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五十九話
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エンデリデ島、第二の街。
島の西側にある、この街の近郊にエルケリッヒ・フリードマンが住まう御殿あった。
通称、大王宮と呼ばれる城砦。
宮殿は大王であるフリードマンをはじめとし、いくつかに区分けされた島内の統治者たちが政を行う為の場所でもあった。
百五十年前までは、政治の中枢を担っていたこの場所も今や見るも無惨。
元王族一族の末裔が生活する、ただの住居でしかなかった。
彼らの祖先は、島の手つかずの地を開墾するも、成功したのは半世紀の間。
一度、発生した火山の噴火により農作物は勿論、田畑も壊滅的な被害にあった。
エンデリデ島は、資源に恵まれた地質だった。
反面、農業には適さない痩せた土地だった。
密林に入れば、それなりの土壌はあるが湿地が多く、やはり作物を育てにくい環境だった。
火山の噴火により、当時この島で暮らしていた島民は、食料難と物価高騰による貧困化に襲われた。
打開案を打ち出しきれなかった王は、たちまち島民から信頼をうしない失脚した。
現在、主を失った御殿はモーリッチ・メイフィスの所有物となっていた。
元より、宮殿の改装や修繕費などはモーリッチが負担しているのだから、誰も文句のつけようがない。
王族でもないのに宮殿を手に入れてしまった。
彼は一体、どのような気持ちでのフリードマンの死を民衆に公表したのだろうか?
その日、彼の裁判に巻き込まれた者の中には誰一として答えられるモノはいなかった。
大王暗殺の主犯格、ゼインの移送。
結局、彼の処遇はエルフたちにとって持て余してしまうモノだった。
逃亡しないように足の健を斬ったおかげで、ゼインを檻ごと運ばなければならなかった。
ジャングルから大王宮までの長蛇の列が続く。
間もなく、モーリッチの儀式が始まる。
被告人、ゼインがどうなってしまうのかは彼の運次第だろう。
手にした懐中時計を上着にしまい込み、彼には興味なさげにカバンを背負いなおした。
その裁判にギデオンは参加しなかった。
ギルドメンバーの半数が、今回のイベントにヘルプとして駆りだされている。
いわゆる緊急クエストという奴だ。
今回のように楽な仕事で結構稼げる依頼は滅多にない。
その為、受注希望の冒険者で殺到。
わずか、数分足らずで必要定員の枠は埋め尽くされてしまった。
依頼を引き受けられた者にとっては天国、そうでなければ地獄。
スリィツゥギルドの冒険者たちの命運は二極に分けられた。
ギデオンは決して枠漏れしたわけではない。
自ら、依頼を辞退したのだ。
彼らが望めば、優先してクエストの参加者として受理されるだろう。
けれど、彼にとってゼインがどうなろうが過ぎたことであり、そこまでしている余裕はなかった。
何より、モーリッチの元で働く自分が想像できなかった。
とにかく、次の目的をこなす為には準備が必要だ。
そのために、ここスリィツゥの街で色々と手続きをしなければならない。
「こちらが、セカンダリィのプレートになります。ていうか、驚きましたよ! ギデさんがメイフィス氏の依頼を受けていないなんて、皆さん目の色を変えて我先にと奪い合いでしたよ。いや~、この小さなギルドで、あんな光景を目にするとは……」
ギルドの受けつけにはメリッサの代わりに彼女の同僚であるエイミーという女性が担当していた。
メリッサもまた、モーリッチの件で出払っていた。
ニヤミスだった……彼女とは一週間近くは会っていない。
その間、メリッサがどうであったか、彼はエイミーからクドクドと聞かされる羽目になった。
親友を心配する彼女の気持ちが解からなくもない。
が、ギデオンにはそれがメリッサの為になるとはどうしても思えない。
やはり、心のどこかで彼女の父、クロイツの影がチラついて仕方ない―――――
気づくと彼は無心で路地を歩いていた。
とりあえず、セカンダリィに昇格した事で、他国のギルドの依頼を受ける事ができた。
次の依頼は共和国、大陸横断鉄道の護衛任務。
後は、ツインポートへの乗船手続きをすればすべて完了だ。
「おや? ギデ殿。どこに向かうつもりですかな?」
一匹の黒猫がギデオンの前を通り過ぎた。
辺りを見回すが周囲には人子一人いない。
「空耳だったか……」
「いえいえ、こちらですぞ。貴方のまえにいる猫です」
「まさか!? モーリッチ殿か……まったく、どんな手品を使ったんだ」
「言ったはずですよ。当方には、たくさんの眼と耳があると」
「なら、隠す意味もないな。共和国だ、そこで少し依頼をこなしてくる」
「ほうー、共和国ですか。ならばキンバリー・カイネンの元に訪れるのが宜しいかと……彼女は、宰相と深い関係であったゆえ、司教殺害事件の手掛かりが掴めるかもしれませんぞ」
「そうか……共和国にいたのか、カイネン!」
ギデオンが眼光が鋭くなった。
あの日以来、その名を忘れた事は一度たりとない。
クロイツが告白した時に出てきた人物の名前。
それは、クロイツと結託して自分を排除しようとした咎人、ギデオンにとって因縁の相手だった。
島の西側にある、この街の近郊にエルケリッヒ・フリードマンが住まう御殿あった。
通称、大王宮と呼ばれる城砦。
宮殿は大王であるフリードマンをはじめとし、いくつかに区分けされた島内の統治者たちが政を行う為の場所でもあった。
百五十年前までは、政治の中枢を担っていたこの場所も今や見るも無惨。
元王族一族の末裔が生活する、ただの住居でしかなかった。
彼らの祖先は、島の手つかずの地を開墾するも、成功したのは半世紀の間。
一度、発生した火山の噴火により農作物は勿論、田畑も壊滅的な被害にあった。
エンデリデ島は、資源に恵まれた地質だった。
反面、農業には適さない痩せた土地だった。
密林に入れば、それなりの土壌はあるが湿地が多く、やはり作物を育てにくい環境だった。
火山の噴火により、当時この島で暮らしていた島民は、食料難と物価高騰による貧困化に襲われた。
打開案を打ち出しきれなかった王は、たちまち島民から信頼をうしない失脚した。
現在、主を失った御殿はモーリッチ・メイフィスの所有物となっていた。
元より、宮殿の改装や修繕費などはモーリッチが負担しているのだから、誰も文句のつけようがない。
王族でもないのに宮殿を手に入れてしまった。
彼は一体、どのような気持ちでのフリードマンの死を民衆に公表したのだろうか?
