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六十四話
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大陸横断列車――――その乗り物の機構を開発し世に送り出したのは最初の十人の一人だという。
最初の十人とは何か?
それは、現時点で記録されている最初の異世界転移者、カステラ人である。
少なくとも千年前には、このアルテシオンの地に降り立ったとされている。
彼らは不老不死の力を得て、今も尚、この世界のどこかで存命しているとされている。
不滅のシンボル。久遠の象徴。
最初の十人が何処からやってきたのか、知る者はほとんどいない。
今となっては、神話のみで登場する人物でしかない。
そんな彼らがもたらした技術は、古代アルテシオンにおいては、オーバーテクノロジーであり実用不可とされた。
こんにちに至るまでの長い年月を経て、この世界の人々は、ようやくその一歩に近づけた。
ワイルドメアー号も、そのうちの一つ。
皆で積み上げてきた技術の結晶である。
時速80マイルの流れの中、ギデオンは手に汗を握ることになった。
彼女に対して、シナリオは何一つ練ってはいなかった。
それよりも、このアンネリスという女がどうして自分のところに来てしまったのか?
唐突な変化に焦りを感じていた。
「いきなりでなんだけど、アンタに聞きたいことがあるんだけど?」
「何でしょう? 僕に答えられる事でしたら……なんなりと」
「その歯が浮くような甘ったるいセリフ、ヤメテくんない? 私らに対する当てつけかよ……まぁ、いいや。アンタん家、アンティークがたくさん置いてあるって言ったよな。その中に、二匹の龍が絡み合っている横笛みたいなモノがなかったか?」
「龍ですか……」
ギデオンは口元に親指をあてて、わざと長考するフリをしてみせた。
アンティーク云々が作り話である以上、そんな物は知る由もない。
ただ、知らないと即答すれば目の前で睨みを利かせている、この女が疑ってくる可能性がある。
不測の事態に備え、それなりの誠意を見せておかなければならない。
「あれ? 誠意って何だったっけかな……」彼なりに思考の矛盾に悩んでいるようだ。
「おい! 聞いてんの?」
「も、勿論です。残念ですが、家には龍のフルートはなかったかと」
「……無いか。変なこと聞いて悪かったな」
「お構いなく、これからナズィール区に向かうまでの間、皆さんと行動をともにするんです。それぐらいはね」
正面で気落ちするアンネリスに、無難な言葉をかける。
彼らを黙らせるという、目的はどこへやら……。
これで、この女から解放されるとギデオンは果実酒が入った革袋を取り出し口をつけた。
「ねぇ、私にも一口ちょうだいよ」
ギデオンの表情が一瞬、固まった。
話は既に終えたのに、依然としてアンネリスはそこを動こうとしない。
無言で革袋を手渡すと、彼女はゴクゴクと喉を鳴らしながら豪快に飲んでいた。
「なんだ、コレぇ!! メッチャ、美味いんだけど!?」若干、興奮気味にアンネリスが叫んだ。
「ただの、葡萄酒ですが?」
「いやー、これ共和国産じゃないでしょ!? 此処のワインは味が乏しいつーか、酸っぱいだけ。香りも味わいもあったもんじゃない」
「そういうモノなんですか? ところで……そろそろ戻らないとツレの方々が心配するんじゃありませんか?」
「ああ、アイツらね……」
三人の話を持ち出した途端、彼女は顔をしかめた。
含みのある一言と共に、再び革袋に口をつける。
返答がくるまでの間、ギデオンは黙って窓の外の景色を眺めていた。
「私の事、サイテーな奴だと思ったしょ? まぁ、実際そーだし、否定できんけど。タダさー、ぶっちゃけアイツらといても面白くないわけー。そこんとこ、どうよ!?」
緊急事態が発生した。
真っ昼間から葡萄酒を一気に飲んだせいで酔いが回ったらしい。
アンネリスが絡み酒状態に陥ってしまった。
次から次へと出てくる不平、不満。
信じ難いほどの毒舌には、ギデオンでさえも心底ドン引きせざるを得なかった。
そのツレはというと、彼女が騒がしくし出したのを皮切りに大人しくなってしまった。
どこぞで見たような光景だが、あの時とは全然チガウ。
「えっ――? どうして、ティムを弄るのかって? だってーさぁ! アイツ、いつもウジウジしてるじゃん。何か、ドンくさいし、マイケルの足も臭いし。昔はさー、あんなんじゃなかったのに……いつの間にか、周りの顔色ばかりうかがってヘコヘコしやがって――見ていてイラッとすんだよね、マイケルの足が臭いしぃ。そうそう知ってるぅ? アイツのフルネーム、ティムジャンピーっていうの! ジャンピーだよ! ジャンピー、アッハハアア……ウケるわ……」
言いたい事だけ言うと、アンネリスは寝息を立てて眠ってしまった。
彼女たちが何者で、どのような関係なのかどうでもいいし、知りたくもない。
ただただ、時間を無駄に費やしただけだ。
ギデオンは無表情のまま彼女の耳元で囁いた。
「誰もがお前の味方だと思うなよ」と。
愚かにもアンネリスは、彼を激昂させてしまった。
席を立つと彼は、通路隣りにいたティムジャンピーの腕を掴んだ。
最初の十人とは何か?
