異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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五十八話

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土産と称した賄賂わいろ
そう疑っても不自然ではなかった。
金銭的にストイックなモーリッチが、物を寄こすのは何か裏の意図が隠されている。
ギデオンも当然、警戒する。

「これは? どういう風の吹き回しなんだ?」

「ひょひょっ、貴方が今、一番に欲しているモノですな。これ、ふたを外して見せい」

モーリッチに指示された男が箱を開いた。
中には、赤子ほどはあるの大きなつぼみが入っていた。

「これは、植物なのか……触っても?」

「えっ! えっ! その為に持ってきたのですから、存分に確かめて下さい」

さしもの、ギデオンも思いがけない対面に動揺を隠せないでいた。
震える手で蕾の表面に触れる。

「暖かいぞ、生きているのか!?」

「左様。この蕾は貴方がアルラウネと呼んでいた魔物が残した新しい命。分身体とでもいいましょうか? ジャングルが焼け落ちる以前に、そこの男が拾い上げてきたものです」

「どうしてアルラウネのことを知っている? それにモーリッチ殿、アンタの目的は一体なんだというんだ。此処には何か理由があって来たのだろう!?」

「まぁ、訊かれたことを一々、答えていては商人はつとまりませんぞ。それなりの眼と耳を持っていると伝えておきましょう……当方が来た理由ですか? 勿論、貴方と交友関係を築く事にありますな。商人として勝ち馬には乗っておきたいですので……それから、そちらで預かってもらっているゼインの回収を」

「ゼインの回収だと!!」

ギデオンの声が荒くなる。
ゼインの事を知っているとなるとモーリッチが裏で奴隷売買の手引きしていた。
そう、考えるのが妥当だ。
ギデオンの豹変した表情を目にし、モーリッチは慌てて手を横に振る。

「カン違いなさらぬように! こちらは、エルフの奴隷売買には関与しておりませんぞ。あれは、維持費がかさむので稼ぐには一辺にたくさんの奴隷を売りさばかなければ採算がとれませぬ」

「つまり、別件でエンデリデ島に来ていたという事になるな」

「その通りでございます。ゼイン並びにヴォールゾックという男たちはフリードマン大王、殺害により逮捕状が出ております」

「フリードマンが既に……奴らの逮捕は警ら隊の管轄かんかつだろ?」

「フリードマン殿は、王族とは名ばかりで、我らに多額の融資を受けておりました。彼には借りたモノを返す義務がありました。それを強盗ごときが踏みにじってくれたおかげで、返済に目途が立たなくなってしまったのです! これをどう許せば良いというのでしょう!? 是非とも奴に立替払いさせないと、当方の憤りはおさまりませんぞ」

「それで、王国の手が回る前に躍起になって動いていたというのか……そうだとしても、ゼインの身柄を抑えているのは、被害者たるエルフだ。交渉でどうにかなる相手ではないぞ」

「ならば、せめて面会させてもらえるように取り次いで下さいますかな?」

モーリッチの申し出に彼は思案した。
面会だけなら、特に問題なさそうではあるが……。
商談における百戦錬磨の男が村のエルフに対し、変な取引を持ちかけてくる恐れがある。
モーリッチの怖い所は人畜無害ように見えて、結構エグイことを目論んでいたりするところだ。

答えを模索する彼のジャケットコートの袖を、ローゼリアが引っ張る。
心なしか、モーリッチの方へ視線を向けないようにしている。

「ギデ……あの人間と関わるのは、よした方がいい。嫌な感じする」

「心得ているさ。だからこそ今、彼を敵に回すのは危険だ。こちら側についてくれるなら、それに越したことはない」

「流石に、物分かりが宜しい!」

「話は族長たちに通しておこう。それで……」

「当方はしばらく、大王宮に滞在するつもりです。連絡係りとして、この男をスリィツゥの街に置いておきましょう」


どこぞの王様が使うような神輿みこしに担がれ、モーリッチはジャングルを去ってゆく。
彼から貰ったアルラウネの蕾をギデオンがギュっと抱きしめる。
かすかに伝わってくる胎動たいどうは彼女が、ちゃんとそこにいるという事を教えてくれている。

「良かった、もう会えないかと思った……アルラウネ、待っていてくれ。必ず、元に戻してやるからな!」

「嬉しそうで何より。集落に戻ろう、族長たちに色々とホウコク」

「そうだな。果樹園のことを含めて皆で決めていかなければいけないな」


ローゼリアと共に山道へと向かう。
その矢先、ギデオンのステータス画面が起動し開いた。
歩帝斗からの連絡だった。
連絡を受けギデオンはすぐにつなげた。

「よう! 先日、送ってもらったゲートの使用ログから、ミルティナスが転移した先が判明したぜい!」

「早いな、それで行先は?」

「共和国、西のツインポートという街の傍にある聖域に向かったようだ」

「気になったんだが、これ女神が聖域を使用しなかった場合はどうなるんだ?」

「Don't worry。どうにかなるさ! その為にお前には俺のベースアビリティを授けたんだ」

「また、それかぁー」

何かにつけて心配するなと言う歩帝斗の口癖に、飽きれた声を上げる。
神の意向により共和国までの行かされる身のギデオンにとっては、早速――大丈夫どころの話ではなかった。  
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