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六十九話
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畏れを知らぬ、冒涜を吐き出すアンネリス。
どこまでが本意かは当人しか知らない。
しかしながら、今の彼女の姿を目にして誰が狂言といえようか……。
ワイズメル・シオンという名称とともに、人類改変の計画は着実に進行していると認めざるを得ない。
どこか神威に類似している。
ギデオンは彼女の容姿から、薄っすらと感じ取っていた。
似てはいるが……形状が安定せず、ミイラの外套はすぐにでも崩れ落ちてしまいそうだった。
欠陥だらけな異形の実験体は、さしずめ神威の下位互換的な能力なのだろう。
もしも、これが完成系に到達すれば人類は神と等しい力を得る。
想像が現実となった時、この力は間違いなく悪用され世界に終焉をもたらす。
「アンネリス、自分が何をしているのか理解しているのか? それとも、ティムのように自我を奪われ誰かに操られているのか?」
「アンネリス? その個体名は存在しない。おおかた、疑似人格より呼称された名だろう」
「ならば、今の人格が本物のお前だというのだな!?」
「だとしたら……どう出るんだい? そういう君は本物なのかな? 試してあげるよ、ティム!」
「があがっががががが……」
激しく、全身を痙攣させながらティムジャンピーが立ちはだかる。
ギデオンにとって、彼とは最悪の相性だった。
彼が昆虫を使役するテイマーだからだ。
ティムを中心に何もない空間から小型の魔法陣が多数出現する。
蒼白の図形から、ウォリアーワスプの大群が一斉に放たれた。
漆黒に染まる、その身は金属ような鈍い光沢を帯びている。
「くっ……動きが素早い。あんなモノに刺されたら、たまったものじゃないぞ」
普段なら、魔銃を的確に扱い場をやり過ごす。
他の魔物だったら冷静沈着にできるはず行動が、虫になった途端、覚束なくなる。
銃を乱発しては外し、また乱発する。
その繰り返しだった……気づけばウォリアーワスプの群れに彼は包囲されてしまった。
「マズイ……不味いぞ」
たまらず、背後にシルクエッタたちが来ていないか?
確認するも二人は剣の墓標に行く手を阻まれて悪戦苦闘している。
残された方法は、使役しているティムの正気を取り戻して解除させるしかない。
可能性は低くとも、そこに賭けるしかなかった。
「ティム! ティムジャンピー、聞こえるか! いい加減に目を覚ませ――!! このままだと、アンネリスと何も会話できずに終わってしまうんだぞ!! 例え、自我を無くしてしまっても彼女のことだけは覚えているはずだ! なぁ、そうだろう?」
説得の甲斐もなく、ティムは興味なさげに主の元へと下がっていく。
当然ながら、ワスプの使役は継続したままだ。
このままだと、ギデオンは蟲に全身をコーティングされ、見るも無惨な肉塊にされてしまう。
「スコル、炎は出せるか? ……やはり、魔力不足か。もう、後がないぞ!!!」
猛毒の針を突き出してくるワスプに対応できず、彼は身を屈める。
無駄なことだとしても、無意味ではない。
なるべく、刺される箇所を減らしたいと願う人間の信念。
それこそが、自然とこの姿勢を導き出した。
ヒュン! ヒュルル―――ン!
ギデオンの背中から、何かが飛び出し空を切り裂いた。
鞭のようにしなやかに舞い、ワスプたちを一網打尽にビシバシと叩き落としている。
どんなに速くとも、どれほど小回りが利いても、鞭の攻撃からは逃れられない。
昆虫よりも彼女の蔦の方が俊敏性で勝る。
ほんの一時で、あれほどいたウォリアーワスプの数は半減した。
その上、動きが散漫になって来た。
カバンを下ろして早速中身を確認する。
蕾だった、それはわずかに開きかけている。
その合間から、つぶらな瞳がギデオンの方をマジマジと見詰めていた。
「うにゅぅ~……」
蕾の中で小さく泣く彼女は、まだ眠そうだった。
「助かったよ」と彼は緑の表皮を優しく撫でた。
蔦を警戒して、身動きが取れなくなっているウォリアーワスプ。
彼らを他所に再度、アンネリスとティムを追い込んでゆく。
「君たち、出番だよ。ここで役に立ってくれないと……」
急接近してくるギデオンに、危機感を抱いたのか? アンネリスはまたもや、肉壁で防御陣を張った。
走りながらギデオンは告げた「もう、それは対策済みだ」
魔銃ガルムから、三発の魔力弾が発射された。
皆、すべて角度や方向がまばらだ。
これでは、敵たる彼女に銃撃が届かないのは、疑う余地もない。
「苦し紛れに撃っても、私には当たらないよ」
「それは、どうかな?」
外れた魔力弾が剣の墓標に接触し起動を変えた。
一発だけではない――
残り二発も兵士の鎧や刃と交わり、次のルートを切り拓いていく。
「跳弾! 驚かせてくれる。けど……当たらなければどうってことはなっ―――――」
勢いよく魔力弾同士が弾け飛ぶ。
すでに回避行動を取り終えていたアンネリスにとっては考えてもみない誤算だった。
