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七十七話
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学校に通い始めて、一週間が経とうとしていた。
競合生活の流れに戸惑いながらも少しずつ、周りに馴染んできた。
クラスメイトとの交流はと言うと、差し当たりのない関係だ。
一言、二言会話を交わすぐらいで進展はない。
ギデオンとしても、別段それはそれで気が楽だった。
所詮は、仮の留学生。
やるべきことを片付けたら、此処に用はない。
思い出など、不要。
彼は本気でそう考えていた。
ところが、運命とは人が望んだことを蹴り飛ばしてくる。
まるで、その人の反応を愉しむように理を捻じ曲げてくる。
席の前に一人のクラスメイトがやってきた。
頬杖をついたままの彼を見て、穏やかな眼差し向ける。
「やあ!」軽く手を上げ、挨拶するクラスメイト。
彼の名は、リッシュ。
先日、野鳥に襲われていたところを助けたたりした。
それが縁で、気に入られてしまったらしい。
クラスの中で彼だけが、事あるごとに気にかけてくる。
授業についていけているか?
入り用な物はないか?
悩みはないか?
訊きたいことはないか?
色々と心配してくれる。
何と言うか……一度、助けただけでこの有様だ。
「別に気にしないでいい。見返りを期待して助けたわけではない」
そう何度も、説明したのだが「自分がそうしたから」の一点張りだ。
さすがに根負けしてしまった。
「今日の午後から、模擬戦があるんだけど、ここでの模擬戦は初めてでしょ?」
「まぁね。聖王国では個人で修練を積むから、騎士にでもならない限り団体戦は縁遠いな」
「まだ、パーティー組んでないのなら、僕にところに入りなよ」
「誘ってくれるのは、ありがたいが……僕と組むのは他のメンバーが良い顔はしないだろう」
勧誘されるのは、素直に喜ぶべきところだ。
けれど、誰とも組むつもりもなく、何なら模擬戦不参加まで決めていた。
ゆえにこの不足事態に真剣に悩む。
自分は参加しない。
そう伝えても、リッシュは納得しない話が余計にこじれる。
かと言って、単独での参加は変に注目を集めてしまう。
ここは、頃合い見計らいバックレるのが、最良策である。
もし、今回のように外堀りを埋められていなければの話に限定されるが……。
「リッシュ、本当に留学生を入れる気かよ?」
「オッドだって前から言っていただろ! 攻撃人員を増強したいって」
「そ、それとこれとは話が違うだろっ!?」
仲間を呼ばれてしまった。
威勢の良い少年がリッシュと口論していた。
これまで平穏だった教室が今日は、一段と賑やかだ。
正直――
「二人とも止しなさい。ギデ君、困っているじゃん!」
ギデオンの想いを代弁するように女子が割って入ってきた。
速攻、男子二人相手に説教を始めている。
彼女もリッシュのパーティーメンバーなのだろう。
「カナッペ、クォリスは?」リッシュが女子メンバーに質問する。
「あの子、また外に出たくないって寮に引きこもっているわよ」
「午後は参加できるよね?」
「大丈夫よ。首に輪っかつけてでも連れ出すから」
何やら知らない内にどんどん話が進んでいる。
が……彼らと組むことはありえない。
ギデオンは無言で席を発った。
彼らを責めるつもりは微塵もない。
単純に経験差があり過ぎて共闘できないだけだ。
いくら模擬戦とはいえ、ピクニック感覚で挑むもうとするのなら、パーティーを組む意味はない。
彼らは自分を下に見ている。
しかし、パーティーメンバーとして行動を共にすれば、お荷物になってしまうのは彼らの方だ。
だからこそ組まない方が賢明だ。
結果として、皆のプライドを傷つけ、自信を奪ってしまう。
力をセーブしようが必ずボロが出る。
目立たないように何もしなければ、非難を浴びることになる。
ならば、組む前に嫌われれば済む話だ。
「待ってくれ! ギデ」
教室からリッシュが飛び出してきた。
そこまでして追ってくる意味がわからない。
「メンバーは足りているんだ。僕に固執する理由はないはずだ」
「何か、気に障ることをしてしまったら謝罪するよ」
「はぁー」ギデオンはため息をついた。
謝罪する必要のないことを、謝罪されても気分を害するだけだ。
何より彼は一度も自分の問いに答えてくれない。
「どうして、付きまとうのか?」
何度、訊いても白を切る。
親切にするフリをしながら何もしていない。
点数稼ぎの定石だ。
誰に対して、何に対してかは知らない。
強いて挙げれば、鳥が関係しているとしか思えない。
「そういえば、どうして君は鳥の大群から襲撃を受けていたんだ?」
「えっ? そ、それは……不運! そう不運が重なっただけだから」
「また、誤魔化すつもりか……」
「違う! そうじゃない……そうじゃないんだ」
「リッシュ、僕は決めたよ。今回の模擬戦は君たちパーティーと勝負する。それが、僕に出来るたった一つの協力だ。もし、僕が勝利したら隠していること全部、話してもらうぞ」
「ギデ……どうしてもやるんだね。君には感謝している、それは本当だ。だからこそ、これ以上は巻き込みたくはなかったんだ!!」
クラスメイトの苦悩。
その叫びに応えるため、ギデオンは模擬戦に参加する。
真実を白日の下にさらす為に……。
競合生活の流れに戸惑いながらも少しずつ、周りに馴染んできた。
クラスメイトとの交流はと言うと、差し当たりのない関係だ。
一言、二言会話を交わすぐらいで進展はない。
ギデオンとしても、別段それはそれで気が楽だった。
所詮は、仮の留学生。
やるべきことを片付けたら、此処に用はない。
思い出など、不要。
彼は本気でそう考えていた。
ところが、運命とは人が望んだことを蹴り飛ばしてくる。
まるで、その人の反応を愉しむように理を捻じ曲げてくる。
席の前に一人のクラスメイトがやってきた。
頬杖をついたままの彼を見て、穏やかな眼差し向ける。
「やあ!」軽く手を上げ、挨拶するクラスメイト。
彼の名は、リッシュ。
先日、野鳥に襲われていたところを助けたたりした。
それが縁で、気に入られてしまったらしい。
クラスの中で彼だけが、事あるごとに気にかけてくる。
授業についていけているか?
