異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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六十二話

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「本日、9時半きゅうさんまるにて蒸気機関ワイルドメアー号は当駅を出発する。それまで、各自準備を怠らぬように! いいな!」

共和国軍、兵長の号令が駅の構内に反響する。
早朝から、集合した冒険者たちはどこかガラの悪い連中が多かった。
内半分は重たいまぶたを手で擦りながら適当な相槌を打つ。
もう半分は、周囲と会話するのに夢中で話すら聞いていない。

それもそのはずだ。
共和国軍は、都市部や聖王国首都の大規模なギルドに対して、護衛依頼を申請していなかった。
無駄な出費をはぶくために、片田舎や辺境のギルドのみを対象に募集をかけたのだ。
軍の行いはそれだけでギルド規約に違反する。
従来ならば、依頼を限定的に出すのは禁止されている。
お咎めなしなのは、国家権力がなせる力技だ。

共和国軍としても内々で解決したいのは山々だろう。
その想いとは裏腹に、彼らがギルドを頼り応援を要請しなければならないのは、それなりの理由がある。
ギデオンはその辺り事情を薄々と把握していた。
だが、依頼主が鉄道会社ではなかったのは正直、面を喰らった。
知っていたら、この手の依頼は引き受けなかった。

これは戦場に武器や弾薬、その他諸々のを運ぶための輸送列車だ。
場合によっては、人材そのものが荷だったりもする。
どうやらシルクエッタたち、治癒師一向もこの列車に搭乗するようだ。
護衛がついているのは、道中の危険から彼女たちを守る為のモノだろう。

汽車が発車するまでの隙間時間。
手配された席に背負っていたカバンを下ろすとギデオンはおもむろに中を開いた。
蜜酒の入った瓶を手にして、中へと注ぎ込む。
そこには、鉢植えに入ったアルラウネのつぼみがあった。
こうして毎日、一度は蜜酒を与えて彼女の成長を促している。
なかなか目覚めてくれないのが、気がかかりではある。
さすがに、急速に成長するほど都合良くとはいかないのだろう。
実にもどかしくもあるが、その分成長するのが楽しみでもある。


「おら! 薄ノロ!! さっさと俺様たちの席を探せや――」

出発の時刻が迫っていた。
その頃になると、他の冒険者たちも列車の中に乗り込んできた。
今回、集まった冒険者はざっと数えて五十人ぐらいはいる。

因みに、前から順に一両目は共和国軍兵士。
二両目がシルクエッタたち治癒師と護衛騎士たち。
三両、四両は貨物倉庫。
そして、この五両目が冒険者用に用意された車両である。

一車両につき定員八十名、まず席が足りなくなる心配はない。
問題があるとすれば、傍にいる連中のモラルの低さだ。

「ったくよぉー、俺様たちは荷物以下かよ。軍人てのは、本当にイケ好かない奴らばかりだぜ!!」やけに偉そうな物言いをするリーダー格の男。

「そうそう! 俺たちに頼らなければ、なぁーんもできないくせにな」いかにも調子だけは良さそうな取り巻きの男。

「大体、鉄道に魔物が出るからってビビりすぎなんだよ! お前もそう思うよね? ティム!」紅一点、女の声もする。

「そ……そうだね。僕らがいれば怖いものなしさ!」その中心には彼らの玩具がいた。

「おっ、言うねぇ。そんじゃ、窓を全開にして箱乗りしてみようか!? 勿論、上は脱ぎなよ」

女は弄り役の男に、無茶苦茶な要求をする。
さ晴らしつもりなのだろうか?
まったく持って、他の人たちの迷惑など考えてもない。

「えええっ!! そ、そんな事したら風を引いちゃう……」

「ん? ああ!? なんだと! ティム、ずいぶんとシラケさせてくれるじゃねぇか?」

嫌がる彼に、リーダー格の男が凄んでいる。
そこを畳み掛けるように残りの二人がはやし立てる。

「でもよ、俺たちは知っているぜ。お前はやればできる子だってな! ギャハハハハッ――――」

「そうそう、アタイら、アンタには期待しているんだからさぁ~」

正直、ギデオンにとって彼らが何者で、どのような関係にあるのかは微塵も興味がなかった。
ただ、うるさい!
はやく、黙れ! とつい、苛ついてしまう。

四人組の会話に不快感を示しているのは彼だけではない。
自分たちだけが良ければ、それでいいという態度は周囲の冒険者たちからも反感を買う流れになっていた。
それでも、彼らはプロだ。
こうしたトラブルに一々、私情を挟んでいてはキリがないという事をよく理解している。
弄られている者が助けを求めない以上、誰も動くことはない。
何より、今は任務中だ。
ここで余計な真似をして言い争うことになれば、後の仕事に差し支えが生じるかもしれない。
彼らの判断は冒険者として、極めて的確だった。

ティムと呼ばれている男は女の言うとおり上着を脱ぎだしていた。
彼らの動向を探るつもりはギデオンに全くない。
通路を挟んで向かい側の席に彼らがいるから、どうして映ってしまう。

ギデオンはふと考えた。
どうしたら連中を大人しくさせることができるのか?
という事を画策するよりも、もっと楽しい方法があるじゃないかと。

さじ加減を間違えれば、騒ぎなってしまうかもしれない。
それでも、自分なら上手く立ち回れることを自覚している。
彼は彼ならではの流儀を持っている。
貴族時代に身につけたそれは、使いようによっては強力な武器となる。
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