弾け飛んだ弾丸一つが彼女の脇をすり抜け、最後の一つとぶつかる。
反射したソレは、ミイラの外套を貫き、彼女の胸に風穴を開けた。
どこまでが本意かは当人しか知らない。
しかしながら、今の彼女の姿を目にして誰が狂言といえようか……。
ワイズメル・シオンという名称とともに、人類改変の計画は着実に進行していると認めざるを得ない。
どこか神威に類似している。
ギデオンは彼女の容姿から、薄っすらと感じ取っていた。
似てはいるが……形状が安定せず、ミイラの外套はすぐにでも崩れ落ちてしまいそうだった。
欠陥だらけな異形の実験体は、さしずめ神威の下位互換的な能力なのだろう。
もしも、これが完成系に到達すれば人類は神と等しい力を得る。
想像が現実となった時、この力は間違いなく悪用され世界に終焉をもたらす。
「アンネリス、自分が何をしているのか理解しているのか? それとも、ティムのように自我を奪われ誰かに操られているのか?」
「アンネリス? その個体名は存在しない。おおかた、疑似人格より呼称された名だろう」
「ならば、今の人格が本物のお前だというのだな!?」
「だとしたら……どう出るんだい? そういう君は本物なのかな? 試してあげるよ、ティム!」
「があがっががががが……」
激しく、全身を痙攣させながらティムジャンピーが立ちはだかる。
ギデオンにとって、彼とは最悪の相性だった。
彼が昆虫を使役するテイマーだからだ。
ティムを中心に何もない空間から小型の魔法陣が多数出現する。
蒼白の図形から、ウォリアーワスプの大群が一斉に放たれた。
漆黒に染まる、その身は金属ような鈍い光沢を帯びている。
「くっ……動きが素早い。あんなモノに刺されたら、たまったものじゃないぞ」
普段なら、魔銃を的確に扱い場をやり過ごす。
他の魔物だったら冷静沈着にできるはず行動が、虫になった途端、覚束なくなる。
銃を乱発しては外し、また乱発する。
その繰り返しだった……気づけばウォリアーワスプの群れに彼は包囲されてしまった。
「マズイ……不味いぞ」
たまらず、背後にシルクエッタたちが来ていないか?
確認するも二人は剣の墓標に行く手を阻まれて悪戦苦闘している。
残された方法は、使役しているティムの正気を取り戻して解除させるしかない。
可能性は低くとも、そこに賭けるしかなかった。
「ティム! ティムジャンピー、聞こえるか! いい加減に目を覚ませ――!! このままだと、アンネリスと何も会話できずに終わってしまうんだぞ!! 例え、自我を無くしてしまっても彼女のことだけは覚えているはずだ! なぁ、そうだろう?」
説得の甲斐もなく、ティムは興味なさげに主の元へと下がっていく。
当然ながら、ワスプの使役は継続したままだ。
このままだと、ギデオンは蟲に全身をコーティングされ、見るも無惨な肉塊にされてしまう。
「スコル、炎は出せるか? ……やはり、魔力不足か。もう、後がないぞ!!!」
猛毒の針を突き出してくるワスプに対応できず、彼は身を屈める。
無駄なことだとしても、無意味ではない。
なるべく、刺される箇所を減らしたいと願う人間の信念。
それこそが、自然とこの姿勢を導き出した。
ヒュン! ヒュルル―――ン!
ギデオンの背中から、何かが飛び出し空を切り裂いた。
鞭のようにしなやかに舞い、ワスプたちを一網打尽にビシバシと叩き落としている。
どんなに速くとも、どれほど小回りが利いても、鞭の攻撃からは逃れられない。
昆虫よりも彼女の蔦の方が俊敏性で勝る。
ほんの一時で、あれほどいたウォリアーワスプの数は半減した。
その上、動きが散漫になって来た。
カバンを下ろして早速中身を確認する。
蕾だった、それはわずかに開きかけている。
その合間から、つぶらな瞳がギデオンの方をマジマジと見詰めていた。
「うにゅぅ~……」
蕾の中で小さく泣く彼女は、まだ眠そうだった。
「助かったよ」と彼は緑の表皮を優しく撫でた。
蔦を警戒して、身動きが取れなくなっているウォリアーワスプ。
彼らを他所に再度、アンネリスとティムを追い込んでゆく。
「君たち、出番だよ。ここで役に立ってくれないと……」
急接近してくるギデオンに、危機感を抱いたのか? アンネリスはまたもや、肉壁で防御陣を張った。
走りながらギデオンは告げた「もう、それは対策済みだ」
魔銃ガルムから、三発の魔力弾が発射された。
皆、すべて角度や方向がまばらだ。
これでは、敵たる彼女に銃撃が届かないのは、疑う余地もない。
「苦し紛れに撃っても、私には当たらないよ」
「それは、どうかな?」
外れた魔力弾が剣の墓標に接触し起動を変えた。
一発だけではない――
残り二発も兵士の鎧や刃と交わり、次のルートを切り拓いていく。
「跳弾! 驚かせてくれる。けど……当たらなければどうってことはなっ―――――」
勢いよく魔力弾同士が弾け飛ぶ。
すでに回避行動を取り終えていたアンネリスにとっては考えてもみない誤算だった。
弾け飛んだ弾丸一つが彼女の脇をすり抜け、最後の一つとぶつかる。
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