の類だ。
人類はそこまで彼のレベルに追いついてはいない。
ギデオンは苦笑するしかなかった。
「何がなんだか、さっぱりだ」と。
残り四箇所のチェックポイントを確認する。
瀑布 古城 断崖
湿地 平原
ストーンサークル
位置的には、こんな感じだ。
選択肢としてはストーンサークルから瀑布、古城方面の折り返しルートか。
瀑布、古城、断崖を経てストーンサークルの周回ルートかのどちらかになる。
いずれにせよ、チェックポイントはすぐに制覇されないように、意地の悪い配置となっている。
ギデオンは悩むことなく、周回ルートを選んだ。
理由は二つ。
先程の締め上げた生徒の情報のよると、下位クラス狩りの網はストーンサークル方面まで拡げる予定になっているそうだ。
虎穴に飛び込むのは、利口ではないし何より、無駄な戦闘による体力の消耗と時間のロスが手痛い。
言うまでなく、折り返しルートは危険だということだ。
もう一つ、理由付けとして上位クラス生徒たちがスタート時にとった行動だ。
彼らの半数以上は瀑布の方へと真っ先に向かっていた。
近場だからという見方もできなくないが、本当にそれだけなのか?
彼らがこぞって、瀑布を目指すのは何かしら秘密が隠されているから、そう当てはめれば自然と合点がゆく。
川沿いを目印に北上していく。
目の前に豪快な水音を立てる白布が垂れている。
天上から真下に向かってとめどなく流れる水の造形美は、一時的に見る者の心をかすめ取る。
第二チェックポイント、瀑布。
激しい水しぶきにより立ち込める靄。
瀑布との距離が近くなるにつれて視界は悪くなる。
「こりゃあ、敵から身を隠すのには丁度いい場所ですな!」
こいつは、どういうつもりなのだろうか?
先刻の大行進から真後ろにいた男子生徒が同行してきた。
彼だけではない……さらにその後ろに雪色のクロークをまとう少女の姿までもある。
「何処まで、ついて来るつもりなんだ? というよりも……君たちは何者なんだ?」
見かねたギデオンが尋ねると、照れ臭そうに笑い返す男子。
眼光が鋭く、悪人面の彼。
その笑顔は、邪悪な化身としか言いようがない。
それでも、リアクションがあるだけ少女よりは、いくぶんかマシだった。
依然、口を閉ざしたままで視線を合うと即座に明後日の方を向いてしまう。
一体、何が彼女をこんな風にしてしまったのか?
謎以上に薄気味が悪い。
「名乗るほどの者ではないですぞ。我のことなんぞは、通りすがりのミドルクラスの委員長、ブロッサムと思っていただければ結構です!」
「全部、言ってんだが……で、君の名は?」
「――――でしゅ」
「ん? もう、少し声を大きくしてもらえないかな」
「フロストデビィィィ――――ル!!」
狼狽しながら、少女はギデオンの背後を指差しその名を呼んだ。
見開いたままの瞳に、揺らめく霜の悪魔が映り込む。
「スコル、シャドウファングだ!!」
号令とともに影を伝ったスコルが敵を捕捉した。
待ち伏せていた魔物の首元を容赦なく噛み千切る。
冷えきった空気の向こうからズシャリと、何かが崩れ落ちた。
魔物の本体ではない。
薄っぺらい氷の膜が地を這いながら、無防備となったギデオンに襲い掛かろうとしていた。
「コイツ……! 不定形タイプの魔物か!?」
氷の膜――アイスグレーズと呼ばれるモノが無数に重ね合わさる。
人のカタチに変化してゆく、それこそがフロストデビル生来の姿だ。
靄の中で輪郭をおびると魔物は本性をさらけだした。
刃ように鋭く氷結した魔手を、ギデオンの喉元めがけ撃ち込んでくる。
「アイシクルバインド」
どこからともなく、聞こえた一声とともに刹那、辺りが吹雪く。
腕でおおった瞼を開くと、凍りついたまま固まったフロストデビルがいた。
魔法を唱えたのは、謎の少女だ。
彼女は魔術用の護符を使用して魔法を発動させていた。
「あとは、我にお任せあれ」
どっしりと構えた体勢でブロッサムがフロストデビルを仕留めにかかる。
左右交互に繰り出される張り手から衝撃波が吹き荒れる。
「秘技、鉄砲撃ちなり!」
フロストデビルが粉みじんになった。
見た目も派手だが、かなり強力な技だ。
少女とブロッサム。
どちらとも独自の戦闘スタイルを修めている。
護符を使用する魔法と一風変わった肉弾戦。
聖王国では、まずお目にかかれない特殊技巧である。
さすがは勇士学校の生徒として選ばれただけはある。
常人にはない発想と奇抜な才能には感服するしかない。
「ここの瀑布、裏側に空洞があるぞ」
「もしや、これがギデ殿が気にしていた謎の答えでは!?」
「……君には話していないはずだ。どうして知っている?」
「ふぅ~、目ですかね。よく言うでは、ありませんか! 目は口よりも全てを語ると」
「……先に進もう」
得意気になって語るブロッサムの言いたい事はなんとなく解かる。
ただ彼の一言は、超常現象の類だ。
人類はそこまで彼のレベルに追いついてはいない。
ギデオンは苦笑するしかなかった。
「何がなんだか、さっぱりだ」と。
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