異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
72 / 366

七十二話

しおりを挟む
学術都市、ナズィール。
かつて、ここはそう呼ばれていた。
勇士学校は最初の十人が一人、ルヴィウスが創立したとされる東大陸初の教育機関だ。

健全なる肉体を育む。
確かな知識を得る。
不浄を取り除く寛容な精神こころを持つ。

この三つを校訓とする学校は、これまで数多の、英雄英傑を輩出してきた。

実績があるからこその格式高さ。
永い歳月を経ての抽出されてきた技能と知識が充実した学び舎。
勇者や英雄を目指す若者にとっては、これ以上にない最高の環境である。
よって、まずはこの学校を門を叩く事が英雄への第一歩だと言われている。

「凄い……注目されているな」

到着した傍から、無数の視線を感じる。
校舎の中からだ。
上手い事、気配を経っているつもりなんだろうが、嗅覚で察知できるギデオンには意味を成さない。
おもしろい事に人間とは感情が昂るほどに濃い匂いを発する。
そのわずかな変化を読み取ることができれば、何をしているのかまで大まかに知ることができる。

「二人とも、まずは学長に挨拶と……いきたいところだが、あいにく今は不在だ。とりあえず、学年主任のところへ――」

「ん! その必要はないですよ。護衛長殿」

先頭を歩いていたランドルフの前に、腫れぼったい唇をした男性がやってきた。
黒シャツに黒ズボンと一色でコーディネートされた彼の腕には名簿のようなモノが抱えられている。

「紹介する。こちらが、学年主任のミチルシィ先生だ」

「オホン。三年の担当をしております、ミチルシィ・エンピです。宜しく、お願い致しますね」

「シルクエッタ・クリーンです。残り三名の臨時講師は明日みょうにち、登校すると思いますので」

「そうですか。して、そちらが例の留学生ですか……んん!!」

学年主任のミチルシィが、何かを精査するかのようにギデオンの周囲をグルッと一周する。
厚い下唇に指先を添え、真剣に考えこんでいるようだった。
若干、性癖が偏っていそうな気もしない主任だ。
ギデオンの身体中に手をかざしている。
まるで、水晶占いの水晶として扱われているようで気持ち悪い。

「ギデ君だったかね? 君、女難の相が出ているね。気をつけなさい、此処には君のような変わり種を求める女生徒は多いからね!」

「僕が留学生だからですか?」

「んん!! 特にに気をつけなさい。アレは、いつでもどこでも目をつけた者の動向を探っているゾ」

「鳥……それは、一体? あと、のど飴たべます?」

「失礼、歳を取るとたんが絡みやすくていけない。鳥について知りたければ後で図書館にでも行けばわかるゾ。それじゃ、私は授業があるから失礼するよ、んん!」

ミチルシィは手を軽く振って去ってゆく。
どうやら、彼はリアクションが変なだけで他意はなさそうだ。

「ボクも、訓練棟に向かうよ。実技講習があるからね」

「分かった。放課後、職員寮の前で集まろう」

シルクエッタとも別々に行動を開始する。

ギデオンにとって一般的な学校というものは、全てが真新しく、別世界を映した何かに見えていた。
修道会に通ってはいたものの、学び舎は教会だけしかなかった。
教会では主に、学問や宗教について学ぶことが多かったが、それでは物足りないと感じていた。
端的に、言ってしまえば刺激が少なかった。

「エィ! ハッ!」渡り廊下に剣を振るう生徒たちの微かな気迫が届く。

今にして思えば、剣技や魔法を学べるのは貴族の特権のようなものだった。
裕福な者であるからこそ、家庭教師をつけたり騎士訓練所に通えたりもした。
貧しい者は何か学ぶどころか、教会すら通う事ができない。

神は平等をうたいながら、民衆は分配された不平等を手に取る。
聖王国の歪な構造。
それは此処に来て顕著けんちょに浮き出てきた。
あたかも、火であぶり出しにされた絵のように、時間が経てば経つほど炎に焼かれ、灰と化してゆく。
今の祖国は、まさに動乱の炎に飲み込まれようとしていた。

「何と言うか……素晴らしい場所だな。ここでは、平民も貴族も分け隔てなく英雄としての資質があれば生徒として認められるそうだ。家柄や品位を重んじるばかりの聖王国では、あり得ないな」

近くで護衛長が呟いた。
ギデオンにむけて発しているのではなく、あくまで独り言としてでだ……。

「なぁ、ランドルフ。どうして僕に手を貸そうとする?」

ギデオンの問いに彼は肩をすくめて続いた。
その視線は彼と真逆の方を向いている。

「さあーな。ただ、借りた恩を返しているだけなんだろうな。そういうのが男であり、騎士としての誇りだと夢みているんだろうよ」

「ランドルフ……その夢、現実にしてみたいと思わないか?」

「お前…………本気で言っているのか!?」

突拍子もない申し出に、ランドルフ自身も知らぬ間にギデオンの方を直視していた。
その瞳は、吸い込まれてしまいそうなほど深く真っすぐな輝きに満たされていた。

「これはギデオンとしてでは無い。ギデとしての頼みだ、僕に力を貸してくれないか! ランドルフ!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...