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六十八話
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魔装砲バハムートの一撃のより、あえなく決着はついた。
そう思った、矢先……。
事態は終息を迎えることなく、継続しより苛烈さをました。
この騒ぎの中枢だと見越していた花頭の怪物を撃退してもなお、発狂した彼らのデスパレードは止まない。
自我をなくした人々は倒れたままの怪物を護るよう囲い、怪物の姿を隠す。
一体、彼らは何百人いるのだろうか?
目の前に怒涛のごとく押し寄せてきた肉の防壁をギデオンは直立し静観していた。
「何をボサッとしている!? 敵は目の前まで来ているんだぞ!!」
鋭い、突き連撃が刃の盾となり、邪悪なるものを撃ち滅ぼしてゆく。
多数とは言っても、正気を失った群れは、そこまで頑強なわけではない。
一体ずつなら、剣圧に乗せて彼らの進行を食い止められる。
粉骨砕身。
若き、護衛長の剣技が冴えわたる。
最前列のいるギデオンの隣に立ち、あたかも己が力を誇示するかのように彼は剣を振るっていた。
それでも、形勢逆転とはいかない。
やはり、敵数の桁が違い過ぎる。
ギデオンも制圧射撃を繰り出すが、終わりは見えてこない。
「ギデオン・グラッセ、どの敵を狙えば、コイツらは大人しくなるんだ!?」
「全部、倒すまで終わりがあるようには見ない。相手の行動理念が分からない以上は、手の施しようはない」
「ウソだろう……このままだと、こちらの体力がもたんぞ! 折を見て撤退するにしても前に出過ぎて身動きが取れないぞ」
「お前が勝手にここまで出てきたんだろっ! 僕をあてにするのは筋違いだ」
二人の若者に焦りの色が見えてきた。
混戦が続く中で、既に何を目標として戦っているのか分からなくなっていた。
先が見えない戦闘は、疲弊する度合いも一段と強くなる。
これ以上、持久戦に持ち込むのは得策ではない。
「ホーリーソング!!」
眩い光球がギデオンと護衛長の合間を通過し、敵の頭上を照らす。
オルガンを奏でたような大らかな音が周囲に響き渡り、暖かな光が地上に降り注いでくる。
あれだけ、絶えず動いていた集団が、この光を浴びている時だけは怯み沈黙していた。
その聖なる魔法――聖法を放った者は、身の丈はあるほどの長い杖を握っていた。
シルクエッタだった。
彼女はギデオンたちの応援に駆けつけてくれた。
「シルクエッタ嬢!」
護衛長の声が明るくなった。
よほど、彼女の魔法を頼りにしているのだろう。
瞳に活力が戻っている。
「二人とも、気をつけて。ホーリーソングは一定時間しか持続しないから、さぁ! 今のうちに撤退するよ」
「シルクエッタ。その前にもう一度、同じ魔法を使ってくれるか?」
「できなくはないけど、どうして? せいぜい、彼らの足止めにしかならないよ」
「これを、飲んで試してくれ!」
ギデオンはシルクエッタに蜜酒の瓶を渡した。
これが現状、彼が所持している最後の一口だった。
すでにスコルには、飲ませてしまっている。
蜜酒で強化するのは一日、一度が限界だ。
蜜酒の効力は凄まじい。
二口の飲ませてしまうと、飲んだ相手の感覚といったモノ、全てが異常をきたす。
それは、誰でも同じだ。
例外があるとすれば、酒の影響を受けないギデオンと神々ぐらいだ。
「ミードだね。美味しいけど……これで聖法を唱えればいいんだよね?」
ゴクリと蜜酒を飲み干した、シルクエッタが賢者の聖杖を天にかざした。
途端、彼女の全身から魔力が吹き荒れ、杖の先端に集束していく。
「貴様! シルクエッタ嬢に何をした?」護衛長が、訝しげに睨んでいた。
「いいから、大人しく目を閉じていろ! さっきのヤツとは比較にならない一撃がくるぞ!!」
「ホーリーソング!!」シルクエッタが聖法を詠唱した。
同時に上空では、恒星のごとく強烈な光を放出する、超特大の球体が産み落とされた。
ヒナゲシが咲き狂う大地を丸飲みし、光は不浄なモノを一気に清浄化してゆく。
光の中で、人々は次々にその場へと倒れて込んでゆく。
微動だにせず、地上でうずくまった彼らの表情は、苦痛から解放され安らいでいるかのようにも見える。
その一番、奥で微かに人影が揺れ動く。
「見つけたぞ。次は仕留める」
ギデオンの回し蹴りが、アンネリスの側頭部を捉えた。
若干、身体をのけ反らせると、そのままの姿勢で彼女はニッと笑った。
まったく効いていない……。
それもそのはずだ、彼女は花のミイラと同化していた。
ローブを着る感覚でミイラをまとうアンネリスという女は不気味な存在でしかなかった。
「貴様は、何者だ!? 何故、人々を巻き込んでまで惨事を引き起こそうとする?」
「ふむふむ。その返答は組織としては有用性に乏しいな。惨事は結果だ、目的ではない」
アンネリスの回答に、ギデオンが顔をしかめた。
話をする気があるのか、疑わしくなるほどに彼女の口調はらしからぬモノになっている。
違和感だらけの品性。
妙な知的さ。
まるで、別人と会話しているような感じだ。
「ふざけているのか!? 僕達を襲った理由ぐらいあるだろう!」
「理由か……強いて挙げるなら、ワイズメル・シオンとしての活動だよ。ああ、それだと君には分からないね。要約するとだね―――実験? 人の中から神を創り出す為のね……」
そう思った、矢先……。
事態は終息を迎えることなく、継続しより苛烈さをました。
この騒ぎの中枢だと見越していた花頭の怪物を撃退してもなお、発狂した彼らのデスパレードは止まない。
自我をなくした人々は倒れたままの怪物を護るよう囲い、怪物の姿を隠す。
一体、彼らは何百人いるのだろうか?