それは、現時点で記録されている最初の異世界転移者、カステラ人である。
少なくとも千年前には、このアルテシオンの地に降り立ったとされている。
彼らは不老不死の力を得て、今も尚、この世界のどこかで存命しているとされている。
不滅のシンボル。久遠の象徴。
最初の十人が何処からやってきたのか、知る者はほとんどいない。
今となっては、神話のみで登場する人物でしかない。
そんな彼らがもたらした技術は、古代アルテシオンにおいては、オーバーテクノロジーであり実用不可とされた。
こんにちに至るまでの長い年月を経て、この世界の人々は、ようやくその一歩に近づけた。
ワイルドメアー号も、そのうちの一つ。
皆で積み上げてきた技術の結晶である。
時速80マイルの流れの中、ギデオンは手に汗を握ることになった。
彼女に対して、シナリオは何一つ練ってはいなかった。
それよりも、このアンネリスという女がどうして自分のところに来てしまったのか?
唐突な変化に焦りを感じていた。
「いきなりでなんだけど、アンタに聞きたいことがあるんだけど?」
「何でしょう? 僕に答えられる事でしたら……なんなりと」
「その歯が浮くような甘ったるいセリフ、ヤメテくんない? 私らに対する当てつけかよ……まぁ、いいや。アンタん家、アンティークがたくさん置いてあるって言ったよな。その中に、二匹の龍が絡み合っている横笛みたいなモノがなかったか?」
「龍ですか……」
ギデオンは口元に親指をあてて、わざと長考するフリをしてみせた。
アンティーク云々が作り話である以上、そんな物は知る由もない。
ただ、知らないと即答すれば目の前で睨みを利かせている、この女が疑ってくる可能性がある。
不測の事態に備え、それなりの誠意を見せておかなければならない。
「あれ? 誠意って何だったっけかな……」彼なりに思考の矛盾に悩んでいるようだ。
「おい! 聞いてんの?」
「も、勿論です。残念ですが、家には龍のフルートはなかったかと」
「……無いか。変なこと聞いて悪かったな」
「お構いなく、これからナズィール区に向かうまでの間、皆さんと行動をともにするんです。それぐらいはね」
正面で気落ちするアンネリスに、無難な言葉をかける。
彼らを黙らせるという、目的はどこへやら……。
これで、この女から解放されるとギデオンは果実酒が入った革袋を取り出し口をつけた。
「ねぇ、私にも一口ちょうだいよ」
ギデオンの表情が一瞬、固まった。
話は既に終えたのに、依然としてアンネリスはそこを動こうとしない。
無言で革袋を手渡すと、彼女はゴクゴクと喉を鳴らしながら豪快に飲んでいた。
「なんだ、コレぇ!! メッチャ、美味いんだけど!?」若干、興奮気味にアンネリスが叫んだ。
「ただの、葡萄酒ですが?」
「いやー、これ共和国産じゃないでしょ!? 此処のワインは味が乏しいつーか、酸っぱいだけ。香りも味わいもあったもんじゃない」
「そういうモノなんですか? ところで……そろそろ戻らないとツレの方々が心配するんじゃありませんか?」
「ああ、アイツらね……」
三人の話を持ち出した途端、彼女は顔をしかめた。
含みのある一言と共に、再び革袋に口をつける。
返答がくるまでの間、ギデオンは黙って窓の外の景色を眺めていた。
「私の事、サイテーな奴だと思ったしょ? まぁ、実際そーだし、否定できんけど。タダさー、ぶっちゃけアイツらといても面白くないわけー。そこんとこ、どうよ!?」
緊急事態が発生した。
真っ昼間から葡萄酒を一気に飲んだせいで酔いが回ったらしい。
アンネリスが絡み酒状態に陥ってしまった。
次から次へと出てくる不平、不満。
信じ難いほどの毒舌には、ギデオンでさえも心底ドン引きせざるを得なかった。
そのツレはというと、彼女が騒がしくし出したのを皮切りに大人しくなってしまった。
どこぞで見たような光景だが、あの時とは全然チガウ。
「えっ――? どうして、ティムを弄るのかって? だってーさぁ! アイツ、いつもウジウジしてるじゃん。何か、ドンくさいし、マイケルの足も臭いし。昔はさー、あんなんじゃなかったのに……いつの間にか、周りの顔色ばかりうかがってヘコヘコしやがって――見ていてイラッとすんだよね、マイケルの足が臭いしぃ。そうそう知ってるぅ? アイツのフルネーム、ティムジャンピーっていうの! ジャンピーだよ! ジャンピー、アッハハアア……ウケるわ……」
言いたい事だけ言うと、アンネリスは寝息を立てて眠ってしまった。
彼女たちが何者で、どのような関係なのかどうでもいいし、知りたくもない。
ただただ、時間を無駄に費やしただけだ。
ギデオンは無表情のまま彼女の耳元で囁いた。
「誰もがお前の味方だと思うなよ」と。
愚かにもアンネリスは、彼を激昂させてしまった。
席を立つと彼は、通路隣りにいたティムジャンピーの腕を掴んだ。
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