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七十六話
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ザッザザ――――
メモリージェムの中で砂嵐が躍る。
直後、立体映像が飛び出してきた。
あたかも、今現在の出来事のように録画内容を再現する。
ここではない……。
研究施設のような場所。
そこにあるのは、おびただしい数の実験装置。
機材から漏れている頼りない光が部屋の照明代わりになっている。
カプセル型の装置の中に人が眠っていた。
これも、キンバリーが言っていた人類から神を創り出すシステムの一部なのか?
断定はできない。
が、異常であるのは確かだ。
カプセルの数は、ホログラムを通して確認できるだけで10機以上はある。
もし、これらすべてが可動しているのならば、実験には何十、何百の被験体が用いられていたことになる。
そこまで犠牲を払っても尚、研究を完遂させようとしたキンバリー・カイネン。
これは呪いだ。
呪縛と言っても相違ない。
研究者としての志を捨てた彼女の伏魔殿、それこそが映像の研究室になる。
外から話声がすると、研究室に男女が入ってきた。
女の方は白衣姿のキンバリー。
もう一人、男の方はどこかで見た覚えがある。
「宰相だ。ガルベナール宰相だよ、このお爺さん」シルクエッタが映像を指差す。
「そう言えば、モーリッチが話していたな。キンバリーと宰相はつながりを待っていると」
「モーリッチ……? 大富豪のモーリッチ・メイフィスか!? お前、とんでもない大物と知り合いなんだな!?」
「その話は、また今度な」
騒然となるランドルフを落ち着かせ、メモリージェムの音声ボリュームを操作する。
二人の姿は若干、遠目に撮影されている。
何かを話しているのだが、上手く聞き取れない。
ガルベナールが嫌らしい顔つきで、キンバリーの腰に手を回す。
そこから、彼女にこう告げる。
「あ――、どうですかね? 進捗状況は。ん、私としては、改造兵を早期増員したいわけですよ。それにはもっと! 悪の種が必要なんです。え―――? 何でしたっけ? そうそう……貴女のサーキットブレイカーはその為にあるのを理解していますかね?」
「ご安心を……ガルベナール様、すでに悪の種は増産体制が整っております。まずは第一段階として聖王国にいる有望な人材へ植え付けるのが宜しいかと……きっと、貴方様にとって心強い味方になるでしょう」
「チッ……どうやって、優れた人材を見つけ出すのです。私はね、自慢ではありませんが人の顔が覚えられないのですよ!」
「それも解決済みです。聖王国でイベントを開催いたしましょう、分かりやすく御前試合などが好ましいです。あとは、勝者に……」
「悪意を植え付ける!!」
ガタン!
メモリージェムが床に転がり落ちた。
顔を合わせ、ほくそ笑む宰相と研究者。
その邪悪な人相に、吐き気を催しギデオンは屈み込んだ。
「ギデオン! 大丈夫!?」心配したシルクエッタが彼の背中をさする。
「一体、僕は何を見ている? 知らない間に、僕は奴らの被験体にされていたとでもいうのか……あり得ない、あり得ない! いつ植え付けられた? この胸の奥底にくすぶる奴らへの憎悪も、実は悪の種の仕業だとでも言うのか――!?」
ドン! ドン! 床を殴りつけたところでランドルフに取り押さえられた。
「取り乱すな! 悪の種の詳細が分からない以上、ここでジタバタしても仕方ないだろう? どうやら、録画はここまでだ。シルクエッタ嬢、そろそろ引き上げましょう」
ギデオンの精神状態を考慮し、調査は打ち切りとなった。
これ以上、探っても目ぼしいモノは見つけられないだろう。
今回の調査で一つはっきりと判明した。
宰相ガルベナールは、諸悪の根源だという事。
ワイズメル・シオンの陰に潜む者として正体が明らかとなった今、彼はギデオンにとって新たな標的となった。
とはいえ、相手は一国の宰相。
接点がない以上は、近づくのも容易ではない。
夕暮れの中を独り歩くギデオン。
シルクエッタは、まだ仕事があるらしく校舎へと戻っていった。
ランドルフもキンバリーの身辺調査にあたり、学校側に事後報告しなければならないそうだ。
「自由時間が多いのは学生の特権だな」
やる事もなく、しばし夕焼けに染まる校舎を眺めていた。
こんなにも、ゆったりとした時を過ごせるのは何時以来だろう。
感慨にふけるギデオン。
「にしても、静かだな……静か過ぎて気味が悪いぐらいだ」
「キャアアアアッ―――!! 誰か、助けてください! 誰かぁああ―――」
前言を撤回しなくてはいけない。
ギデオンは頭部をかきながら、悲鳴の元へと急行した。
男子生徒が鳥の群れに襲われていた。
すでに彼の意識なく倒れ込んでいる。
鳥葬……その言葉が浮かんでくる。
制服を鋭い爪で切り刻まれた上、肉をついばまれている。
「このぉ――――!!」
羽織っていた法衣を脱ぎ、振り回す。
鳥たちを追い払うと、抵抗する事もなく、あっという間に飛び立ってゆく。
「しっかりしろ! 今、医務室に連れてってやる」
男子生徒に肩を貸しながら、ギデオンは周囲を見回した。
「確か、女子生徒の悲鳴が聞こえたはずなんだが……?」
彼らの他には誰もいなかった。
メモリージェムの中で砂嵐が躍る。
直後、立体映像が飛び出してきた。
あたかも、今現在の出来事のように録画内容を再現する。
ここではない……。
研究施設のような場所。
そこにあるのは、おびただしい数の実験装置。
機材から漏れている頼りない光が部屋の照明代わりになっている。
カプセル型の装置の中に人が眠っていた。
これも、キンバリーが言っていた人類から神を創り出すシステムの一部なのか?