入り用な物はないか?
悩みはないか?
訊きたいことはないか?
色々と心配してくれる。
何と言うか……一度、助けただけでこの有様だ。
「別に気にしないでいい。見返りを期待して助けたわけではない」
そう何度も、説明したのだが「自分がそうしたから」の一点張りだ。
さすがに根負けしてしまった。
「今日の午後から、模擬戦があるんだけど、ここでの模擬戦は初めてでしょ?」
「まぁね。聖王国では個人で修練を積むから、騎士にでもならない限り団体戦は縁遠いな」
「まだ、パーティー組んでないのなら、僕にところに入りなよ」
「誘ってくれるのは、ありがたいが……僕と組むのは他のメンバーが良い顔はしないだろう」
勧誘されるのは、素直に喜ぶべきところだ。
けれど、誰とも組むつもりもなく、何なら模擬戦不参加まで決めていた。
ゆえにこの不足事態に真剣に悩む。
自分は参加しない。
そう伝えても、リッシュは納得しない話が余計にこじれる。
かと言って、単独での参加は変に注目を集めてしまう。
ここは、頃合い見計らいバックレるのが、最良策である。
もし、今回のように外堀りを埋められていなければの話に限定されるが……。
「リッシュ、本当に留学生を入れる気かよ?」
「オッドだって前から言っていただろ! 攻撃人員を増強したいって」
「そ、それとこれとは話が違うだろっ!?」
仲間を呼ばれてしまった。
威勢の良い少年がリッシュと口論していた。
これまで平穏だった教室が今日は、一段と賑やかだ。
正直――
「二人とも止しなさい。ギデ君、困っているじゃん!」
ギデオンの想いを代弁するように女子が割って入ってきた。
速攻、男子二人相手に説教を始めている。
彼女もリッシュのパーティーメンバーなのだろう。
「カナッペ、クォリスは?」リッシュが女子メンバーに質問する。
「あの子、また外に出たくないって寮に引きこもっているわよ」
「午後は参加できるよね?」
「大丈夫よ。首に輪っかつけてでも連れ出すから」
何やら知らない内にどんどん話が進んでいる。
が……彼らと組むことはありえない。
ギデオンは無言で席を発った。
彼らを責めるつもりは微塵もない。
単純に経験差があり過ぎて共闘できないだけだ。
いくら模擬戦とはいえ、ピクニック感覚で挑むもうとするのなら、パーティーを組む意味はない。
彼らは自分を下に見ている。
しかし、パーティーメンバーとして行動を共にすれば、お荷物になってしまうのは彼らの方だ。
だからこそ組まない方が賢明だ。
結果として、皆のプライドを傷つけ、自信を奪ってしまう。
力をセーブしようが必ずボロが出る。
目立たないように何もしなければ、非難を浴びることになる。
ならば、組む前に嫌われれば済む話だ。
「待ってくれ! ギデ」
教室からリッシュが飛び出してきた。
そこまでして追ってくる意味がわからない。
「メンバーは足りているんだ。僕に固執する理由はないはずだ」
「何か、気に障ることをしてしまったら謝罪するよ」
「はぁー」ギデオンはため息をついた。
謝罪する必要のないことを、謝罪されても気分を害するだけだ。
何より彼は一度も自分の問いに答えてくれない。
「どうして、付きまとうのか?」
何度、訊いても白を切る。
親切にするフリをしながら何もしていない。
点数稼ぎの定石だ。
誰に対して、何に対してかは知らない。
強いて挙げれば、鳥が関係しているとしか思えない。
「そういえば、どうして君は鳥の大群から襲撃を受けていたんだ?」
「えっ? そ、それは……不運! そう不運が重なっただけだから」
「また、誤魔化すつもりか……」
「違う! そうじゃない……そうじゃないんだ」
「リッシュ、僕は決めたよ。今回の模擬戦は君たちパーティーと勝負する。それが、僕に出来るたった一つの協力だ。もし、僕が勝利したら隠していること全部、話してもらうぞ」
「ギデ……どうしてもやるんだね。君には感謝している、それは本当だ。だからこそ、これ以上は巻き込みたくはなかったんだ!!」
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その叫びに応えるため、ギデオンは模擬戦に参加する。
真実を白日の下にさらす為に……。
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