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七十一話
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ツインポート、ナズィール区。
ギデオンたちを乗せた列車は、予定より一時間遅れで終点に到着した。
足取り重く、車内から降りる治癒師や冒険者たち。
その疲弊した様が魔物襲撃の事実を物語っていた。
真相は伏せていても、事件に巻き込まれた彼らは一連の出来事を知っている。
事後処理を行う共和国軍としても、国内で不必要に事実を公表されても都合が悪いと判断したのだろう。
彼らは解放されず、事件の証人として軍施設で取り調べを受けることとなった。
ギデオンに関しては、最重要人でありながらも軍施設に送られる事はなかった。
どうやら、あの護衛長が軍のお偉方に掛け合ってくれたおかげらしい。
面倒事は避けられたが、面倒は増えた。
当面は護衛長の監視下のもと、彼は行動しなければならない。
とは、言ったものの……ギデオンにとって、キンバリーと対談する機を逃してしまったのは痛恨の痛手だった。
彼女がどうして自分を貶めようとしていたのか?
結局は分からず仕舞い、そして宰相につながる脈も断たれてしまった。
ナズィール到着早々に、事件は暗礁に乗ってしまっていた。
こうなると、もう一つの目的である女神の痕跡を探ることが優先されるが――――
実は、この地区に反応があるそうだ。
情報発信源は依頼主である神なのだから、これは確定している。
ただ、調査を開始する上で決定的な壁にぶち当たってしまった。
エルフの集落から女神が移動した先。
丁度、そこはルヴィウス勇士学校の所在地と重なる。
それが問題だった……。
ギデオンは学校関係者でない以上、立ち入ることが許可されない。
講師として招かれたシルクエッタや付き人の護衛長ならともかく。
部外者である彼は、敷地内に足を踏み入れることすら禁止されている。
だとししても、易々と二人に協力を仰ぐことはできない。
彼らには、女神について話す訳にはいかないからだ。
それが出来るのなら、歩帝斗はギデオン個人のみに依頼したりはしない。
女神が何故、この地に降りたったのか神のみぞ知るところだが、それなりの理由はあるのだろう。
慈愛と平等つかさどる女神が、此処で何を成したのか?
どうしても知らなければならない。
その為には―――――――
「皆様、おはようございます。如何ですか? ナズィールの朝は……えっ? これですか? 魔導四輪という乗り物ですよ。他の皆さまも初めて搭乗する際、同様に驚かれますね。何せ、共和国でも限られた地域でしか流通していませんからね」
朝から、魔導四輪の運転手が饒舌に話してくる。
さすがは国賓待遇。
ルヴィウス勇士学校への登校だけでも、このように立派な専用車両を手配してくれる。
ギデオンは勇士学校に入る為に、鉄道での一件を出しに強硬策を用いた。
ギルドメンバーという立場を利用し、共和国側へ被害者に対しての賠償責任を求めたのだ。
これが受理されるまで三日とかからなかった。
何故ならば、事件の鍵となるキンバリー・カイネンについてギデオンたち聖王国側も調べ上げていたからだ。
ざっと調べただけでも彼女には、百件以上もの余罪があった。
窃盗、誘拐、傷害、死体遺棄、致死罪、違法薬物所持と研究と称し、ありとあらゆる悪事を働いていた。
帝国研究所をクビにされたのも、彼女の行き過ぎた行動が原因だ。
共和国側は、その事を既知していた上で彼女を勇士学校の教職員に採用していた。
彼女が問題を起こせば、その都度もみ消していたのである。
冒険者たちへの賠償に難色を示す共和国政府。
だが、キンバリーの名を挙げた途端、彼らは飼い犬のように大人しくなった。
自分たちでも完全に道を踏み外していることに気づいていたのであろう。
キンバリーが学校職員だったのは、彼にとって塞翁が馬。
つまり、彼女の死という不都合が生じたことで、女神捜索の継続とキンバリーの身辺調査が可能になった。
なんとか次につなげたが、喜んでばかりはいられない。
いくら国の許可が下りたとはいえ、冒険者として校内をうろつけば、悪目立ちしてしまう。
そこで彼は、聖王国の修道生として、この学校に短期留学する事となった。
むろん、そういうテイでの話だ。
調べものが住んだら、さっさとエンデリデ島に戻りたいのがギデオンの本音だ。
「ギデだったら、絶対に似合うと思ったのになぁ~」
「似合う、似合わないの問題じゃない。好みの問題だ、僕にはアレを着こなせる自信はない」
本革のシートに座ったシルクエッタが隣で悪戯っぽく笑みを浮かべていた。
こちらの会話が気になるのか「何事だと」と護衛長も助手席から顔をのぞかせている。
「いや、何でもないぞ。ランドルフ、まだ何も起きていない」
ギデオンにとって、ソレは他愛も無い事にしたかった。
留学生として学校行きが決定した際、シルクエッタが執拗なまでに女装を勧めてきた。
当然ながら、丁重にお断りした。
素性を隠すにも、聖王国ならいざ知れず、共和国では性別まで変える必要はない。
それに、ギデオン自身が女装する己が姿を想像できないからだ。
ともあれ、三人はルヴィウス勇士学校に到着した。
ギデオンたちを乗せた列車は、予定より一時間遅れで終点に到着した。
足取り重く、車内から降りる治癒師や冒険者たち。
その疲弊した様が魔物襲撃の事実を物語っていた。
真相は伏せていても、事件に巻き込まれた彼らは一連の出来事を知っている。
事後処理を行う共和国軍としても、国内で不必要に事実を公表されても都合が悪いと判断したのだろう。
彼らは解放されず、事件の証人として軍施設で取り調べを受けることとなった。
ギデオンに関しては、最重要人でありながらも軍施設に送られる事はなかった。
どうやら、あの護衛長が軍のお偉方に掛け合ってくれたおかげらしい。
面倒事は避けられたが、面倒は増えた。
当面は護衛長の監視下のもと、彼は行動しなければならない。
とは、言ったものの……ギデオンにとって、キンバリーと対談する機を逃してしまったのは痛恨の痛手だった。
彼女がどうして自分を貶めようとしていたのか?