目の前に怒涛のごとく押し寄せてきた肉の防壁をギデオンは直立し静観していた。
「何をボサッとしている!? 敵は目の前まで来ているんだぞ!!」
鋭い、突き連撃が刃の盾となり、邪悪なるものを撃ち滅ぼしてゆく。
多数とは言っても、正気を失った群れは、そこまで頑強なわけではない。
一体ずつなら、剣圧に乗せて彼らの進行を食い止められる。
粉骨砕身。
若き、護衛長の剣技が冴えわたる。
最前列のいるギデオンの隣に立ち、あたかも己が力を誇示するかのように彼は剣を振るっていた。
それでも、形勢逆転とはいかない。
やはり、敵数の桁が違い過ぎる。
ギデオンも制圧射撃を繰り出すが、終わりは見えてこない。
「ギデオン・グラッセ、どの敵を狙えば、コイツらは大人しくなるんだ!?」
「全部、倒すまで終わりがあるようには見ない。相手の行動理念が分からない以上は、手の施しようはない」
「ウソだろう……このままだと、こちらの体力がもたんぞ! 折を見て撤退するにしても前に出過ぎて身動きが取れないぞ」
「お前が勝手にここまで出てきたんだろっ! 僕をあてにするのは筋違いだ」
二人の若者に焦りの色が見えてきた。
混戦が続く中で、既に何を目標として戦っているのか分からなくなっていた。
先が見えない戦闘は、疲弊する度合いも一段と強くなる。
これ以上、持久戦に持ち込むのは得策ではない。
「ホーリーソング!!」
眩い光球がギデオンと護衛長の合間を通過し、敵の頭上を照らす。
オルガンを奏でたような大らかな音が周囲に響き渡り、暖かな光が地上に降り注いでくる。
あれだけ、絶えず動いていた集団が、この光を浴びている時だけは怯み沈黙していた。
その聖なる魔法――聖法を放った者は、身の丈はあるほどの長い杖を握っていた。
シルクエッタだった。
彼女はギデオンたちの応援に駆けつけてくれた。
「シルクエッタ嬢!」
護衛長の声が明るくなった。
よほど、彼女の魔法を頼りにしているのだろう。
瞳に活力が戻っている。
「二人とも、気をつけて。ホーリーソングは一定時間しか持続しないから、さぁ! 今のうちに撤退するよ」
「シルクエッタ。その前にもう一度、同じ魔法を使ってくれるか?」
「できなくはないけど、どうして? せいぜい、彼らの足止めにしかならないよ」
「これを、飲んで試してくれ!」
ギデオンはシルクエッタに蜜酒の瓶を渡した。
これが現状、彼が所持している最後の一口だった。
すでにスコルには、飲ませてしまっている。
蜜酒で強化するのは一日、一度が限界だ。
蜜酒の効力は凄まじい。
二口の飲ませてしまうと、飲んだ相手の感覚といったモノ、全てが異常をきたす。
それは、誰でも同じだ。
例外があるとすれば、酒の影響を受けないギデオンと神々ぐらいだ。
「ミードだね。美味しいけど……これで聖法を唱えればいいんだよね?」
ゴクリと蜜酒を飲み干した、シルクエッタが賢者の聖杖を天にかざした。
途端、彼女の全身から魔力が吹き荒れ、杖の先端に集束していく。
「貴様! シルクエッタ嬢に何をした?」護衛長が、訝しげに睨んでいた。
「いいから、大人しく目を閉じていろ! さっきのヤツとは比較にならない一撃がくるぞ!!」
「ホーリーソング!!」シルクエッタが聖法を詠唱した。
同時に上空では、恒星のごとく強烈な光を放出する、超特大の球体が産み落とされた。
ヒナゲシが咲き狂う大地を丸飲みし、光は不浄なモノを一気に清浄化してゆく。
光の中で、人々は次々にその場へと倒れて込んでゆく。
微動だにせず、地上でうずくまった彼らの表情は、苦痛から解放され安らいでいるかのようにも見える。
その一番、奥で微かに人影が揺れ動く。
「見つけたぞ。次は仕留める」
ギデオンの回し蹴りが、アンネリスの側頭部を捉えた。
若干、身体をのけ反らせると、そのままの姿勢で彼女はニッと笑った。
まったく効いていない……。
それもそのはずだ、彼女は花のミイラと同化していた。
ローブを着る感覚でミイラをまとうアンネリスという女は不気味な存在でしかなかった。
「貴様は、何者だ!? 何故、人々を巻き込んでまで惨事を引き起こそうとする?」
「ふむふむ。その返答は組織としては有用性に乏しいな。惨事は結果だ、目的ではない」
アンネリスの回答に、ギデオンが顔をしかめた。
話をする気があるのか、疑わしくなるほどに彼女の口調はらしからぬモノになっている。
違和感だらけの品性。
妙な知的さ。
まるで、別人と会話しているような感じだ。
「ふざけているのか!? 僕達を襲った理由ぐらいあるだろう!」
「理由か……強いて挙げるなら、ワイズメル・シオンとしての活動だよ。ああ、それだと君には分からないね。要約するとだね―――実験? 人の中から神を創り出す為のね……」
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