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七十五話
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魚の小骨が喉に刺さった。
そのような、はっきりとした感触ではない。
もっと全体的に、薄膜……オブラートに包まれたような違和感だけが残っている。
「う~ん!」
図書室から借りた本を抱きかかえながら、ギデオンはうなった。
どうにも、気分がスッキリしない。
それもこれも、あの奇妙なオウムのせいだ。
「おしゃっあああ―――!!」
柱の陰から痛快な声量が上がった。
一体、誰だと近づいてみると先程、ラッキースターに選ばれた女子生徒を目撃した。
彼女は人目を忍んでガッツポーズを決めている。
とてもじゃないが、あの気取った感じの令嬢と同一人物だとは思えない。
「確か、バージェニルだったか。何か……見てはいけないモノを見てしまった気がするな。そっとしておこう」
ギデオンは何事もなかったように、その場から立ち去った。
元より、道草をくうつもりはない。
これから、キンバリーの寮室に向かうのだ。
何かしらの成果が出るのを期待し、シルクエッタたちと合流する。
「にしても……わざわざシルクエッタ嬢まで、ご足労いただかなくても」
「むっ、ランドルフさん。それってボクがいると迷惑ってことですか?」
「いえっ、とんでもない! むしろ、ありがたいと言いますか……コイツと二人でいると色々と噂が立って仕方がないらしいので」
「まぁ、主に女子連中からな。今日だけで五度もランドルフの事を訊かれたよ」
「へぇ~、モテモテなんだね」
二人に、からかわれたランドルフがしりごむ。
いかに屈強な騎士でも色恋沙汰には苦手意識があるのか?
それ以上は口をつぐんだままだった。
「ランドルフ、シルクエッタは重要だ! 特に職員寮とはいえ、女性の部屋に立ち入るんだ。僕たちだけだと不審者扱いされかねん」
捕捉するギデオンの言葉に彼は渋々と了解した。
校舎から見て東側のエリア。
そこには、貴族でも舌を巻くほどの立派な屋敷が立ち並んでいた。
内幾つかは学生寮で、職員寮は少し離れた小高い丘の上に位置する。
キンバリーが住んでいた部屋の前に到着した。
三人で中に入ると、早速大きめなベッドが来訪した彼らを出迎えた。
室内は一人で生活するには充分なほどの、面積が確保されていた。
寝室の他にはトイレ、バスルーム、書斎などが完備され、贅沢なバルコニーまでも設置されている。
「ちょっとした貴族気分という奴か」閉め切られたカーテンを開くギデオン。
「学校の寮にしては、ずいぶんとお金かかっているよね」とシルクエッタも同意を示す。
貴族出身の彼らだ。
こうした調度品の格付けは割と目利きである。
「二人とも、こっちに来て見ろ。面白いモノが見つかったぞ」
書斎を調べていたランドルフが手招きしていた。
どうやら、何か発見があったようだ。
急ぎ、彼のもとへ集結する。
「机の引き出しの中に入っていた」
差し出されたのは革の手帳だった。
かなり分厚い代物で、他者に内を見られないように鍵がつけられていた。
「何処かに鍵があるはずだ。探すぞ!」
「よく見て、ギデオン。この手帳の鍵……魔法施錠だ。魔法でなければ、解錠できないよ!」
「その手の魔法は、習得していない。二人は出来るか?」
「ワタシでは無理だな。ロックを解除できるのはレンジャーかシーフ、いずれかの職が持つ専用スキルでないと」
「つまり、僕達の中で解錠できる人間はいないということか……近場のギルドにいけば、どちらか見つかるだろう」
その回答にランドルフが首を傾げた。
何やら指摘したい事があるようだ。
「此処、ナズィール地区にはギルドはないぞ。最低でもエリエに戻らないと行けない。我々は立場上、しばらくは此処を離れられない。それはギデ、お前も同じだ」
「となると……方法は一つか」
「分かった。勇士学校の生徒たちからスキル持ちを探し出すんだね! でも……いいのかな? 手伝って貰うってことは間接的に巻き込んでしまう可能性があるって事だよね」
「シルクエッタ、僕の知る限りワイズメル・シオンの連中は無差別に攻撃を仕掛けてくる。連中の狙いがはっきりと見えてこない以上、相手の出方を伺っていては仇になる。おそらく、この手帳には組織についての情報が記載されているはずだ」
「そうだね、ボクらは知らなきゃ。彼らの暴走を食い止める為にも!」
「ああ。被害を最小限に留める為にも一刻も早く、組織の謎を解明するぞ」
「ん? コイツは……?」引き続き、室内を物色していると無色透明なオーブを発見した。
「メモリージェムか、こちらの方が当たりかもしれないな」
拾い上げたオーブを手に乗せギデオンは二人に開示する。
メモリージャムは、魔法によって特殊加工が施された記憶媒体である。
魔力を込めることで空の状態から周囲の映像と音声を一定時間、取り込むことができる。
いわば、録画カメラのような機能を有するマジックアイテム。
再び、魔力を込めれば録画内容が再生される仕組みだ。
果たして、この球体にどのような記録が保存されているのか?