結局は分からず仕舞い、そして宰相につながる脈も断たれてしまった。
ナズィール到着早々に、事件は暗礁に乗ってしまっていた。
こうなると、もう一つの目的である女神の痕跡を探ることが優先されるが――――
実は、この地区に反応があるそうだ。
情報発信源は依頼主である神なのだから、これは確定している。
ただ、調査を開始する上で決定的な壁にぶち当たってしまった。
エルフの集落から女神が移動した先。
丁度、そこはルヴィウス勇士学校の所在地と重なる。
それが問題だった……。
ギデオンは学校関係者でない以上、立ち入ることが許可されない。
講師として招かれたシルクエッタや付き人の護衛長ならともかく。
部外者である彼は、敷地内に足を踏み入れることすら禁止されている。
だとししても、易々と二人に協力を仰ぐことはできない。
彼らには、女神について話す訳にはいかないからだ。
それが出来るのなら、歩帝斗はギデオン個人のみに依頼したりはしない。
女神が何故、この地に降りたったのか神のみぞ知るところだが、それなりの理由はあるのだろう。
慈愛と平等つかさどる女神が、此処で何を成したのか?
どうしても知らなければならない。
その為には―――――――
「皆様、おはようございます。如何ですか? ナズィールの朝は……えっ? これですか? 魔導四輪という乗り物ですよ。他の皆さまも初めて搭乗する際、同様に驚かれますね。何せ、共和国でも限られた地域でしか流通していませんからね」
朝から、魔導四輪の運転手が饒舌に話してくる。
さすがは国賓待遇。
ルヴィウス勇士学校への登校だけでも、このように立派な専用車両を手配してくれる。
ギデオンは勇士学校に入る為に、鉄道での一件を出しに強硬策を用いた。
ギルドメンバーという立場を利用し、共和国側へ被害者に対しての賠償責任を求めたのだ。
これが受理されるまで三日とかからなかった。
何故ならば、事件の鍵となるキンバリー・カイネンについてギデオンたち聖王国側も調べ上げていたからだ。
ざっと調べただけでも彼女には、百件以上もの余罪があった。
窃盗、誘拐、傷害、死体遺棄、致死罪、違法薬物所持と研究と称し、ありとあらゆる悪事を働いていた。
帝国研究所をクビにされたのも、彼女の行き過ぎた行動が原因だ。
共和国側は、その事を既知していた上で彼女を勇士学校の教職員に採用していた。
彼女が問題を起こせば、その都度もみ消していたのである。
冒険者たちへの賠償に難色を示す共和国政府。
だが、キンバリーの名を挙げた途端、彼らは飼い犬のように大人しくなった。
自分たちでも完全に道を踏み外していることに気づいていたのであろう。
キンバリーが学校職員だったのは、彼にとって塞翁が馬。
つまり、彼女の死という不都合が生じたことで、女神捜索の継続とキンバリーの身辺調査が可能になった。
なんとか次につなげたが、喜んでばかりはいられない。
いくら国の許可が下りたとはいえ、冒険者として校内をうろつけば、悪目立ちしてしまう。
そこで彼は、聖王国の修道生として、この学校に短期留学する事となった。
むろん、そういうテイでの話だ。
調べものが住んだら、さっさとエンデリデ島に戻りたいのがギデオンの本音だ。
「ギデだったら、絶対に似合うと思ったのになぁ~」
「似合う、似合わないの問題じゃない。好みの問題だ、僕にはアレを着こなせる自信はない」
本革のシートに座ったシルクエッタが隣で悪戯っぽく笑みを浮かべていた。
こちらの会話が気になるのか「何事だと」と護衛長も助手席から顔をのぞかせている。
「いや、何でもないぞ。ランドルフ、まだ何も起きていない」
ギデオンにとって、ソレは他愛も無い事にしたかった。
留学生として学校行きが決定した際、シルクエッタが執拗なまでに女装を勧めてきた。
当然ながら、丁重にお断りした。
素性を隠すにも、聖王国ならいざ知れず、共和国では性別まで変える必要はない。
それに、ギデオン自身が女装する己が姿を想像できないからだ。
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