その日、彼の裁判に巻き込まれた者の中には誰一として答えられるモノはいなかった。
大王暗殺の主犯格、ゼインの移送。
結局、彼の処遇はエルフたちにとって持て余してしまうモノだった。
逃亡しないように足の健を斬ったおかげで、ゼインを檻ごと運ばなければならなかった。
ジャングルから大王宮までの長蛇の列が続く。
間もなく、モーリッチの儀式が始まる。
被告人、ゼインがどうなってしまうのかは彼の運次第だろう。
手にした懐中時計を上着にしまい込み、彼には興味なさげにカバンを背負いなおした。
その裁判にギデオンは参加しなかった。
ギルドメンバーの半数が、今回のイベントにヘルプとして駆りだされている。
いわゆる緊急クエストという奴だ。
今回のように楽な仕事で結構稼げる依頼は滅多にない。
その為、受注希望の冒険者で殺到。
わずか、数分足らずで必要定員の枠は埋め尽くされてしまった。
依頼を引き受けられた者にとっては天国、そうでなければ地獄。
スリィツゥギルドの冒険者たちの命運は二極に分けられた。
ギデオンは決して枠漏れしたわけではない。
自ら、依頼を辞退したのだ。
彼らが望めば、優先してクエストの参加者として受理されるだろう。
けれど、彼にとってゼインがどうなろうが過ぎたことであり、そこまでしている余裕はなかった。
何より、モーリッチの元で働く自分が想像できなかった。
とにかく、次の目的をこなす為には準備が必要だ。
そのために、ここスリィツゥの街で色々と手続きをしなければならない。
「こちらが、セカンダリィのプレートになります。ていうか、驚きましたよ! ギデさんがメイフィス氏の依頼を受けていないなんて、皆さん目の色を変えて我先にと奪い合いでしたよ。いや~、この小さなギルドで、あんな光景を目にするとは……」
ギルドの受けつけにはメリッサの代わりに彼女の同僚であるエイミーという女性が担当していた。
メリッサもまた、モーリッチの件で出払っていた。
ニヤミスだった……彼女とは一週間近くは会っていない。
その間、メリッサがどうであったか、彼はエイミーからクドクドと聞かされる羽目になった。
親友を心配する彼女の気持ちが解からなくもない。
が、ギデオンにはそれがメリッサの為になるとはどうしても思えない。
やはり、心のどこかで彼女の父、クロイツの影がチラついて仕方ない―――――
気づくと彼は無心で路地を歩いていた。
とりあえず、セカンダリィに昇格した事で、他国のギルドの依頼を受ける事ができた。
次の依頼は共和国、大陸横断鉄道の護衛任務。
後は、ツインポートへの乗船手続きをすればすべて完了だ。
「おや? ギデ殿。どこに向かうつもりですかな?」
一匹の黒猫がギデオンの前を通り過ぎた。
辺りを見回すが周囲には人子一人いない。
「空耳だったか……」
「いえいえ、こちらですぞ。貴方のまえにいる猫です」
「まさか!? モーリッチ殿か……まったく、どんな手品を使ったんだ」
「言ったはずですよ。当方には、たくさんの眼と耳があると」
「なら、隠す意味もないな。共和国だ、そこで少し依頼をこなしてくる」
「ほうー、共和国ですか。ならばキンバリー・カイネンの元に訪れるのが宜しいかと……彼女は、宰相と深い関係であったゆえ、司教殺害事件の手掛かりが掴めるかもしれませんぞ」
「そうか……共和国にいたのか、カイネン!」
ギデオンが眼光が鋭くなった。
あの日以来、その名を忘れた事は一度たりとない。
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それは、クロイツと結託して自分を排除しようとした咎人、ギデオンにとって因縁の相手だった。
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