緊迫した空気の中、魔力が注入される。
そのような、はっきりとした感触ではない。
もっと全体的に、薄膜……オブラートに包まれたような違和感だけが残っている。
「う~ん!」
図書室から借りた本を抱きかかえながら、ギデオンはうなった。
どうにも、気分がスッキリしない。
それもこれも、あの奇妙なオウムのせいだ。
「おしゃっあああ―――!!」
柱の陰から痛快な声量が上がった。
一体、誰だと近づいてみると先程、ラッキースターに選ばれた女子生徒を目撃した。
彼女は人目を忍んでガッツポーズを決めている。
とてもじゃないが、あの気取った感じの令嬢と同一人物だとは思えない。
「確か、バージェニルだったか。何か……見てはいけないモノを見てしまった気がするな。そっとしておこう」
ギデオンは何事もなかったように、その場から立ち去った。
元より、道草をくうつもりはない。
これから、キンバリーの寮室に向かうのだ。
何かしらの成果が出るのを期待し、シルクエッタたちと合流する。
「にしても……わざわざシルクエッタ嬢まで、ご足労いただかなくても」
「むっ、ランドルフさん。それってボクがいると迷惑ってことですか?」
「いえっ、とんでもない! むしろ、ありがたいと言いますか……コイツと二人でいると色々と噂が立って仕方がないらしいので」
「まぁ、主に女子連中からな。今日だけで五度もランドルフの事を訊かれたよ」
「へぇ~、モテモテなんだね」
二人に、からかわれたランドルフがしりごむ。
いかに屈強な騎士でも色恋沙汰には苦手意識があるのか?
それ以上は口をつぐんだままだった。
「ランドルフ、シルクエッタは重要だ! 特に職員寮とはいえ、女性の部屋に立ち入るんだ。僕たちだけだと不審者扱いされかねん」
捕捉するギデオンの言葉に彼は渋々と了解した。
校舎から見て東側のエリア。
そこには、貴族でも舌を巻くほどの立派な屋敷が立ち並んでいた。
内幾つかは学生寮で、職員寮は少し離れた小高い丘の上に位置する。
キンバリーが住んでいた部屋の前に到着した。
三人で中に入ると、早速大きめなベッドが来訪した彼らを出迎えた。
室内は一人で生活するには充分なほどの、面積が確保されていた。
寝室の他にはトイレ、バスルーム、書斎などが完備され、贅沢なバルコニーまでも設置されている。
「ちょっとした貴族気分という奴か」閉め切られたカーテンを開くギデオン。
「学校の寮にしては、ずいぶんとお金かかっているよね」とシルクエッタも同意を示す。
貴族出身の彼らだ。
こうした調度品の格付けは割と目利きである。
「二人とも、こっちに来て見ろ。面白いモノが見つかったぞ」
書斎を調べていたランドルフが手招きしていた。
どうやら、何か発見があったようだ。
急ぎ、彼のもとへ集結する。
「机の引き出しの中に入っていた」
差し出されたのは革の手帳だった。
かなり分厚い代物で、他者に内を見られないように鍵がつけられていた。
「何処かに鍵があるはずだ。探すぞ!」
「よく見て、ギデオン。この手帳の鍵……魔法施錠だ。魔法でなければ、解錠できないよ!」
「その手の魔法は、習得していない。二人は出来るか?」
「ワタシでは無理だな。ロックを解除できるのはレンジャーかシーフ、いずれかの職が持つ専用スキルでないと」
「つまり、僕達の中で解錠できる人間はいないということか……近場のギルドにいけば、どちらか見つかるだろう」
その回答にランドルフが首を傾げた。
何やら指摘したい事があるようだ。
「此処、ナズィール地区にはギルドはないぞ。最低でもエリエに戻らないと行けない。我々は立場上、しばらくは此処を離れられない。それはギデ、お前も同じだ」
「となると……方法は一つか」
「分かった。勇士学校の生徒たちからスキル持ちを探し出すんだね! でも……いいのかな? 手伝って貰うってことは間接的に巻き込んでしまう可能性があるって事だよね」
「シルクエッタ、僕の知る限りワイズメル・シオンの連中は無差別に攻撃を仕掛けてくる。連中の狙いがはっきりと見えてこない以上、相手の出方を伺っていては仇になる。おそらく、この手帳には組織についての情報が記載されているはずだ」
「そうだね、ボクらは知らなきゃ。彼らの暴走を食い止める為にも!」
「ああ。被害を最小限に留める為にも一刻も早く、組織の謎を解明するぞ」
「ん? コイツは……?」引き続き、室内を物色していると無色透明なオーブを発見した。
「メモリージェムか、こちらの方が当たりかもしれないな」
拾い上げたオーブを手に乗せギデオンは二人に開示する。
メモリージャムは、魔法によって特殊加工が施された記憶媒体である。
魔力を込めることで空の状態から周囲の映像と音声を一定時間、取り込むことができる。
いわば、録画カメラのような機能を有するマジックアイテム。
再び、魔力を込めれば録画内容が再生される仕組みだ。
果たして、この球体にどのような記録が保存されているのか?
緊迫した空気の中、魔力が注入される。
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