断定はできない。
が、異常であるのは確かだ。
カプセルの数は、ホログラムを通して確認できるだけで10機以上はある。
もし、これらすべてが可動しているのならば、実験には何十、何百の被験体が用いられていたことになる。
そこまで犠牲を払っても尚、研究を完遂させようとしたキンバリー・カイネン。
これは呪いだ。
呪縛と言っても相違ない。
研究者としての志を捨てた彼女の伏魔殿、それこそが映像の研究室になる。
外から話声がすると、研究室に男女が入ってきた。
女の方は白衣姿のキンバリー。
もう一人、男の方はどこかで見た覚えがある。
「宰相だ。ガルベナール宰相だよ、このお爺さん」シルクエッタが映像を指差す。
「そう言えば、モーリッチが話していたな。キンバリーと宰相はつながりを待っていると」
「モーリッチ……? 大富豪のモーリッチ・メイフィスか!? お前、とんでもない大物と知り合いなんだな!?」
「その話は、また今度な」
騒然となるランドルフを落ち着かせ、メモリージェムの音声ボリュームを操作する。
二人の姿は若干、遠目に撮影されている。
何かを話しているのだが、上手く聞き取れない。
ガルベナールが嫌らしい顔つきで、キンバリーの腰に手を回す。
そこから、彼女にこう告げる。
「あ――、どうですかね? 進捗状況は。ん、私としては、改造兵を早期増員したいわけですよ。それにはもっと! 悪の種が必要なんです。え―――? 何でしたっけ? そうそう……貴女のサーキットブレイカーはその為にあるのを理解していますかね?」
「ご安心を……ガルベナール様、すでに悪の種は増産体制が整っております。まずは第一段階として聖王国にいる有望な人材へ植え付けるのが宜しいかと……きっと、貴方様にとって心強い味方になるでしょう」
「チッ……どうやって、優れた人材を見つけ出すのです。私はね、自慢ではありませんが人の顔が覚えられないのですよ!」
「それも解決済みです。聖王国でイベントを開催いたしましょう、分かりやすく御前試合などが好ましいです。あとは、勝者に……」
「悪意を植え付ける!!」
ガタン!
メモリージェムが床に転がり落ちた。
顔を合わせ、ほくそ笑む宰相と研究者。
その邪悪な人相に、吐き気を催しギデオンは屈み込んだ。
「ギデオン! 大丈夫!?」心配したシルクエッタが彼の背中をさする。
「一体、僕は何を見ている? 知らない間に、僕は奴らの被験体にされていたとでもいうのか……あり得ない、あり得ない! いつ植え付けられた? この胸の奥底にくすぶる奴らへの憎悪も、実は悪の種の仕業だとでも言うのか――!?」
ドン! ドン! 床を殴りつけたところでランドルフに取り押さえられた。
「取り乱すな! 悪の種の詳細が分からない以上、ここでジタバタしても仕方ないだろう? どうやら、録画はここまでだ。シルクエッタ嬢、そろそろ引き上げましょう」
ギデオンの精神状態を考慮し、調査は打ち切りとなった。
これ以上、探っても目ぼしいモノは見つけられないだろう。
今回の調査で一つはっきりと判明した。
宰相ガルベナールは、諸悪の根源だという事。
ワイズメル・シオンの陰に潜む者として正体が明らかとなった今、彼はギデオンにとって新たな標的となった。
とはいえ、相手は一国の宰相。
接点がない以上は、近づくのも容易ではない。
夕暮れの中を独り歩くギデオン。
シルクエッタは、まだ仕事があるらしく校舎へと戻っていった。
ランドルフもキンバリーの身辺調査にあたり、学校側に事後報告しなければならないそうだ。
「自由時間が多いのは学生の特権だな」
やる事もなく、しばし夕焼けに染まる校舎を眺めていた。
こんなにも、ゆったりとした時を過ごせるのは何時以来だろう。
感慨にふけるギデオン。
「にしても、静かだな……静か過ぎて気味が悪いぐらいだ」
「キャアアアアッ―――!! 誰か、助けてください! 誰かぁああ―――」
前言を撤回しなくてはいけない。
ギデオンは頭部をかきながら、悲鳴の元へと急行した。
男子生徒が鳥の群れに襲われていた。
すでに彼の意識なく倒れ込んでいる。
鳥葬……その言葉が浮かんでくる。
制服を鋭い爪で切り刻まれた上、肉をついばまれている。
「このぉ――――!!」
羽織っていた法衣を脱ぎ、振り回す。
鳥たちを追い払うと、抵抗する事もなく、あっという間に飛び立ってゆく。
「しっかりしろ! 今、医務室に連れてってやる」
男子生徒に肩を貸しながら、ギデオンは周囲を見回した。
「確か、女子生徒の悲鳴が聞こえたはずなんだが……?」
彼らの他には誰もいなかった。
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