異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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七十話

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「かはっ――」

稲穂のように大きく項垂れるアンネリス。
剣の墓標というステージの上で、腕を真っすぐ天に向けて伸ばす。
悲壮感か、それとも生の実感か。
うっとりとした面もちは、どこか自己陶酔しているようにも感じる。

たった独りだけの演目。
彼女一人だけの世界。

たくさんの人々から脚光を浴びていたのに……気づけばまた壁の花。

彼女という人間は常にそうだった。
自身に従わない者は、才能もって屈服させる。
それが常套手段じょうとうしゅだんだ――――

疑似神威……も、彼女の歪んだ願望から産み落とされた禁断の生体術であった。

幼少期からアンネリスは、普通の子供とは異なる慣性をもっていた。
大人たちからは、一風変わった少女として扱われることが多く、誰もその本質に気づく者はいなかった。

彼女は異様なまでに生物を観察した。
野に咲く花であろうとも、朽ちかけた動物の死骸だろうが、興味を持ったモノは四六時中、張りつき徹底して調べ上げた。
結末を見たいが為に、根源に触れたい為に日夜とわず心血を注いでいた。

当人にとっては単なるルーティン、日常の一コマ。
けれど、他者にとっては異常者にしか映らない。
誰も彼女の天賦てんぷの才に気づかなかった。

いつしか、周囲から人が消えた。
実の両親でさえも、気味悪がって敬遠けいえんするほどだった。

何が間違っているのか分からなかった。
自身の奇行を人目から遠避け、常人ぶっても結果変わらない。
他者の態度が変わるのは、ほんの一時だけだ。

幼いながら、アンネリスは気づいてしまった。
間違えているのは自分ではなく、私を理解できない低スペックな人間の方なんだと……。
初めは純粋だった。
純粋に、世界中の人々に自身と同等の知性を与えようとした。

実験結果を探るためのサンプルを用意する必要があった。
サンプルには近所に住む、男の子を選んだ。
とりわけ仲が良かったわけでもない彼は、うってつけの人材だと歓喜したのも束の間――
実験は失敗に終わった。

少年は無頓着過ぎた。
いくら、高い知性を有しても使い方を知らなければ、宝の持ち腐れだ。
彼は、能力の大半を昆虫の研究をする為に活用していた。

何が楽しくて没頭するのか、理解し難く感じた。
けれど、アンネリスの瞳に映る彼の在り様は、いつかの自分そのものだった。
懐かしさと同時に、疎ましさがこみ上げてきた。

以降、彼女は己が才をひけらかす事を目的とし、帝国研究者としての地位を盤石ばんじゃくなモノとした。
人間の超進化という先鋭的な研究分野に目をつけた悪党どもが、すり寄ってきても構わなかった。
それどころか、逆に取り込もうとしていた――――


「残念ながら、ギデオン・グラッセ。私は不死身だ、こんな事ではくたばらないのだよ……特に、君に敗北を喫するわけに……はいかないのだよ」

「はっ!? 僕の事をどこまで知っている? ワイズメル・シオンとはお前らの組織名なのか!?」

「ここで枯れ落ちてゆく、君に教える必要性はぁがはふぃ――――ど、どうふぃてオマエが!?」

アンネリスは不老不死を語る。
得意気になった背後からティムが彼女を抱き留めていた。

「ガはアアァハ――うあ、すま…………ない。ンバリいくぃいい! これで、ずっ……と一緒――だよ」

「よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、私を刺したなぁああああ――――――」

錯乱し激昂する彼女の胸元は再生するどころか依然、穴が開いたままだ。
それもそのばず、穴の中からティムの紅く染まった腕が突き出ている。

「駄目だ。離せティム! 離すんだ……このままではサーキットブレーカーが持たない……」

「もちろんさ。ずっと話たかった……ことが沢山あるんだ。覚えているかい? 子供の頃、今みたいな一面の花畑に二人してよく出かけた――よね。君はつまらそうだったけど、キンバリー……僕はね――――」

「なああああっあ!! ジャマだ!」

樹木にも似た外套からミイラの腕が伸び、ティムの身体を剣で滅多刺しにし始めた。
主の制御を失ったであろう、ソレは手当たり次第に周囲のモノを破壊している。

「ティム!!」

制止させる隙もなく、彼の惨状を見届けることとなった。
動力源を無くした怪物に後は残されていなかった。
鮮血を滴り落としながら、やがては沈黙してしまった。

ティムの手は、それでも尚、彼女を離そうとはしなかった。
片方は身体を刺しているが、もう一方は彼女の手を握りしめていた。

二人の最期にギデオンは、やるせなさを感じる一方で――

「なぁ、ティム。この女のことを今、キンバリーって呼んだよな?」確かな焦燥感に襲われていた。

「迂闊だった……個人のステータス開示を避けていたのが、裏目に出た。クッソー! こんな事なら、もっと早く調べておくべきだった……」

嫌な予感は見事なまでに的中した。
ギデオンがひらいたアンネリスのステータス画面。
そこに表記されていたのは、キンバリー・カイネンという別の名前だった。
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